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村の名前。改めて考えると難しい。
「……名前。アーベル村? もしくはアーベル・レイク。小さいけど川が流れてるし」
「ちょっと怒られてきたら良いわ」
そんな会話をしていると、偶然にもアーベルが傍を通りがかった。これから狩りに行くらしい。
「アーベルさん。村の名前はアーベル・レイクで良い?」
「却下だ」
「ほら」
アーベルは一言で僕の案を一蹴すると、リネアの言葉に頷いて去っていった。あれ? 僕が村長なのに、決定権はないのか。
「あ、あの、それならラーシュ様が村長なので、ラーシュ村でも……」
「えー、やだー。自分が村長になってそれやったら自己顕示欲の塊みたいで恥ずかしい」
「……色んな国を敵に回すわよ? 私の名前はリネア・クララ・テオドーラなのを知っているかしら?」
と、リネアが不服そうに眼を細めた。確かに、それはそうか。
「他に候補は無いの?」
「う~ん……それじゃあ、LOGからとって、グランドールにしようかな」
「え? それは、どういう意味かしら?」
ゲームから名前を取ってみたが、リネアは素直に意味を尋ねてきた。そう言われても困る。あまり考えずに生きてきたのだ。
「えっと、なんだっけ? 栄光とか、荘厳とか、権威みたいな立派な意味じゃなかったかな? ちょっとググらないと分からないかも」
「ラーシュはよく分からない言葉を使うわよね……でも、グランドールという響きは中々良いわ。それじゃあ、この村はグランドールという名前で良いわね?」
「とりあえず、仮決定で」
「分かったわ」
そんなやり取りをして、リネアが近くで待機していた従者に声を掛けた。あ、前にもリネアの従者をしていた女性だ。リネアが何か言うと、頷いて羊皮紙にメモを記し始める。どうやら、仮決定でも公式の名前として認知されてしまったようだ。後でどうにかして皆に納得してもらうしかあるまい。
リネアは従者にメモをお願いした後、次の話へと移行する。
「それじゃ、次の話なんだけど、ちょっとラーシュと何人かでテオドーラ王国の王都へ来てくれる? まぁ、四か月くらいで帰れるとは思うから」
「ん?」
リネアの一言に、僕は思わず生返事をした。
どこに行くって? テオドーラ王国の王都? 聞き間違いかな?
「どこに行くって?」
「だから、王都よ。テオドーラ王国の王都。私の家を案内してあげるから、楽しみにしていなさい」
「……えぇ?」
「なんで嫌そうなのよ!?」
思わず心の声が漏れ、リネアが両手を振り上げて怒る。上野動物園のゴリラかな? ウッホウッホ。
そんなことを思って眺めていると、リネアは口を尖らせて村の中心の方を指差す。
「私は恩返しのつもりで優秀な城大工を派遣したけど、テオドール王国としてはそれだけじゃすまないのよ。なんでもそうだけど、外部に何かするなら自国の利が無いといけないの」
「なんでさ」
不貞腐れて文句を言うと、リネアは眉を八の字にして溜め息を吐いた。
「分かってて聞いてるでしょ? 大きな国っていうのは王様一人が全て独断で動かすことはできないのよ。王国法的には国王の言葉が絶対だけど、そんなやり方をしていたら二百人以上いる貴族の反感を買うわ。特に、二つの公爵家と十の侯爵家の当主ね。王家に連なる者と興国の中心にいた一族だから、その影響力は無視できないわ」
リネアが思いのほか丁寧に説明してくれたので、肩を落としつつ頷く。
「……うん、分かってるよ。まぁ、仕方ないよね。昔から力を持った貴族や部下が反乱を起こす事例があったしね」
「あら? 良く勉強しているわね」
リネアが目を丸くして驚いているので、胸を張って威張ってみる。
「当たり前でしょ。お茶会やってたら軍隊が押し寄せたり、実の息子の肉を食べさせたら裏切られて国が滅んだり、酒池肉林の語源になった王様もいるし……」
「……私も知らないような歴史の話? テオドーラでもハーベイでもないわよね? 息子の肉を食べさせるなんて恐ろしい話、聞いたら忘れない自信があるけど……後で詳しい話を聞かせてくれる?」
地球のとんでもない歴史の話を口にすると、リネアは顔を顰めてそんなことを言った。いやいや、僕も漫画読んで覚えただけだからね。
「歴史の話は置いておいて、いつ王都に行ったら良いの?」
そう聞き返すと、リネアは何でもないことのように答えた。
「明日とか、明後日くらいかしら?」
「むりムリ無理」
急過ぎる為、即座に両手をクロスさせて大きなバツを作った。
「王女の言葉に逆らうつもり?」
「いや、村の防衛力をもう少し高めないと何ヶ月もいなくなれない。せっかく村をこんなに綺麗にしたのに、ドラゴンが来たら逃げなくちゃいけなくなっちゃう」
「……それは、ドラゴンが来たら逃げるでしょうよ」
僕の言葉に、リネアは呆れたように呟いた。




