ⅩⅠ・御礼閑話 らのべ日和
アクセス数急上昇御礼閑話~
――2013年 猛暑に苛まれる夏の日
「倉田。全部読んだぞ」
ある猛暑日のことだ。
倉田が白井の部屋で微睡んでいる中、突如巨漢の青年小野寺があらわれ、重量感ある段ボールを片手で軽々と乱雑に投げつけられた。
「ふぇ?」
「言われた通り、読了してきた」
段ボールの口が開き、中からは大量の書籍がこぼれ出す。
「な、なななな、なに投げつけてやがるんですか! この筋肉バカ!」
全体的に肌色が多い書籍の山。
倉田の大事な愛読書である。
雷撃、不死身ファンタジー、角山シューズ、ギャギャギャ、イジェクトブレインからはじまり官能系の二次元ドリーマー、ぽちぱら、さらにはBL系の角山サファイアやシナモンなどなんでもござれだ。
そしてその大事なコレクションが突然目の前にぶちまけられたのだ。それは倉田が怒るのも当然であろう。
「全て読んできた……これで満足か」
よくみると小野寺の目の下には隈がくっきりと浮かんでいる。
これらを貸したのは一昨日のはず。速読の小野寺にしても早過ぎる。
まったく寝ていないのは間違いあるまい。
「ふ……いいでしょう」
倉田はその意気込みを評価し、小野寺を座布団に座るよう誘導した。
◇◆◆◆◆◆
「で、いかがでしたか?」
「あ?」
抽象的かつ漠然とした質問を受け、小野寺は眉をひそめる。
「だからいかがでしたか? 感想ですよ、感想!」
本当に漠然とした質問だったようだ。
「ん~……ぁぁ……まぁ、なんだ……」
「はい」
「…………なんか吸血鬼が多いな? 流行ってんの?」
はて、吸血鬼。そんなに多かったかと思い返す倉田。
(この中にあるものだと、先ず思い浮かぶのは……異常なまでに筆が早い東尾先生の『語モノシリーズ』。あれは主人公の亜漁木美代子ちゃんが吸血鬼だったな。そして三雪先生『ストブル』の青月五条。『謹書』の名前なんだっけ……あの子、えと、あの子もそんな能力持ってたし……。『ハイスクールZ×Z』のガー君もそうか。あとは『歯が無い』の子鳩も自称してたよな。『バカ試験』のスケベーニの召喚魔獣が吸血鬼化したことあったっけ。そういえば『デラララ!!』のゼレデーが吸血鬼と遭遇したことがあるはずだ。『これ損』……あれは忍者だよな。まさか『ガンビローネ』のサニーのマントも対象なのか?!……他には……)
「と思ったけどそーでもないかぁ。いや、『語モノシリーズ』が結構インパクトあってそんな印象しただけだ。続きが気になるな、がはは」
「うぉい!」
「あ……それと、なよなよしたオカマっぽいのが結構な色んな作品に出てた気がするが、アレって男女どっちが多いんだろうな?」
(オカマ……まさか男の娘のことを言ってるのか、このオヤジ。ざけんな!でも、えっとどっちだっけ。『バカ試験』の信長は中間として、『Z×Z』のガー君は男。『俺蛙』の東戸塚は可愛いケド男。『ナル子』のハムスタも男。『竿』のキリヒト……はアレはカウントしなくていいか。逆に女は『マヨネーズ鶏』のバルス、『歯が無い』の村雪、『お似合い』の金太郎、『俺阿修羅』のカオラも多分そうだよな。っつーかときメモの頃からのお約束だろう、この辺は……ん~~)
「ま、どっちにしろ軟弱だよな、どうでもいいわ」
「ぶふぅ!」
倉田の胸にドス黒い炎が灯ったことは言うまでもないだろう。
◇◆◆◆◆◆
「主任……で、私が聞きたかったのは、どの作品が面白くて、どの作品がつまらなかったかという感想なのですが……」
「面白い……つまらない……だと?」
小野寺の目が冷たく、そして鋭く光る。
「はい、ざっくばらんに感想を――」
「このうつけが!!」
「ひぃぃっ」
倉田は毎度お馴染みの既視感を感じる。またいつものパターンだ。
小野寺はじっくり倉田に言い聞かせるように静かに問う。
「なぁ倉田。面白い、つまらないの定義ってなんだ?」
「定義……って、そんなの言葉のままじゃないですか?」
「バカ野郎!」
