(初稿版)第二章・第三節:秩序なき地平
> 私は確かに4人と共にいた。
だがそのうちの1人は、私の名を知らなかった。
---
「マコール、お前……さっき俺の名を呼んだか?」
「は?呼んでないが……大丈夫か、少佐」
「今、君の声で聞こえた。“ジョナサン、もう戻れない”って──」
マコールは無言のままこちらを見た。
その瞳の奥に、かすかに揺れる“迷い”のようなものがあった。
> 吹雪が止んだ。
いや、音が止んだのだ。
風は吹いている。だが、耳に届かない。
「おい、何か……変だぞ。耳が──」
他の隊員が声を上げるが、言葉が途中で切れる。
口は動いているのに、音にならない。
視界が、白から“色”に変わった。
それは地平線の端、氷床の割れ目から、じわじわと滲み出すように現れた。
赤と黒の混ざり合ったような、現実には存在しない“空の裏側”のような色。
私はその方向へ、吸い寄せられるように歩いた。
「ダンフォード少佐、戻って──!」
誰かが叫んでいた。
だが私はその声を、過去の記憶としてしか認識できなかった。
---
> そこに、“扉”があった。
---
氷に裂け目が走り、その奥に、円形の金属的構造物が見えた。
古びていない。
むしろ、あまりにも“新しい”。
だがそれは、設計されたというより、
“育った”という言葉の方が近いかもしれない。
> 「あれは……何だ」
私はそう呟いた。
そのとき、後ろから声がした。
> “それはあなたの未来よ。まだ誰も書いていない方の。”
私は振り返った。
彼女がいた。
濡れた服。素足。氷の上に立っているのに、凍えていない。
今度は、はっきりと顔が見えた。
若い。だが老いてもいる。
声は優しく、冷たい。
> 「もう、この年の概念を捨てて。1946年も、47年も、74年も、同じ場所にあるの。
だから誰もここから帰れない。時間は、記憶のままに閉じられるのよ。」
---
その瞬間、私の中で何かが崩れた。
地平が回転した。空が裂けた。
自分の呼吸のリズムが、別の誰かの心拍と同期する。
私は叫んだ。
> 「これを……報告しなければ! 誰かが──国家が──これを、理解しなければ!」
足元の氷が割れた。
意識が、崩落する。
最期の記憶は、
誰もいない氷の中で、誰かがこちらを見ていたこと。
---
> 【記録ここまで:OIA再構成素材・第23節終端】




