村の強化 62
「最上級のドラゴンじゃないならなんとかなるよ? この前の撃退できたし」
「……そういえばそんなこと言ってたわね。この規模の村が、信じられない話だわ……」
驚いているのか、呆れているのか。リネアは肩を竦めてそう口にした。
「まぁ、アーベルさんとミケルさん、ロルフさんの三人が主力になってこそだけどね。ただ、三ヶ月後には三人が抜けても大丈夫だと思うけど……」
「え? 何人でドラゴンと戦うつもりなの? 成竜よね? 村には子供もいっぱいいると思うけど……」
混乱するリネア。次々に疑問が湧いてくるようだが、今はそれどころではない。
「とりあえず、急ぎで皆を強化するから、三ヶ月後で良いかな?」
これは譲れないぞ。そういう強い気持ちを持ってお願いしてみる。これは空気で察してくれたのか。リネアは軽く息を吐いて顎を引いた。
「……仕方ないわね。ただ、案内人として騎士を二人置いて帰って良いかしら?」
「あ、それは大丈夫だよ」
リネアの条件を喜んで了承する。鍛えられた騎士二人が三ヶ月も残れば、村の強化や防衛に大きく役立つだろう。労働力をゲットだぜ。
人員が増えてガッツポーズをとっていると、リネアが目を細めて薄く微笑んだ。
「……後、三ヶ月の間にうちの騎士も鍛えてくれる? この村の強さの秘訣を知りたいわ」
と、リネアは素直に自分の思惑を語った。その言葉に、どこまで手の内を晒すべきかと悩む。
「う〜ん、その騎士って戦士かな?」
「そうね……戦士と弓使いならどうかしら?」
「戦士二人なら良いかな。他の村人達にも色々教えないといけないから、二人まとめての方が助かるかも」
そう答えると、リネアは一、二秒ほど考え、頷いた。
「分かったわ。それじゃあ、それでいきましょう。私達は明日出発するから、三ヶ月後には村を出るようにね?」
「了解っす」
そんなやりとりをして、リネアは立ち上がった。そして、近くで待機しているドラスに声を掛ける。
「話は決まったわ。出発の準備をするわよ」
「はっ!」
リネアの言葉に応え、ドラスは素早く動き出した。その背中を見送り、リネアはこちらに優しげな微笑を浮かべて振り返る。
「この村では私が驚かされてばかりだったけど、王都に来たら逆になるわよ? 私のことを王女様って敬いたくなるからね?」
「へい! がってん!」
リネアの言葉に敬礼して返事をする。リネアは舌を出して笑い、その場から立ち去る。
それを見送っていると、隣の椅子に座っていたイリーニャが眉根を寄せて口を開いた。
「……ラーシュ様」
「ん?」
名を呼ばれたので振り返ったのだが、イリーニャの暗い表情を見て驚く。
「どうしたの?」
尋ねると、イリーニャは口篭って俯いた。何か言おうとしているが、言えないでいる。そんな雰囲気だ。
「……なにかあった?」
もう一度、優しく尋ねる。すると、ようやくイリーニャは口を開いてくれた。
「……その、テオドーラ王国に行ったら、ラーシュ様は村には戻らないのかもしれないと、思ってしまって……」
そう呟き、イリーニャは目を伏せる。どうやら不安になってしまったらしい。イリーニャはこの村がとても気に入っているようだから、離れたくないのかもしれない。
そのことに気がつき、苦笑を返す。
「大丈夫だよ。だって、この村の村長になっちゃったからね」
「……本当ですか? その、リネア様が、ラーシュ様をとっていっちゃいそうで、不安に……」
「とる? 奪う? 僕を、この村から?」
イリーニャの言葉の意味が分からず、思わず聞き返す。すると、イリーニャはハッとした顔になり、一気に顔を赤くしてしまった。
「あ、い、いえ! 違うんです! その、ラーシュ様が、どういう選択をされるのかという話で……!」
耳まで真っ赤だ。ゆでダコのようである。
「まぁ、この村……今はグランドール村かな? グランドールに住む人は皆優しくて、村自体もとても住みやすくなったし、毎日楽しいからね。それに、せっかく皆を強くしている最中だし、最後まで村長をやってみたいと思ってるよ」
そう答えて、イリーニャに微笑む。
なにせ、百人の最強ギルドを作る目標が新たに設定されたのだ。僕自身が理想のスキル構成を構築し、魔導技師が最強だと証明するという目標もある。
どこかの国に属して働くよりも、グランドール村の村長である方が効率が良いだろう。
そんな思惑があったのだが、イリーニャはホッとしたように頷いた。
「よ、良かったです。もちろん、ラーシュ様がテオドーラ王国に行かれるなら私も付いていきますが、この村にずっといられた方が嬉しいですし、それに……」
イリーニャは頭の上の耳や尻尾を揺らしながら、小さな声で何かを呟いた。小さ過ぎて聞こえなかったが、イリーニャが喜んでいる気配は伝わった。二人で笑い合いつつ、村の強化計画をもう一度練り直す。
三ヶ月。三ヶ月でどれだけ理想に近づけるか。それが重要である。
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