「?!」
「いいか。倉田。俺が俺基準で面白いつまらないを決定するのは簡単だ、そのまま今思ったことを口に出せばいいんだからな」
「それのどこがいけないんですか?」
評価は正当にする。不正は悪だ……小野寺からそう叩き込まれている倉田としてはその言葉は納得いかない。
「例えばだ、俺がガキの頃、ファミコンでドラクエをやっていたことがある。あれは名作だった」
「わたしもリメイク版ならやったことがありますよ」
「リメイク版というと復活の呪文をかき取らなくてもいいやつだろう」
「はい、そうです」
何十文字もパスワードを毎回記録するなんて罰ゲームにも等しい。
それが当たり前の世代があったことすら倉田には疑わしく思える。
「もし、お前が今当時のファミコン環境でゲームをやって『面白い』と感じるか?」
「い……いえ、それは面倒臭いだけですね」
「いかに不朽の名作と称えられても環境や時代背景で面白いつまらないなんて変わってくる」
それは同意できる。昔好きだった漫画を大きくなってから読み返した時、懐かしいなぁという気持ちは湧くが、作品としては微妙だったという経験が多々あった。
「似たような言葉で言うと『上手い』『下手』。『美味い』『不味い』もそうだ」
「はぁ」
「部内の宴会でカラオケに行った時、部長の採点が低かったとして『部長下手ですね』と言うか?」
「いや、宴会の歌は楽しんだり盛り上げたりするものですし。例え知らない演歌を延々と聞かされたとしても嫌な顔せず拍手はできますよ」
ハッキリ告げた時点で出世は断たれそうだ。
想像するだけで鳥肌が立ってくる。
「親友が信仰するほどハマってるヘビメタバンドのCDを聴かされたたとする。お前の趣味とは合わなかった場合、お前はこのバンド下手だなぁ、と乏しめるのか?」
「それは……良い曲だけど自分の好みのジャンルとは違うことをやんわり告げますよ」
程度にもよるが、本当に相手が好きなモノを正面から馬鹿にするほど倉田も子供ではない。
「旅行先で現地の人が主食とする真心がこもったゲテモノ料理をだされた時、なんていう」
「……疲れて食欲がありません」
「付き合ってる彼女が一生懸命作ってくれた料理が塩コショウの配分間違えていた。そして黒焦げだった。どうする?」
「うん、愛情がいっぱいこもってるね」
「さぁどうだ? お前は全ての作品に自分勝手な「優劣」をつけることが大切だと本当に思うか?」
「…………」
「文化の違い、時代や価値観の違い、趣味の違い、それを鑑みないで本当にそのモノの価値が分かったと言えるのか?」
「…………」
「『現時点では技巧が稚拙なだけ、知識が偏っているだけ』ただそれだけの理由で一生懸命作られた熱意や真心をすべて否定できるのか?」
「…………」
「俺ならばお前が面白いと思うものの欠点を羅列することもできるし、おまえがつまらないと思うものの美点を羅列することもできる」
「……じゃあ、どうすれば」
小野寺の言い分は理解できる。だがそれを認め受け入れた時点で作品に対して感想を述べることができなくなってしまうのではないだろうか?
「簡単なことだ。評価を『面白い、つまらない』の白黒結果をつけることから始めるのではなく、まず『合う、合わない』の入り口から選ぶことだ」
「入り口……ですか」
「そして仮に『合わない』とおもったものでも欠点に目くじら立てるのではなく、美点を探せ。絶対にある。小学生の作文だろうが、精神異常者の手記だろうが、反日の……まぁこれは面倒なんでいい、とにかくそれを続けてみろ」
小野寺は倉田に対し「大きな度量」を持てと告げている。
倉田にもそれは分かる。
分かるのだが。
「主任……一ついいですか」
「なんだ?」
「こないだ提出した報告書の採点、『意味不明、書き直せ』の赤文字だけで突き返されたのですが」
「まぁ……なんだ。コホン。ま、小さいことは気にするな!」
「台無しですよ!」
以上。オマケ閑話でした。




