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陽炎 十八

 スタンドから眺める野球には、またひと味違ったものがある。両校の応援で左右のスタンドから放たれる声援や単に野球が好きなオジサンとか、俺たちのように次に当る相手の視察をする者など。観る視線がそれぞれに異なるひと達が一同に座っているからだ。

 俺たちはバックネット裏の中段辺りに腰を降ろしていた。

「マキっ」

 ペットボトル片手にヤマが隣りに座ってきた。「どう見る?」いつにも増して真剣な声を発していた。

「勝つだろ」俺はニッとヤマに笑みを見せた。「カジは勝つよ。そして俺たちの前に立ちはだかってくるよ。間違いなくね」

 ヤマは視線をグラウンドに戻して言った。

「順当に行くと、そうだよな」

 その表情は不安そうな面持ちだった。

「でも・・・」俺はヤマのペットボトルを取り上げた。「関係ないんだよな」

 ヤマは再び俺を見た。

「誰がこようとさ」

 ふっ、とヤマは鼻から息を抜いた。相変わらずだな、と言わんばかりに。

「ヤマ。思わないか・・・」

「何が」

「不幸だって言ってるのさ」

「誰が」

「北海道にいるすべての高校球児がだよ」

 言っている自分も恥ずかしくなるくらいの台詞を口走っていた。ヤマは俺の肩をポンと叩き「その意気だ」と呟いた。


 準決勝・第2試合は、俺の想像を裏切る展開が続いた。

 3点ビハインドで迎えた8回の裏。カジの一発で決まった。結果的にはカジが勝った。でも結果的には勝ったが、見方を変えると怖い試合でもあった。自分があのような試合でマウンドの立っていたらと思うとゾッとした。俺は後輩の堀内の心中を察していた。

 博打のような勝利は、次への保障を感じさせてはくれない。一見派手に見えるサヨナラホームランでベンチ内は盛り上がってはいるが、決して諸手を挙げて喜ぶことなんてできないはずだ。だってそれまでは負けていたのだから手応えなど感じるはずがなく、次への自信に繋がらないのが現実なのだ。

 それでも次に対戦するのは事実で、間違いなく俺たちの前の障壁となる。ベルリンの壁のようにブ厚くて、そして万里の長城のように険しくだ。

 試合終了の整列時、向かい合っている両チームは非常に対照的に見えた。カジのチームが勝ったのだが、俺の目にはそうは映っていなかった。これが春の大会の恐ろしいところなのだと、痛感させられた。勝ったはずのカジたちは背中を丸め、今にでも膝から崩れ落ちそうなほどの落胆ぶり。カジたちは見せすぎたのかもしれない、彼らの実力を。

 通用するのはエースの堀内しかいないと露呈してしまったこの試合。出てきた2番手、3番手がひとつもアウトを取れずにひろげてしまったピンチ。そこで出た層の違い、力の差。マウンドに戻り奮闘した堀内だったが、奮戦むなしく打込まれてしまった。

 取られたのが3点だったのが災いしたように見えた。それが4点や5点であったのなら、カジのチームの監督も変に意地を張らなくて済んだのではないだろうか。

 多分、夏でまた対戦するような事があれば、カジたちに次はないかもしれない。その余裕の無さが、あの対照的な整列に出ているように思えた。

 ホテルへの帰路。隣りに座るヤマがそっと口を開いた。

「俺たちも・・・」

 流れる景色を見ていた俺は、その言葉に引っ張られるように視線をヤマに向けた。

「出し過ぎじゃないかな」

 脳裏にはカジの背中が映っていた。あんなに小さく見えるカジは初めてだった。俺はまた窓の外に首を戻した。

「次はもう少し・・・」

「ヤマっ」

 呼ばれたヤマは身を乗り出した。

「俺たちにはそんな選択肢はないよ。余裕なんて見せれる実績も、経験もな」

 ヤマは俯き、小さく頷いた。

「例え、手の内を見せて負けたからって悔やむことはないじゃないか。だってそれが俺たちの実力なんだから。逆に圧倒的な実力で相手に劣等感を植え付けるくらいに全力で挑もうぜ」

 それを聞いたヤマの表情は、先ほどまでとは打って変わって晴れやかなものになっていた。

「そうだよな。俺たちらしくやればいいんだよな」

「ああ、そうだ」

 俺の視線の先には赤く染まりゆく夕焼けが広がっていた。また明日がやって来る。その先には明後日、明々後日と、未知なる歪路が待ちかまえている。俺たちが突き進んでいくでろう未来は、果たして栄光へと繋がっているのであろうか。

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