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第陸幕:それぞれの夜

 夜の町。ザワザワとした通りの中でも凛とした雰囲気の店がある。それがスナック「ミチ」だ。


 「美知香さーん! 御代わり!」

顔を赤くした犀がコップをつき出す。美知香はハイハイ、と笑顔でそれを受け取った。

「どうしたの? 犀さんがそんなに酔うなんて珍しい」

美知香は着物を見事に着こなし、優雅にお酒を注ぐ。

「そうかい? オレにも酔いたい日はあるもんさ」

へへへ、と犀は力なく笑った。美知香はふふ、と笑い返した。

「分かった。梗哉君のこと、でしょう?」

美知香は人指し指でトンッと犀のオデコをつついた。

「……さすが、美知香ママ。怖ッ!」

つつかれたオデコを摩りながら、犀は身震いした。美知香は相変わらずのニコニコ顔だ。

「梗哉君、まだ継がないと言っているの?」

「あぁ。強情なガキだよ、全く」

頭を掻きながら、犀はブツブツと文句を言う。

「だーから、オレはガキが嫌いって言ってあんのによォ」

「あら、犀さん。私、子供を連れてたのを見たことあるわよ?」

美知香は意地悪な笑いを見せた。犀は頭を抱える。

「やだなぁ、こーゆー子は!」

「失礼ね。大人の女に対して『子』はないでしょ?」

犀は盛大な溜め息をついた。

「女に隠し事は出来ないものよ」

「……あれはオレの子じゃ、ねェよ」

美知香はキョトンとした顔で犀を見た。犀は少し苦笑いした。

「というか、名前も知らん。勝手に消えたしな。まだ生きてんのかなー?」

「そう。ねぇ、今日の犀さんはちょっと変よ?いつもは上手にはぐらかすのに」

「そぉ? じゃあ、聞かなかった事にしてくれェ」

犀はクイッと残りの酒を飲み干した。



 梗哉は父親に設けられた自室に一人佇んでいた。

「はぁ」

溜め息をつき、ベッドに倒れ込む。天井には銃弾の痕がいくつか残っていた。

「……誰が継ぐかよ」

ボソリと独り言を言う。

「オレは、まともな人間なんだ……」

梗哉はゴロリと寝返りをうった。そのまま動かない。

「情けねェ。独りで生きてく勇気もないとは……」

梗哉の呟きが室内に静かに響いた。



 「オヤジ」

ガラリと謙太郎は骨董品屋の扉を開ける。店内はもう暗い。

「……上がれ」

店の奥から佐仲の声がした。謙太郎はそれに従い、奥の佐仲の家へ上がった。

「オヤジ、聞きたいことがあるんだ」

そう言う謙太郎の顔は情けなく笑っていた。佐仲はフン、と鼻を鳴らす。

「あの、さ、明花ちゃんって、アンディゴのメンバーだった?」

「何故だ?」

チラリと謙太郎の方を見る。

「門川のパン屋が見た子の腕に、アンディゴの刺青が彫ってあってさ」

「……知らんな。一年ほど、明花には会ってないからな」

「そっか」

さっきから謙太郎は佐仲の顔を見ず、下ばかり見ている。佐仲は黙った。

「それならいいんだ。夜分に悪かったね」

謙太郎が去ろうとした時、佐仲が口を開いた。

「わしが明花だと思った子も刺青をしてた。真っ青な、な」

謙太郎は苦笑いし、それから店を出た。






あいつが生きてるって 


知ってるよ


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