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Lv.BLACK  作者: 朝日野 夕
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プロローグ⑥

口の中に唾液が溜まってくるようなあたたかい香りがする。屋台から醤油ベースのラーメンの香ばしい匂いが漂ってくると、急に胃がからっぽになったような空腹感におそわれた。


レックスの上着を羽織ってはいるものの、薄着なのは変わらない。いてついた空気が彼女の肌を凍らせる。だが、屋台から感じる温かな空気が、彼女の心をホッと安心させてくれる。


「麺がのびないうちに食え。腹、減ってんだろ」


「いいの? ボク、お金なんて持ってないよ」


「タダで飯をやるつもりはないぞ。この借りはいつかちゃんと返してもらうからな。ツケでいいから、今日はたらふく食え」


「素直じゃねぇなぁお前も。悪いな坊主、コイツは昔から照れ屋なんだ」


「誰が照れ屋だよ。お前もちゃっかり人の金でラーメンを頼んでんじゃねぇよ」


「いいだろ別に、今日は朝からロクに食べてなかったんだ。たまには奢ってくれよ」


「お前って奴は……本当に……」


「仕方ないな。今日は俺が奢ってやる。メンマでもチャーシューでも、塩でも豚骨でもなんでも頼め」


「い、いや! そこまでしてもらう訳には……」


「いいじゃねぇか坊主。奢られるのも礼儀のひとつだぜ。大将、メンマ大盛りで」


「ったく……奢るのは今回だけだからな」


「わかってるよ。ご馳走さん」


美味しそうに麺をすするR.Eを横目に、レックスは隣に座る青年の方へと視線を向けなおす。顔は淡麗で、細い眉に切れ長の鋭くまっすぐとした目。身体つきは華奢で、しなやかな腰つきをしている。見れば見るほど、どっちなのかわからないな。


「どっちだろうって思ってる?」


「え……」


「その反応……傷ついちゃうな」


「ボク、こう見えても立派な女の子なんだよ」


レックスは面喰った。不意に姿の見えない何かに突き飛ばされたような気持ちがして、暫く眼をパチパチさせていた。


「お、お前、女だったのか……」


滅多に驚かないR.Eが動揺している。


「そんなに、男らしく見える?」


「パッと見だと、どっちなのか見分けがつかないくらいにはな」


からかわれたことに怒ったのか、女はプクーっと頬を膨らませる。なんだ……表情の固い奴だと思ってたが、可愛げのある顔もできるんだな。


「しかし、お前も災難だったな。けど、あの、ヘアリッドの連中を出し抜くなんてすごいじゃないか。ギャング相手に逃げ出すのは簡単なことじゃ無い」


「一体、何があったんだ?。ヘアリッドの奴らを出し抜いたんだろ。お前、どこから逃げて来たんだ?」


「第三地区……ウィースリーの廃工場からかな。すみません、詳しい場所はわからないんだ。攫われた時、薬物を投与されたところまでは覚えてるんだけど……それ以降の記憶が無くて……」


「最後の記憶は、見知らない工場にいて、知らない人たちが会話していたところだけで……意識が薄れていく中、気がついたら、工場とは別の方向に逃げ出していたんだ」


「ウィースリーか、ちと面倒な場所だな。敵の居所がわかっても、どの工場が奴らの棲家なのか特定するのに時間がかかりそうだ」


「オークション会場を見つけるには、まず敵の拠点を潰した方が良さそうだが……どうしたものかね……」


「あそこは廃工場ばかりだけど、車の移動距離を計算してなんとなくの場所ならわかるよ。場所は確定ではないけど、大雑把な区画なら特定できると思う」


「ちょっと待て……車の移動距離だけで場所を特定できるのか? 外の景色も見ずに?」


「そうだけど……それが何か?」


「すごいな……お前……」


「そう、かな」


「いや、レックスが褒めるなんて相当だぞ? その知識……お前、コンジットか何かか? 昔、ギャングに所属していたとか?」


「元だけどね。前は、コンジットたちのドライバーをしていたんだけど……ボク、運動神経は悪いし、ハッキングスキルも無くて、ふたりのように格闘技術がある訳でも無いから……足手纏いになるのが嫌で引退したつもりだったんだけどね」


「それは、才能だぞ。コンジットにも戦えない奴だっているし、ちょうど、俺たちも腕の良いドライバーを探していたところなんだ。お前の情報とそのスキルが欲しい。これは、取引だ。どうだ、ここは助けた恩を返すと思って俺たちに協力してくれないか?」


女は言葉を濁す。


ヘアリッドたちに捕まった商品たちを助けたいと言う気持ちはある。けれど、自分はかつて仕事から逃げ出した逃亡者だ。十中八九、足手纏いになるかもしれない……だけど、こんな自分でも、誰かを助ける役に立ちたい。もう、何もできずに……ただ傍観するだけの臆病者にはなりたくない。自分にできることがあるのならなんだってしてやる。


「ボクは……捕まった人たちを助けたい」


「何ができるのか自分にもわからないけど、後悔のする選択はしたくない」


「足手纏いになるかもしれないけど……ぜひ協力させてください」


「決まりだな」


「で、お前、名前は? なんて言うんだ?」


「ボクは、タシギ……」


「タシギ・バートです」


夜空に輝く星の如く真っ黒に澄んだ幼さの見えぬ子供のような綺麗な瞳でレックスたちを見つめる。もともと目は鋭い方だったが、決意を宿したその瞳は前よりいっそう深くなっていた。

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