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1974年  作者: yoten
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(初稿版)第二章・第一節:ダンフォードの冒涜

> 白の音だけが、聴こえていた。




吹き荒ぶ南極の風が、あらゆる音を飲み込んでいく。

通信機の雑音すらも凍てつく空気に散り、

ただ自身の呼吸と心拍だけが、内耳に反響していた。


「……目標地点、視界に入ったか?」


マコールの声が、無線越しにかすかに届く。

私は双眼スコープを外し、直接肉眼で雪の地平を見つめた。


それは、“見えてはならぬもの”のように、そこに在った。


地形に不自然な膨らみ。

雪と氷に覆われたその表面は、自然の造形にしてはあまりにも“均質”だった。

風に晒されても、輪郭は崩れない。

角はなく、しかし“直線”を思わせる曲面が連続している。


「……建築物、か?」

誰かがそう呟いたが、それが誰だったのか、私は記憶していない。


いや──あれは、誰の声だったのだろう?


「気温、マイナス52.7。地表放射……異常に高いな。地熱か?」


私は計器を確認しようとして、手袋越しにディスプレイを叩いた。

画面は、ゆっくりとノイズを描いたまま、停止した。


「全機材、反応低下。干渉波の可能性あり」


吹雪の隙間、

私はそれがこちらを“見ている”という感覚に捕らわれた。


それは視覚ではない。音でもない。

記憶のなかに、誰かの気配が侵入してくるような──


> “ようこそ、忘却の淵へ”




女の声だった。

しかし無線には誰の音声も記録されていない。

私の耳ではなく、記憶そのものに声が響いた。


振り返ると、マコールと二人の隊員がいた。

その隣に、もう一人──

フードを被った女の影が立っていた。


濡れていた。

吹雪のなかに、濡れて立っている──それだけで、現実ではないとわかった。

それでも、私は見てしまった。


> “ここはもう、誰のものでもないの。時間すら、帰れない。”




言葉が、私の中の何かを切り離していく。

意識が霧散し、視界が白に包まれるその瞬間──


> 「……あれは……何だ!」




叫んだのは私だったのか、誰かだったのか。

気付くと、“自分が今、何年にいるのか分からなくなっていた”。

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