【過去編】 幼少時代 8
それから数年。
フォールンテール伯爵家の嫡男としてラーシュ君はすくすく成長をしていた。しかし、どうも次期当主として崇め奉られている感じは薄い。
なんでやねん。
そう思って尋ねたら、イリーニャが教えてくれた。なんと、この世界には五歳になると職業適性というものを鑑定する儀式があるらしい。そして、僕の職業適性は商人。貴族としては最低レベルで望まれない職業適性とのこと。なので、普通なら人間の、それも男爵家あたりの令嬢がメイドとして付くはずだが、僕の場合は獣人のイリーニャが専属メイドになっている。これについては幼い頃の僕の意見が採用されたとのことだが、もし将来を考えていたならヨハンソンが許可しなかったことだろう。
色々と思うことはあるが、職業適性というものを聞いた時、大きな衝撃を受けたのを覚えている。
待て。期待するな。これはゲームではない。
そう自制しようと思ったが、できなかった。興奮を隠せずにイリーニャに職業適性について質問していくと、驚くべきことが判明する。
人間や獣人問わず、五歳で職業適性を鑑定するのが通例であり、それまでの生活が大きく結果に影響を与えるというのが常識のようだ。なので、貴族は剣や槍、魔術を幼少期から学ばせておく家が多いらしい。そして、現れる職業は、戦士や魔術師、弓使い、盗賊、聖職者、商人の六種類。
そう。ゲーム、Lord of Grandeurと同じなのだ。
そして、その職業で修練を積むと特殊な技能が身につくことがあり、更に十年、二十年と鍛錬を繰り返した者の中には別格の強さを得る者もいるらしい。過去、ハーベイ王国の礎を作り上げた初代国王は魔剣士という特別な職業適性であり、かつての大国を相手に数的不利の中で勝利したと伝えられている。他にも、大魔導士や騎士、ハンターや司祭といった職業適性であるとされた者もいて、その特別な職業を持つ者は多くが偉人や大罪人として名を残しているようだ。
力の使い方はともかく、上級職という概念があるということは間違いない。ただ、錬金術師とマシンマイスターになった者をイリーニャは知らないようだった。
それらの情報を得て、僕のテンションは急上昇である。面倒くさそうな崖っぷち貴族に生まれ、継母がいて、当主候補から外れて、あげくに冷遇までされていると嘆いていた。しかし、僕の大好きなLOGの職業という概念が存在していたのだ。
そこから推測すると、幼い頃に剣を学ばせてステータスが身体能力方向に延びれば戦士の職業適性になりやすく、魔術を学んで知力を蓄えれば魔術師の職業適性を得やすいのだろう。
LOGであれば最初に基本の職業を決めていたが、最初から成人したくらいの見た目でスタートする。そう考えると、幼少期はそのように成長過程で最初の職業適性が定まっていた可能性はある。
そして、商人や盗賊の上級職の話があまり無いのは、単純に戦闘経験値などを得にくいからなのかもしれない。
そこまで思い至ったら後は簡単だ。伯爵家を引き継ぐかどうかなどどうでも良い。何よりも重要なことは一つ、自分が夢にまで見た最強の魔導技師が現実になるか否かである。
それからは、商人としてのスキルを強化する為に行動したり、スキルポイントは使えるのか確認したりといった実験の日々だった。そして、選択したはずの転生システムの状況である。
僕の見た目が自身で制作したキャラクターの特徴を持っていて、尚且つ職業適性は商人ということは、最後に触れた時のゲームの影響を受けているという気がする。そして、最後に僕が行ったことはアップデートでの新システム、転生の実行だ。
ならば、商人からやり直していたとしてもスキルポイントは既に百ポイントを保持しているはずである。本来は上級職からの転職の場合、上級職のままスキルポイントが百ポイントだったはずだが、商人からの転職でも問題はない。いずれは魔導技師に至るはずだ。
それは、考えるだけでワクワクするような仮説だった。もちろん、住む場所を失ってしまっては困るので、きっちりとダディに言われるままに貴族としての礼節と剣術の指導は受けている。一応ということだろうが、国の歴史や領主として必要な知識なども学んではいた。変な噂でも広まっているのか。マミーだけでなく一部使用人からも冷たい目で見られたりはしたが、まったく気にならない。
今やるべきは一つ。商人としての熟練度を上げ、更に上級職への転職を最速で果たすことだ。ちなみに職業の熟練度を上げるにはそれぞれタスクがあり、商人の場合は商品の売買や品物の作成、一定の累計売上など商売に関する物が多い。一部はプレイヤー同士でも実績になる為、試しにイリーニャに何か作ってもらってそれを買ったり、逆にこちらが作ったものを買ってもらったりした。イリーニャは完全におままごとと誤解していたが。
そう思って日々色々と活動していた中で、はっきりと生活が変わる要因が発生した。
次男であるニルスが五歳になり、職業適性の鑑定を行った為だ。同じ轍を踏まないようにと考えたのか、二歳から剣を振ってきたニルスは父の希望通り戦士となることができた。だが、まだここまでなら僕にも存在価値があった。ニルスの予備というポジションだ。
しかし、更に一年後のこと。三男のエリックが五歳になり、職業適性の鑑定を行った結果、完全に僕の立場は失われることとなる。
エリックの職業適性は魔術師。我が国で最も望まれる職業適性を得たのだ。これで、当主候補はニルスとエリックのどちらかで決定したと言っても過言ではないだろう。美しいという以外に取り柄が無いと思われている僕は、完全にお払い箱である。
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