プロローグ③
廃墟となったビルの入り口にふたりの男がいた。レックスがギャングたちを襲撃してから数刻、ギャングのひとりが、目を覚ます。殺されたと思ったのに、死んでいない……そのことにまず驚くが、そんなことを悠長に考えられる状況じゃない。
ロープとガムテープで巻かれたギャングたちは椅子と同体だった。どんなに暴れようとも椅子から逃れられないその姿は、悲壮感の塊に見えた。
叫ぼうにも叫びきれず、目の前にいる男たちを一瞥することしかできない。
「こいつはすげぇ……全員死んでやがる」
「俺たちの先に誰かがここにいたらしい。中々のコンジットを雇ったもんだな」
「すごい……」
「脳、心臓、頸動脈、全て一発で仕留めてますよ」
「コイツらなんて、素手だけで気絶させられてて、銃を扱った様子もない……」
「後始末も完璧……すごくちゃんとしてる……同業者として惚れちゃいますねぇ」
「でも、この人数を相手にするなんて一体どんなコンジット"たち"なんでしょうね」
「さぁ……誰だろうな。俺たちの仕事を奪った馬鹿野郎は」
「お、お前ら……何が望みだ! 金か? 金ならある! 頼む、俺だけでも見逃してくれ!」
「命乞いなんて哀れなもんだな」
「負け犬が人間さまの言語を喋ってんじゃねぇよ」
「知ってっか? 敗者と勝者には越えることのできない絶対的な差がある。次がんばろう、次は負けない、次はもっと良い成績を出そう。そんなもん意味ねぇんだよ。この世は結果だけが全て……敗者は敗者のまま死んでいくしかねぇんだ」
「お前は、勝者にはなれない……このまま死ね」
指先が男のフルヘルムに食い込むほど強く握る。指先が肉に食い込んで痛いぐらい頭を握られる。
「あ、が……」
頭が割れるように痛い。
「ああ……ああああ」
血が、噴水のように垂れ始めるかと思った次の瞬間、音を立てて、男の頭蓋が飛散する。
「ああ……すげぇ綺麗。夜空を彩る花火みてぇだな」
「俺に見せてくれよ。お前たちの爆ぜる姿をさぁ!」
火薬が弾け、弾丸が拘束されたギャングたちに降り注ぐ。
「あっはははははは! 爆ぜろ! もっと爆ぜろ! 綺麗だなぁ……もっと俺に芸術を見せてくれよぉ!」
「ああ……なんだ……コレ。靴が汚れちまったじゃねぇか。汚ねぇ……汚ねぇなぁ!」
「俺はなぁ、潔癖症なんだよ! テメェらの汚ねぇ血で汚しやがって……はい決めた。お前ら全員、皆殺しコース確定な」
「ロウリさん、ちょっとこれ見てくださいよ」
監視モニターには、数刻前の映像が流れている。モニターには、単独でギャングたちを襲撃する男の影がひとつ。洗練された動きに無駄は無く、ボーッとロウリはその光景に見惚れていた。これまで見たこともない光景が目の前に映り、息を呑んだまま唖然となる。
「なんだコイツ……やべぇ、やべぇよ。すげぇかっこいい」
「ここまでの腕があるなら、ある程度、名が知れていてもおかしくないですよ。有名なコンジットなんですかね」
「闇の男だったりしてな……」
「闇の男? なんですかソレ? 有名なんですか?」
「有名なんてもんじゃねぇ。ブラックシティで知らない奴なんてひとりもいない伝説の男だ。この腕……このスキル……間違いねぇ。まさか、まだ生きてたのか……」
乾いた唇を舐めながら、獲物を見つけた獣のように、ロウリはよだれを垂らす。
「そそる話だなぁ……伝説の男が帰ってきたのなら、ソイツを殺せば、俺は伝説を超えた伝説になれる」
「一度でいいから戦ってみたいもんだなぁ……伝説の男がどれほど強いのか……」
「キョーミないでーす」
「行くぞ、ぺぺ……次のターゲットはちと骨が折れそうだ」
「えぇー……やめておきましょうよ。面倒くさい」
「……楽しみだなぁ。絶対に俺が殺してやる。伝説の名は俺のものだ」
「聞いてないし……」
ふたりは闇の中に消えていく。後ろも振り返らなかった。冥界への道筋を既に死者に教えた死神のように。




