暇人VS子供村長 60
「村長、これはどうする?」
「村長! 武器が壊れたぞー!」
「あ、鉄の矢が欲しいんだけど」
まるで狙っていたかのように、僕が村長になると同時に様々な要望が飛び出てきた。アーベルが村長の時にこんなに色々言われていただろうか?
否。これは嫌がらせに違いない。
「行商人の人と交渉しないとね」
そう口にして、僕はすぐに魔獣の素材の状態をチェック中だった行商人達に声を掛けた。
「ちょっと急ぎで話をつけたい! 赤猪は銀貨二枚! 黒狼は銅貨15枚でいかが!?」
「状態を見ないと分かりませんが、基本はそちらで構いません。ちなみに、こちらは塩一袋が銀貨一枚ですが」
「高い! いや、それが普通なのか……とりあえず、衣服とか武具は安いものから揃えようかな。あ、大牙猿とか、金貨相当になりそうな魔獣の素材はその度に交渉でお願いできる?」
「もちろん、構いません」
行商人と最低限の交渉を取りまとめ、村の皆にも周知しておく。さらりと村で売る時よりも良い条件で交渉を取りまとめた僕を誰か褒めてくれ。まぁ、普通は時間と金をかけて行商に来てくれた場合、売買の価格は渋くなるものなので、リネアの力があるのかもしれない。
ちなみに、村民達は自分たちで狩った魔獣が衣服や武具になると聞き、大喜びで行商人の下へ素材を持っていく姿が見受けられた。あれ? 君たち、人間を警戒していなかったかね?
そんなことを思いつつ、村長になったばかりのはずなのに忙しい僕。村の改造、商人との取引だけでなく、そもそもの最優先事項としていた皆の戦闘力強化も同時に進行中だ。職業適性ごとの効率的な熟練度の上げ方、スキルの取得方法を教えつつ、更に誰かが重要なスキルを習得したら、その班の戦術を一新する……結構ハードである。とはいえ、物凄く楽しいので寝食を放置して取り組みたいところだ。
だが、忙しさは中々のものである。
「ラーシュー!」
「おい、村長だろ?」
「あ、間違えた。村長ー!」
「はいはーい!」
村のどこを歩いていても呼ばれてしまい、右に左に走り回っている状況だ。
そして、その様子を見て村のご婦人方が笑っている。
「子供村長は大変ね」
「お腹空いてない? 何かあげようか?」
「大丈夫! ありがとう!」
返事をしながら、今度は村の入り口の方へ走った。村を取り囲む塀があり、出入り口の扉は開いている。
その出入り口の手前に、東屋のような休憩所があった。屋根と一辺にだけ壁がある開放感しかない建物だ。その下には大きな椅子が四脚あり、その一脚ではリネアが優雅にお茶を楽しんでいた。小さなテーブルにはティーセットまで載せられている。
「……やぁ、リネア。何を飲んでいるのかな?」
そう声を掛けると、リネアは目を細めて微笑み、陶器のカップを掲げてみせた。
「アンサートから輸入したハーブのお茶よ。最近はこればかりね」
「そうなんだ。ふーん、へー、ほーん?」
この忙しい時にのんびり優雅に茶を楽しみおって……そんな気持ちもあったが、ラーシュ君は大人である。
自然な返答をして、笑いながら立ち去ろうとした。しかし、それを引き止められる。
「あ、村長。そういえば、この村について色々聞きたいことがあるのよ。ここに座りなさい」
「え? 今忙しいんだけど」
「うん? ちょっと聞こえなかったわね。もう一度言ってくれるかしら?」
「……これは、ハイと答えるまで繰り返すやつじゃないか」
暴君リネアに逆らうことは難しい。仕方なく、リネアに対面する形で椅子に座った。
「良かったらイリーニャも座ってね」
「は、はい!」
「なんか、僕と対応が違うような……」
イリーニャは少し恐縮した様子で椅子に座り、リネアはそれを微笑とともに見守っている。
「イリーニャは可愛いからよ。ラーシュは全然私を敬わないし」
「敬われるような態度とか言動が……げふん、げふん!」
一言言い返そうと思ったが、リネアから恐ろしい目で睨まれてしまった。咳払いをして誤魔化したが、視線はいまだに僕に向いている。メデューサアイと名付けよう。
胸の内でそんなことを考えていると、リネアは溜め息混じりに笑い、口を開いた。
「冗談はそのくらいにして、要望を伝えるわね」
「はい」
可愛いと言ってもらえるように、背筋を伸ばして素直に返事をする。何故か気持ち悪そうに首を竦められた。
「……まず、一つ目の要望だけど、村の名前を決めてくれる?」
リネアにそう言われて、初めて僕は村に名前がないことに気が付いた。そういえば、いつも村って呼んでるわ。




