第拾壱幕:兄貴分と弟分
あの後、脩平はコレは玩具だ、とさっきまで頭に当てていた銃をクルクル回した。信弥も真剣さを吹き飛ばし、ケラケラ笑っている。
「面白くない冗談だ」
さっきから梗哉は不機嫌だ。そっぽを向いて、二人を見ようとしない。
「まぁまぁ、梗哉君。これからが本番やん? 仲良くやろうや!」
信弥は親しく梗哉と肩を組んだ。梗哉はそれをバッとはねのけた。
「こんな馴れ馴れしい不良がいるかよ」
梗哉は悪態をつく。いややわ、と相変わらず信弥はケラケラと笑っている。そして脩平は信弥にメモを渡す。
「じゃあ、君達の健闘を祈るぜ。オレの仕事はここまでだ」
脩平はニヤッと笑って、二人にウインクした。信弥は脩平にウインクをし返し、梗哉は思いっ切り嫌そうな顔をした。脩平は苦笑いをしながら去って行った。
事務所には犀と謙太郎しかいなかった。犀は冷えた麦茶を飲んでいる。
「ぼっちゃん、大丈夫ッスかね」
はぁ、と溜め息混じりに謙太郎は弱音を吐いた。犀は口に含んだ氷をガリッと噛む。心地好い音がする。
「死ななきゃ、いいさ」
「うわぁ」
謙太郎は冷や汗を流した。犀のサッパリさに引いている。
「そういえば、あのサングラス」
謙太郎は思い付いたように言った。犀は聞こえていないフリをした。謙太郎は負けずに繰り返す。
「あのサングラス、犀の兄貴のなんスか?」
「うるせーな。そうだよ」
犀が二つ目の氷を噛んだ。ガリガリという音だけが響く。
「あれ、何なんスか?」
謙太郎はジッと犀を見た。犀はわざと目を反らす。
「何なんスか?」
「くどい!」
「たまにはいいじゃないッスか!」
「はぁ。形見みてぇなもんだよ」
謙太郎は少し驚いた。目が大きくなっている。
「形見。へぇ……」
自分自身を納得させるように言った。犀はまだガリガリ鳴らしている。
「ただいまー!!」
ガラリと脩平が事務所の扉を開けた。おう、と犀が軽く手を挙げる。
「犀さん、会うのは久しぶりだね!」
ニカッと脩平が笑いかける。
「そういやァ、そうだな。毎日お疲れさん」
「犀さんに労わられるなんて、オレ、感激だぜ!」
「心にも無いことを」
犀はケッと皮肉を言った。脩平もバレた?と笑う。
「高瀬さん、ぼっちゃん、どうでした?」
「うーん、アイツ、ダメだな!」
キッパリと脩平は言い切った。ブハッと犀がむせた。
「脩平、酷評だなァ」
「簡単に命捨てるタイプだぜ? バッカじゃねぇの!」
「確かに!」
二人は楽しそうに笑っているのに対して、謙太郎はうなだれていた。
「……仮にも次期頭ですよ?」
「だーから、ダメだって言ってんだよ。な? 脩平!」
犀は脩平の肩を掴んだ。しかし脩平はそれに応えず、バッとその手を弾いた。
「オレ的には、犀さんも甘いと思ってんだけど!」
「……うーん、さすが脩平。容赦ねぇなぁ」
犀はガックリとうなだれた。脩平は口を尖らせた。
「犀さん、オレん時はめっちゃ厳しかったし! そんな年も変わんねぇのにコキ使われてよぉ!」
うーん、と犀は首を捻らせた。完全にとぼけている。次に脩平は謙太郎を指差した。
「瀧田! お前もだ! 絶対甘やかされてる!」
「え? そうッスか? そうなんスか?」
謙太郎はキョロキョロと周りを見渡した。犀は首を捻らしたままで、脩平は脩平で嫌な顔をしていた。謙太郎は誰といても、いつも苦労人だった。
どちらも
彼なりの
愛情表現