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60刀
事情を話すと、愛季さんに理事長室に招かれた。
「そ、それで、あの…、その!」
「落ちついて言ってみなよ」
ごくり、と私は息をのむ。
「“粕谷優”は、何者ですか」
「あぁ、そうだね…
鎦ちゃんは『ノア』って知ってるかい?」
「ノア?神話の…?」
「あぁ。大洪水の前に箱舟をつくって逃げた、あのノアだよ。」
「それが何か関係しているんですか…?」
「まぁ、そこの紅茶でも飲んで落ち着きなよ。」
甘い香りに、ほんのり生姜。
あたたかい、まるでそう、太陽のよう。
あれ…?
意識…が…?
目の前が…?
「知ってるかい?
ノアは人類の祖先となった。
そしてよりしろを変えることで、永久の命を得た。」
「あ…、いき、さ…」
「“粕谷優”それはノア様だよ」
理事長の笑みが、誰かを嘲笑っているように見えた。