移動中に 68
準備にごたごたはあったが、無事に王都へ向かうこととなってしまった。うむ、面倒くさい。何ならお金だけ欲しいのだが。
「移動が馬車なのは良いけどね~」
真っ白な天井や壁、分厚い絨毯。窓には透明度の高いガラスと純銀の窓枠まで使われている。勿論、そこまで豪華なだけに、座面は柔らかくてお尻が痛くならない。車輪の外側に頑丈かつ衝撃吸収力の高いオークの皮まで使われているという。なんという高級な馬車だ。
その馬車の持ち主は背もたれに寄り掛かり、壁側にある手すりに肘をついて溜め息を吐いた。
「文句ばっかり言わないの。森には街道が敷かれたし、王都までずっと馬車で移動できるのよ? 随分と楽な旅路でしょう?」
リネアが呆れたような顔でそう口にする。それに溜め息を吐き、肩を竦めた。
「まぁ、片道一ヶ月なら良いか」
「え、偉そうね、本当に……」
頭を抱えるリネア。それに、イリーニャの方が慌てる。
「ら、ラーシュ様……」
おろおろしながら僕とリネアの顔を見比べるイリーニャ。それにリネアは目を細めて笑顔になる。
「大丈夫よ、イリーニャ。この馬車の中は私の個室みたいなものだからね。ただし、馬車から降りたら知らないわよ、ラーシュ?」
「はい!」
「良い返事なのに、何故腹が立つのかしら?」
そんな会話をしつつ、僕たちは馬車での優雅な旅路を続けた。途中で魔獣が出ることもあったが、そこは念願の経験値確保の場である。絶対に譲るわけにはいかない。
「僕たちが対応します!」
馬車から飛び出すと、皆が驚いたが、アーベルやミケル達が揃っていて負けることはあり得ない。現れたのは中型の魔獣だったが、三体の群れだった為、経験値的にもイリーニャまで含めて多少は得られる。
迫りくる巨大な蛇の魔獣だ。胴体から頭部にかけて極端に太くなった蛇で、牙には猛毒が含まれている。その凶悪な魔獣を見て、騎士達は即座に防御陣形を敷いたが、それを無視して前に出ていく。
「アーベルさん! 魔獣の攻撃を受け止めて!」
「うむ」
「ミケルさん、ロルフさんは後方の二体に牽制!」
「あいよ!」
「おう!」
指示を出すと、皆が一斉に動き出す。ドラスや騎士達が攻撃する隙は与えない。それを察してか、ドラスはすぐにリネアや馬車を守る為に移動した。
「馬車を守れ! 馬が逃げぬよう気を付けよ!」
「はっ!」
ドラス達の行動を横目に見つつ、イリーニャに声を掛けた。
「イリーニャ、風の守りをアーベルさんに!」
「は、はい!」
魔術の発動を確認する前に、こちらも動く。
「魔導銃!」
そう口にすると、スキルが発動し、ずっと満タンのままだったSPが消費される。熟練度を上げる為に、威力を落として連続発射だ。
突然、街道の傍の草原に大砲のような機銃が出現する。現実の対物ライフルとは違い、見た目は重機銃のようである。地面に台が設置された機銃は左右に両手で握るレバーが備えられている。それを掴み、属性を選択してトリガーを引いた。
「発射!」
選んだのは雷の魔術である。この魔導銃の強い点は属性を選べることにある。様々な状況で使える万能のスキルだ。ただし、威力自体は最高レベルに到達したハンターの通常攻撃と変わらない。あちらはSPを消費しないので、使い勝手は負けてしまうのだが……。
「お、おお……っ!?」
後方で騎士達が驚く声が聞こえてきたが、こちらは想像以上の反動を押さえるのに必死である。一秒から二秒に一回程度の連射性能だが、SPがある限り撃ち続けることができる。蛇の魔獣が前に出てこないように、三体を順番に攻撃した。
「また新しいスキルか!?」
「ラーシュばっかりズルいぞ!」
ミケルとロルフは凶悪な魔獣を相手にしているとは思えない態度で文句を言った。
「だからスキルの熟練度を上げてって言ったの! 頑張って練習してね!」
魔導銃の射撃音に負けないように大きな声でそう答えると、ミケルとロルフは貫通矢と三連撃ちを放ちながら笑う。
「すぐに追いつくからな!」
「おう!」
そう言って、二人は次々に矢を放つ。成長速度は十分だが、レベルが上がるほど必要な経験値量は増える。まぁ、暫くは成長が遅く感じてしまうことだろう。
「ぬん!」
一方、アーベルは落ち着いている。蛇が負傷し、攻撃速度が落ちているという理由もあるかもしれないが、それでもアーベルは冷静に受け流しで防ぎ続けていた。
腕より太い牙、巨木の幹のような尾による攻撃が雨あられのように飛んでくるが、それらを無傷で防ぐ様子は、まさに鉄壁である。安定感はピカイチだ。
「よし! 三人とも終わらせるよ!」
そう告げると、三人は頷いてそれぞれ、最も得意な攻撃で頭を狙った。
「三段斬り!」
「貫通矢!」
「三連撃ち!」
三人の声が重なる。直後、巨大な蛇の魔獣がそれぞれ頭部を失って倒れた。その様子を見ていた騎士達は驚きの声を上げる。
「な、なんという強さだ!」
「これは、騎士団長級ではないか!?」
そんな驚きの声の中、僕は馬車の方へ戻る。へっへっへ、あれなら中ボスを倒したくらいの経験値は得られただろう。イリーニャの熟練度に関してはあまり大きくないが、経験値のみならそれなりの筈だ。
僕は美味しい獲物を狩れたことを喜び、にやりと笑ったのだった。
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