イジメ反対!9
他国でも同様かもしれないが、我がハーベイ王国では戦士と魔術師の職業適性が最も良いとされており、次に聖職者と弓使いというのが常識だ。
それは何故か。他国との戦争や盗賊、山賊なども要因の一つだが、何よりもこの世界には魔獣という存在がいるからである。魔獣には人間一人でも対応可能な小型の魔獣から、軍が全力で挑んでも壊滅するような大型魔獣まで多種多様である。そして、魔獣の脅威はどの国であっても逃れることはできない。
常に強大な敵と戦う危険がある。そういう状況の中では、必然的に戦闘に向いた職業適性が優遇されていくのだろう。
ちなみに、市民の間では商人も悪い職業適性ではない。
そんなこんなで、戦士と魔術師の職業適性を持つニルスとエリックは立派な次期当主候補の最有力に浮上し、順当に僕が最下位独走状態となった。これはニルスとエリックの実母であるオリヴィアを増長させる好材料となり、日に日に追いやられている気がしている。
「おはよ~」
そう言って片手を振りながら廊下を歩いていると、明確に使用人の反応が分かれる。地位の高い執事やメイド長などは無言で軽く会釈をするだけだ。逆に地位の低い奴隷出身のメイドや馬の世話係をする従者、庭師などは笑顔で挨拶を返してくれる。伯爵家内での派閥のようなものが浮き彫りになったともいえるだろうか。
そして、オリヴィアはニルスとエリックを連れて館を闊歩することが増えた。僕が歩いていても無視するし、場合によってはダディの言いつけで練習中の剣術を中断させ、ニルスに無理やり交代させることもあるくらいだ。
継母に退けと言われたから仕方ないよねー、みたいなノリで素直に剣術の練習をやめてニルスに譲ると、それはそれで夕食の時などに父に告げ口をされてしまうという恐怖。
「ヨハンソン様? 今日もニルスは剣術の訓練を通常の三倍も頑張っていたのですよ? とても剣術の才があるとのことで、将来は騎士を目指すべきだと……」
「ほう、それは素晴らしいな」
「それに比べて、ラーシュ様は嫡男でありながら剣術の訓練を途中で止めて遊びに行ってしまったとのことで……」
「……なに? またか、ラーシュ」
という流れで夕食の時間が僕を説教する場に早変わりしてしまう。それに反論すると、オリヴィアは「あ、別のところで剣術の訓練をされていたんですよね? ええ、分かっておりますよ」等と言って笑い、まるで大人だから子供の顔を立ててますといった態度をとるのだ。
驚くべきは、そんなオリヴィアの言葉を全て信じ、僕への説教を止めないヨハンソンである。ラーシュ君が可哀想過ぎて全米が泣くレベル。
結果、まだ六歳と五歳のニルス達にまで馬鹿にされることとなった。僕を見て二人でニヤニヤしたり鼻を鳴らしてきたりするのだ。むぐぐぐ。こ、子供のすることだもんね。怒ったりしないぞ、小童どもめ。
そんな耐える日々だったが、なんだかんだで辛くはなかった。
なぜなら、仲間がいるからだ。
「ラーシュ様、こちらに」
「ありがとう」
イリーニャに連れられて中庭の奥へと進み、小さな鉄製の扉の前に移動した。そこには中年の女性の獣人がおり、こちらに気がついて深く一礼した。
「ラーシュ様、お気をつけて……」
「大丈夫! だいぶ慣れてきたからね」
胸を張って答えると、獣人の女性は困ったように笑いながら頷き、扉を軽くノックする。すると、外からゆっくりと扉が開かれた。よく見ればもう扉の閂は外されている。
「お、ラーシュ様。今日も元気そうですね」
扉が開くと、そこから犬っぽいおじさんが顔を出した。四十代ほどのたれ目の男性である。頭の上を見ると、実際に大型犬のような獣の耳が生えていた。そして、その男性の足元には小さな男の子の姿がある。男性に似た風貌で、小型犬のようだった。
「こっちですぜ。今日はうちの息子も参加させてもらいたいんですが、良いですか?」
男性は不器用な敬語でそう言って、片手で自分の頭を掻きながら笑った。足元では不安そうな顔でジッと待つ男の子の姿がある。その様子に微笑みつつ、許可を出した。
「もちろんだよ。よろしく」
「おお、ありがとうございます。良かったな!」
男性は喜び、そう口にして男の子の頭をがしがしと撫でる。嬉しそうに目を細める男の子が本当に子犬のように見えた。
男性に連れられて扉をくぐり、イリーニャと一緒に外へ出る。知り合いの住民に挨拶をしつつ城下町を抜けて町の外まで移動した。すると、そこには鎧姿の男女がいた。すべて獣人である。
「皆、おはよー」
「お、ラーシュ様! おはようございます!」
「今日も頑張りましょうね!」
挨拶をすると、皆が笑顔で集まってくる。
「今日も森ですかい?」
「森が良いね」
「わっかりやした!」
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