第拾参幕:潜入ブルー・コア
「なぁなぁ、梗哉君!」
「……その“梗哉君”ってのはおかしくないか?ダチなんだろ」
「そやねー! じゃ、何て呼べばええ? きょうやん?」
「普通に呼び捨てでいいだろ」
「つまらんやん! でも梗哉君が嫌なら仕方ないな。じゃ、梗哉、行こか!」
金髪にサングラスの梗哉と赤髪の信弥はチーム・アンディゴの拠点となっている寂れた駐車場へ向かった。先程、脩平から受け取ったメモ用紙に記してあったのだ。アンディゴのメンバーはその場所を“ブルー・コア”と呼んでいるらしい。ブルー・コアに近付く程、目付きの悪い少年少女が増えて来た。
「いやぁ、やっぱ悪そうな奴らばっかやねー」
「実際、オレ達も同じだと思うけどな」
「やんな! それは言えとる」
ニコニコと笑う信弥を小突く。周りの目付きが厳しい分、穏やかな目付きは目立つのだ。潜入しているのだ、目立ってはいけないことは梗哉もよく分かっていた。
「……梗哉君、オレはオレの出来る限り、梗哉君を守るよ。やから無茶はせんといてなぁ」
「守られる筋合いなんてねぇよ」
「片意地張るなや!」
信弥は口を尖らしたが、梗哉は気にせず前に突き進んだ。ここに来て、自分は守られてばかりだと身に染みた。梗哉にはそれが嫌で仕方なかった。
「オレ達もチーム・アンディゴに入れてくれねぇか」
ブルー・コアの入り口で、信弥は似合わない標準語で言った。普段はへらへらしてる表情がキリッと引き締まっている。
「チーム・アンディゴは来る者拒まず、だ。いいだろう、ついて来い。薄田さんに会わせる」
薄田というのは、アンディゴの現リーダーの名前である。脩平のメモにも載っていた。梗哉はその名前に反応して、身体がピクリと動いた。
「薄田さんは気が短いのでここらで有名なんだぜ。せいぜいバカなこと言わねぇように気をつけるこったな」
案内をしてくれている男がニヤニヤしながら言った。首筋にある青い刺青に目がついた。
「そいつが気に入って、仲間にして貰おうと思ったんだ」
「へぇ、じゃ楽しみにしてるぜ。お前らの働きを」
梗哉はアンディゴというチームが実際何をしているのか知らない。彼の言う“働き”の意味が汲み取れないのだ。隣を歩く信弥を見ると、どこか苛ついた顔をしていた。
「こっちだ」
男が非常階段のドアを開ける。そこには駐車場にも関わらず、ソファーなどの家具が多く置いてあった。その真ん中に、人が固まっている場所がある。
「薄田さん、コイツらも仲間に入れて欲しいって言ってて」
男は梗哉達を紹介した。薄田と呼ばれた男は、集団の中の中心の一番大きなソファーで胡座をかいていた。黒い髪に金や赤、紫のメッシュが際立つ。梗哉が今までに出会ったことがない、冷酷な眼をしている。
「……へぇ、名前は?」
薄田はへらりとでもなく、にやりとでもない、不気味な笑い方をした。
「シンヤだ。で、こっちがオレの弟分のキョウヤ」
梗哉は信弥の発言に思わず苦い顔をしてしまう。打ち合わせではそんなこと、一言も言わなかったのだ。信弥としては弟分という位置付けをしておいた方が梗哉を守りやすいということなのだろう。
「弟分? 喋れないの、コイツ」
「馬鹿にすんな」
少しキツめに言ったら、信弥に咎められた。初めから目を付けられる訳にはいかないのだ。案内をした男は楽しそうにニヤニヤしている。
「……キョウヤ、口の聞き方には気をつけないとな。自慢の金髪、剃っちゃうよ?」
梗哉は内心、バカが、と悪態をついた。本来は黒髪なのだ、自慢も糞もない。しかし梗哉はフッと笑った後、すみません、と言った。
「そういえばシンヤ、キョウヤ、刺青は入れた?」
「ああ」
そう言って、信弥は左腕を見せた。続いて梗哉も左腕を見せる。先に脩平に刺青のシールを貰い、貼っておいたのだ。
「準備がいいんだね。もしここでオレが駄目だと言ったらどうするのさ」
「来る者を拒まないと聞いたから来たんだ。それにこれはオレ達の意志だ」
「漢だねぇ」
薄田はクスクスと笑う。梗哉にはそれが不快でならなかった。つい睨みそうになる目を伏し目がちにして誤魔化す。
「うん、いいよ。入りなよ、アンディゴに。君ら、気に入ったから」
そうして薄田は言った。
「ようこそ、青い楽園、チーム・アンディゴへ」
楽園にあるのは
自由と
青さと
暴力と。