第拾幕:君の存在価値
湍水さんはかっこええし、頼りになるし、とにかく心から尊敬しとる。サツに追われるように家を出てきてしもうて、アテも無くて、腐ってたオレをまた生かしてくれたんも湍水さんや。やからオレは湍水さんの為やったら何でもできる。
翌日、二人は謙太郎が買って来た服に着替えた。いかにも、という感じな。
「いいんじゃない? ぽくなったし」
犀は愉快そうに二人を見ている。謙太郎は発信機、盗聴機の取り付けに掛っている。
「湍水さん、ぼっちゃんは任して下さい!」
「おぅ!」
ヒヒ、と犀は信弥に笑いかけた。信弥もつられてヒヒヒ、と笑う。
「オレは一人でも問題ない」
梗哉が自分が守られている事に気付き、反論した。犀は梗哉にデコピンをした。
「って! てめぇ、何すんだ!」
「あんまり我儘言うんじゃない。初めての事を器用に一人で出来る奴なんて、そうそういねェよ」
犀の目は鋭い。しかしどこか優しさも感じられた。梗哉は犀に諭されて、黙ってしまった。
「謙太郎! 脩平に連絡を!」
「へいっ!」
謙太郎は携帯を取り出し、電話をかけた。少し話した後、電話を切り、犀に言った。
「公園の隣の駐車場みたいッス!」
「よし。じゃ、おめぇら、行ってこい!」
犀の言葉に信弥が気合いを入れた。梗哉は黙って部屋を出ようとした。
「あ、ガキ! ちょっと待った」
犀が思い出したように言った。梗哉は少し立ち止まった。
「ホラよ」
差し出されたのは色の薄いサングラスだった。
「……何だよ」
「こいつは強力だぜ? 持って行って損はねえ」
グイッと梗哉に無理矢理サングラスを持たせた。梗哉は渋々それをポケットの中に突っ込んだ。
公園にいたのはスーツを着た男だった。信弥はその男に親しげに近付き、挨拶した。
「高瀬さん、お疲れさん!」
二人に気付き、よぉ、と声をかけた。梗哉は面識がないらしく、怪訝な顔をしている。
「あ、そか。梗哉君は高瀬さん、知らへんのやね」
「仕方ないよなー! オレ、外の仕事ばっかだし」
そう言いながらも少し残念そうだった。
「いや、見たことは、ある、と思う」
梗哉は曖昧な返事をした。その為、脩平も苦笑いをする。
「オレ、高瀬脩平。よろしく、ぼっちゃん」
ニッと笑いながら、脩平は手を差し出した。梗哉は戸惑いながらも握手し返す。すると梗哉は脩平に手をグイッと引っ張られ、倒れ込みそうになる。気付いた時には、頭に銃を当てられていた。
「……何の真似だ」
頭を動かせないので、必死に脩平を睨んだ。脩平の目はジッとこちらを見ている。
「よく知らない人を信用しちゃ、いけねぇよ。周りは敵ばっか、だぜ?」
脩平は梗哉の手を放した。しかしまだ銃は当てたままだった。
「早くやれよ」
梗哉は低い声で唸る。脩平はへぇ、と驚いた顔をした。
「覚悟はできてんだよ!」
梗哉は更にキツく睨んだ。
「……大人を馬鹿にしちゃ、いけねぇな」
溜め息混じりに脩平は言い、銃を下ろした。信弥も近付いてくる。
「いいか、オレはお前の教育係じゃないが、これだけは言っておく。お前は簡単に死んじゃいけねェ」
「……」
「殺されるなら、まだ分かる。だがな、自ら命を捨てるのは組の誰も許さねぇぜ」
「梗哉君、プライドも大切やけどな、オレ達は梗哉君のがもっと大切なんや。そこら辺、分かっといてな」
二人の言葉は深く梗哉の胸に突き刺さった。梗哉は静かに顔を反らした。
そんなに強く
思わないで欲しい