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第壱幕:お頭の愛息子

真夏のざわついた下町をだらしなくスーツを着た男がダラダラと歩いていた。

「あっちィな」

手をうちわ代わりにパタパタとさせる。口からは溜め息とくわえた煙草の煙しか出てこない。

「犀の兄貴!」

犀と云う男の後ろで貫高い声がする。声の持ち主は金髪の青年だった。

「謙太郎……おめェ、その呼び方止めろと何度言ったら」

「大変ッス!」

謙太郎と呼ばれた青年は犀の言葉を遮った。犀は再びハァと溜め息をつく。

「お前、人の話を聞かない時あるよね」

「ぼっちゃんがまた脱走しました!!」

犀は頭をボリボリと掻いた。そして本日何度目かの溜め息を吐いた。

「またか、あのクソガキィ!!」



 「で? 今度は何が原因なんだ?」

犀はガタッと机に乱暴に手をつく。縦縞の黒スーツを着て葉巻を吸っている貫禄のある男は、情けなくうなだれた。

「……跡継ぎ」

「ねえ! 何度目!?」

犀は大声をあげた。ここ数カ月、同じやり取りを何回もしているからだ。

「仕方ないだろ、湍水。オレはどうしてもアイツに継いで貰いてぇんだ」

「頭ァ、気持ちは分かるが、毎度毎度ボウズを探さなきゃならねぇオレの身にもなってくれよ」

頭と呼ばれた男は、スマン、と頭を下げた。犀は困った顔をしながら部屋を出た。どんなに文句を口にしても、やはり仕事を投げ出す訳にはいかないのだ。



 湍水犀(ハヤミサイ)。年齢不詳、葛西組の古株だ。しかし重役につくのではなく自由に動ける立場に甘んじている。いつもだらしなくスーツを着ている。

「おい、ガキ! そこにいるのは分かってんだよ」

そして、頭の息子の教育係でもある。本人はまっ先に断ったのだが、頭きっての申し出の為、最終的には嫌々ながら務めている。

「ガキじゃねェ!!」

姿を現したのは、頭自慢の息子、葛西梗哉(カサイキョウヤ)だ。今年で18歳になる。

「そうすぐに熱くなるのがガキだっての」

煙草の煙で輪を作りながら、犀がケラケラと笑った。梗哉は更にムッとした顔になる。

「さっ、ぼっちゃん。帰りましょ?」

犀の三歩後ろから、謙太郎が声を掛ける。しかし梗哉は気にもかけない。

「ホラ、帰るぞ。こっちは迷惑してんだからよォ」

「うるせっ! ジジーはさっさと隠居しろ!」

ケッと梗哉が悪態をついた。一気に犀の表情が変わった。

「てめェ! オレはジジーじゃねぇ!! まだ若いッ!」

「黙れジジー!!」

「ちょっと二人とも……」

お互いの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうな二人を謙太郎が必死になだめた。苦労するのはいつも彼だった。

「犀の兄貴も落ち着いて! 子供相手にムキになって、どうするんスか」

「ケン! お前だって十分ガキだろ!」

梗哉は謙太郎にも食ってかかった。

「ぼっちゃん、オレはもう22ですぜ? 立派な大人さ」

「見た目は中坊だけどな」

「犀の兄貴!」

ケケッと笑ってからかう犀に、謙太郎が文句を言った。笑っている犀は20代に見えるが、一度真剣な顔になると30歳にも見える。髪をワックスで固めていないお陰で40歳に見えることはない。

「とにかく帰るぞ」

グイッと犀が梗哉の手を引いた。梗哉はそれに必死に抵抗する。

「キャアァァ!!」

「!?」

通りの向こうで叫び声が響いた。梗哉が気が付いた時には、犀と謙太郎は既に駆け出していた。






二人の後を追い掛けてるのに、追い付かない。


体力には自信があったのに。


これは


震える足のせい?



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