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第拾弐幕:見舞い

 犀が一番最初に始めたことは、梗哉の監視ではなく見舞いだった。勿論、例の女性、山河友海(やまかわともみ)のだ。

「具合どう?」

初対面なのに犀は馴々しく声を掛ける。友海は不信感を含む目付きで犀を睨み付けた。

「初めまして。ホラ、救急車読んだの、オレ」

犀の言い方が恩づけがましかったので、謙太郎は呆れたように犀をチラリと見た。

「……ありがと」

友海は注意しないと聞こえない位の大きさで礼を述べた。

「おっ、礼儀正しいんだな! 感心感心」

「何の用?」

相変わらず目付きはきつい。救急車で病院に運ばれた後、友海の怪我は全治二週間と診断された。刺し具合は深かったが、対応が早かったために大事には至らなかったのだ。

「君を刺した友達について聞きたいことがあるんでねぇ」

「私は何も知らないわ。警察にもそう言ったじゃない」

「生憎、オレ達はサツじゃないもんで。も一度説明して欲しいなぁ」

犀はベッドの隣に置いてあった椅子にドカリと座った。大股開けた座り方は、妙に様になっている。

「もしかして……葛西組?」

「その通り!」

「……私は、何も知りません! 帰って! 帰って下さい!」

葛西組の人間だと分かると、友海の様子は豹変した。急に焦り出したのだ。

「大丈夫だよ、別に暴れにここに来た訳じゃねェんだから」

犀はこう言いながら煙草に手を伸ばしたが、パシッと謙太郎にその手を弾かれた。病院内は勿論禁煙なのだ。

「容疑者の……左仲明花ちゃんのことは、勿論知ってるよな?」

「知ってるわ」

「アンディゴで知り合った。違うか?」

友海はぐっと唇を噛んだ。

「そうよ、私も明花もアンディゴのメンバーだもの」

ギロリと先程よりも更にきつい目付きで犀と謙太郎を睨んだ。謙太郎はどこか複雑な気分になった。

「そいつァ、気が合うな! ここの金髪もアンディゴOBなんだ」

「……え?」

犀の発言に、謙太郎も友海も驚いた。謙太郎はまさか自分の話が振られるとは思わなかったのだ。

「よくまだこの街で生きていられるわね」

友海は吐き捨てるように言った。アンディゴの現メンバーとしては、脱退は裏切りであるのだ。謙太郎は複雑な気持ちの原因はこれか、と納得した。

「……オレが居た時のアンディゴと今のアンディゴじゃ、体制から何まで全然違うんだよ」

「あぁ、じゃあアンタも貝原の手下だったんだ」

友海の馬鹿にしたような言い方に少しムッとする。謙太郎にとって、チーム・アンディゴとは貝原だったのだ。

「いいじゃねェか、昔話はもう。オレがついてけないからな」

犀は険悪な空気を感じて止めに入った。しかし実際は犀自身も貝原の事件には大きく関わっていたのだ。

「とにかく確認しておくが、アンタを刺したのは佐仲明花なのか?」

「……」

「オレ達は警察とは違うんだぜ?」

「犀の兄貴、アンディゴは仲間を売らないんスよ。今はどうか知らないけど」

謙太郎は棘のある言い方をした。友海は謙太郎を再び睨んだ。

「自分を刺した奴だぜ?売るとか売らないとかの問題じゃねェんじゃないか?」

「明花はチームの中でも特に気が弱かったのよ。絶対誰かに脅されたんだわ」

「ということは、刺したのは明花ちゃんで間違いないな?」

「……」

犀はガクリとして頭を抱えた。そして恨めしそうに取り上げられた煙草を見た。

「まぁいいや、埒があかねェもんな!アンタが明花ちゃんを庇いたいのもよく分かった!とにかく今は一日でも早くよくなることだ」

犀はそう言うと、椅子から立ち上がり友海の頭をくしゃっと撫でた。そして病室から出て行った。残された謙太郎は友海を一瞥した。

「……薄田(うすだ)はまだトップにいるか?」

少し皮肉な笑い方をして、謙太郎は尋ねた。

「薄田さん? 勿論よ。あの人に敵う奴はいないわ」

「……へえ」

謙太郎はそう言って、静かに病室を去った。





過去から

まだ

抜け出せない

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