第伍幕:満井梗哉
チーム・アンディゴ。元は夢を持った若者の、若者らしい抵抗をする位の団体に過ぎなかった。しかし15年程前にリーダーが過激派に変わった。そのためチームは一変してしまったのだ。それからアンディゴは街の厄介者集団となった。
「アンディゴねぇ。おい、謙太郎!」
犀の呼び掛けに、謙太郎は反応しなかった。うつ向いたままだ。犀はふぅ、と息を吐いてから、ポンポンと謙太郎の頭を叩いた。謙太郎が顔を上げると、フッと笑った。
「ま、いいや。で? 門川君、その子がどこ行ったか知らない?」
「悪いけど、悲鳴が気になって見てないんだ」
門川は申し訳なさそうに言った。
「そうか。いや、助かったぜ。ありがとよ!」
犀はそう言いながら外に出ようとした。
「ちょっと待った!!」
謙太郎と梗哉が振り返る。門川が犀の手を掴んでいた。
「湍水さん、お金!!」
犀が門川の顔を見ると、門川はニヤリと笑っていた。スッと門川がポケットに突っ込まれた犀の手をあげると、パンが持たれていた。謙太郎はまたか、という顔をする。犀が門川に気づかれるようにパンを取っていくことを知っているのだ。
「……ツケといて」
「ダメです」
はぁ、と犀は息をついた。大人しく財布を取りだし、お金を出した。そして三人はパン屋を後にする。
「おーい、ガキ!」
公園のベンチに座った犀は、自動販売機でコーラを買っている梗哉に声を掛けた。
「なんだよ」
「オレ、無糖コーヒー!」
犀が梗哉にニッコリと笑いかける。
「はぁ? ヤだよ」
梗哉はコーヒーを買うことなく、ベンチに戻ろうとした。
「パン、やるから!」
バッとさっき買ったパンを見せた。梗哉は無言でベンチの方に進む。
「チッ、生意気なガキだ。ほらよ、金!」
犀はポイッと缶コーヒー代120円を一枚一枚投げる。梗哉はそれを上手くキャッチした。
「それでいいだろ?」
煙草に火をつけながら、犀が言った。梗哉は振り返って、再び自動販売機の方へ向かった。
「よーしよし、良い子だ」
隣に座った梗哉の背をバシッと叩いた。梗哉は犀を睨んだ。
「……ケンは?」
さっきから謙太郎の姿が見当たらない。
「謙太郎は頭に報告。あとお前を見つけた事も言わなきゃならんからな」
フーッと煙を吐き出した。
「で? お前、これからどーすんの?」
「何が」
「組だよ、組」
「継がねェ」
「ま、オレはそれでもいいんだがな」
犀は再び煙を吐く。キレイに輪っかが出来た。
「そういや、お前の前の名前って何だっけ?」
「満井」
ふーん、と犀は呟いた。
「じゃあ、お前は満井梗哉に戻るのか?後を継がねぇって事は、そーゆー事だぜ」
「……」
梗哉は返事をしなかった。
それは
遠まわしに
また
一人になれ、と?