「不幸と幸運」
善人にも不運が訪れることがあり、人はそれを同情すべき「悲劇」だと言う。また、人は人をある程度見た目で判断する。美人は得をすることも多いが、とかく”やっかみ”を受けることもある。また、整形手術もかなり一般的になって来ているので、某国では親に似ていない子供が生まれることも増えて来ているようだ。大和田徹もその一人だと思われていた。
彼の通った幼稚園や小学校では彼の両親は美男美女だと噂になる程だが、徹は鼻は高いが大き過ぎ、目も大きいのだが窪んでいて、口は大きく唇が太い、どちらというとアンバランスな方だ。彫りの深さは母の蘭に似てなくもないが、心無い親たちが徹の顔と親との差を指摘することも多かったようだ。ただ、徹は見た目のアンバランスとは違い頭脳明晰で、塾通いもしていたので成績はいつもクラスで一番を争っていた。一方両親は逆で爽やかな見た目には似合わないいわゆる劣等生で、父剛は結局高校中退後、某クラブで働き、母蘭も同じクラブのホステスだ。ただ、見た目の良い剛は人気バーテンダーとなっていて、蘭はその美貌から指名が絶えなかった。昼の仕事ではいつも平均以下の成果しか出せずにいた二人は、夜の仕事では人に羨まれる成果を出していた。まあ、適材適所の典型とも言える。
ではどうして、このようなアンマッチが起きたのかを少しだけ謎解きすると、剛には妹がいて、妹の夫は中東系の外国人で一人息子がいたが、交通事故で夫婦ともに事故死し、その息子徹が孤児となったのだ。剛と蘭は甥の徹を不憫に思い養子としたのだ。実は蘭にはある病気があり、子供を持てない事情があったので、それも後押しして徹を息子としたようだ。徹はその時二歳で、とても利発な子で親の言うことをよく聞くとても良い子だった。
そんな彼らがある事件に巻き込まれた。剛と蘭が夫婦であることを知らないクラブの常連客が蘭に横恋慕して、ストカーのように蘭たちの住むマンションを見つけ、ある夜、彼らの住むフロアーのロビーで蘭を待ち伏せしたのだ。偶然、塾からの帰りに塾仲間の家に遅くまで居た徹が、その男をフロアーで見かけたのだ。徹は見かけない男だと思い、すぐに宿直のいる管理事務所に飛び込み通報し、管理人がすぐに対応しその怪しい男に尋ねた。
「失礼ですが、このマンションの人じゃないですよね?関係者以外は立ち入り禁止なのですが」と言うと、その男は大きな男で管理人を見下ろし、「うるせー、失せろ!」と管理人を恫喝した。管理人は、「警察を呼びますよ!」と抵抗したが、その大男は管理人を突き飛ばした。管理人は後ろにひっくり返り、強く頭を打ったようで静かになった。流石に大男はまずいと思い逃げ出したが、そばに居た小学生高学年ぐらいの男の子の存在に気付き「お前、何か喋れば殺すからな!」と恐ろしい言葉を小学生に投げつけて、エレベーターで去っていった。
徹は震えながらも管理事務所に戻り、緊急電話から管理センターに連絡をした。30分後に救急車が到着し、管理人の怪我の具合を見たが、その時には息を吹き返し喋れるようになっていた。ほどなく警察官も到着し、犯行現場を見ていた徹に事情を聞いた。大男から”喋ると殺す”と言われたことも含めて、全て知っていることを話した。警察は徹の両親は仕事中だと言うので徹たち一家の部屋に付き添い、そこから電話をかけて事情を話した。両親はすぐにこちらに向かうと言うことだった。
しかし、その大男はしつこくマンションのそばで蘭の帰りを待ち伏せていた。そこに蘭と剛が連れ立って現れ、男は「あのバーテンめ、蘭に手を出しやがって」と嫉妬で懐にしまっていたナイフをかざしながら
「てめえ、蘭ちゃんから離れろ!」と大声を出すので、一瞬二人が呆然としていると、大男は剛に切り掛かった。剛が手でそれを避けたので、もろに刺されることになり、そこから血が流れ出した。蘭は慄いて
「やめて下さい!この人は私の夫です」と叫ぶと大男は
「嘘だ!」と言って暫く棒立ちになっていたが、蘭が剛を庇う様子を見て事情がやっと飲み込めたようで、そのまま走って逃げ去った。大男は翌日逮捕された。
この事件はニュースでも報道され、SNSが敏感に反応し、「痴情のもつれ」とか「ふしだら夫婦」のようなフェイクが拡散され、夫婦だけではなく、徹も学校で心無い攻撃に晒されることとなった。蘭は徹のことが心配になり、数日間仕事を休み、徹との時間を増やし色々な事に気がついた。徹が両親が不在の間、いかに寂しい時間を過ごしていたのか、それでも塾の友達を中心に自分のコミュニティを築いていたことを。
そして、夫婦は昼に営業するレストランの仕事に就き、その後借金をして自分たちの店を持つことになった。美男美女のお店は人気となり昼間でも彼らは成功しつつあった。徹は成長するに従い、アンバランスさが無くなり頭脳明晰で彫りの深いイケメンになっていった。




