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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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まさかの大役 58

 村が良くなっていく様子を見て、住民である獣人たちも毎日驚いていた。家が一軒建つだけで大騒ぎである。


「すごい! 広い!」


「おお、風が吹き込まないぞ」


「雨が降っても雨漏りしないな!」


 少し物悲しい気持ちにはなるが、皆はとても喜んでくれていた。家が順番に建っていく度に、新築の家に誰が住むかと揉めるくらいのレベルだ。


 そして、上水道や下水道が整備されていく内に、生活環境の進化に驚愕していく。


「家から出ずに水が……!?」


「ば、馬鹿な……!」


「森に入ってトイレしなくて良いの?」


 これまでの生活環境がどれだけ大変だったのか。少し涙が出そうになるが、今は前を向いて歩こう。村はもっともっと良くできるはずだ。


「行商人の人とかが定期的に来るようになったら、もっと良くなるよね」


「はい! それが一番嬉しいです!」


 イリーニャもご機嫌である。ちなみに誘拐に関しては常にイリーニャが傍にいてガードすることになったようだ。完全に保護者である。


「おーい。ラーシュー」


「お客だぞー」


「え?」


 不意に名を呼ばれ、生返事をしながら振り向く。南側の出入り口からミケルとロルフが手を振りながら歩いてきた。その後方には、確かに大勢の人影がある。


「もしかして、行商人がきたの?」


 期待に胸を弾ませながら尋ねると、二人は顔を見合わせてからこちらに向き直り、曖昧に頷いた。


「まぁ、そうだな」


「他にもいるけど」


「他?」


 二人の曖昧な返事に首を傾げていると、ローブを着た男たちがざわざわしながら村に入ってきた。


「おお!」


「森の中にこのような……!」


「森の中の道もそうだったが、この村の発展ぶりは想像以上だ……!」


 驚愕する商人らしき男たちの声。馬車は二台。周囲には護衛らしき鎧姿が大勢……。


「ん? 騎士団?」


 傭兵特有の有り合わせ装備という見た目ではない。お金をかけてきっちりお揃いの装備をしている。それに、盾には何かの紋章が描かれていた。


 目を細めて騎士団の様子を眺めていると、その騎士団の奥から小柄な人影が歩いてきた。


「久しぶりね、ラーシュ!」


「ああ、リネアか。納得」


 現れたのはリネアだった。どうやら、行商人を護衛しつつ村まで来てくれたらしい。それでこんな特殊な陣営なのね。


「反応がおかしいわよ!?」


 リネアがショックを受けたように叫ぶ。どうやら、僕が跳びあがって驚くようなリアクションを期待していたようだ。


「ナント、リネア様デハアリマセンカ!」


「今更そんなこと言っても嘘だって分かるわよ」


 両手を広げて大袈裟に驚いてみせたのだが、リネアは腰に手を当てて口を尖らせた。しっかりとした演技が出来たと思ったが、気のせいだったらしい。


「本当に失礼な奴ね」


「ごめんね。元来の性格なもんで」


「嘘でしょ? 伯爵家はどんな教育してきたの?」


 軽口を叩いていると、リネアが眉根を寄せてそんなことを聞いてきたので、僕は視線を逸らして溜め息を吐く。


「……教育を、受けさせてもらえなかったんだ。僕、いらない子だから……」


「……っ! ご、ごめんね? そんなつもりじゃなくて……」


 冗談で凹んだフリをしてみたら、予想以上に慌ててしまった。これは申し訳ないと思い、明るい雰囲気で冗談だよと伝えてみる。


「嘘だよーん」


「…………こ、殺す」


 何故か、殺意を芽生えさせてしまった。ごめんて。


 怒りで拳を握るリネアの後ろから、見慣れた顔がにゅっと生えてきた。ドラスだ。ドラスは楽しそうに肩を揺すって笑い、僕を見下ろして口を開く。


「変わらぬな、ラーシュ! リネア様になんて口を、と怒らねばならないところだが、ラーシュの言葉遣いについては何も言うなと命じられておるからな。もっと色々と言っても何も言わんぞ」


「え、本当?」


 ドラスの言葉に思わず嬉しくなって聞き返した。すると、リネアが目を吊り上げてドラスを睨む。


「なんでもっと言わせようとしているのかしら? 減俸しても良いの?」


「な、なんと……調子に乗り過ぎてしまったか……!」


 リネアが給料を減らす旨を口にし、ドラスは肩を落として落ち込んでしまった。リネアのパワハラ現場を見てしまったようだ。


 恐ろしいブラックな世界を見ていると、リネアがふと思い出したようにこちらを見て口を開いた。


「あ、そうそう。森の近くの村があったでしょう? ハーベイ王国の」


「うん。もう何回か買い物に行ったよ」


 そう答えると、リネアが頷いて答える。


「その村、テオドーラ王国のものになったから」


「はい?」


 リネアの言葉の意味が分からず、聞き返す。いやいや、あそこはハーベイ王国フォールンテール伯爵家の領地の筈だ。何がどうなってそうなったのか。


 目を白黒させながらそんなことを考えていると、更にリネアはとんでもない発言をした。


「あの村を含み、この森周辺がテオドーラ王国に帰属することとなったのよ。ちなみに、あの村は王家の所有になるから、実質私のものね? 普段は代官を置いておくから、よろしく」


「リネアの村? リネア・ヴィレッジ……?」


「なに良く分からないこと言っているのよ。あ、それと、できたらこの村はラーシュが治めてくれる? 今後の村の発展やテオドーラ王国とのやり取りを考えると、それなりに教育を受けているラーシュにお願いしたいんだけど」


 と、リネアはとんでも発言をした。情報が溢れすぎてもうパンクしてしまいそうである。

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― 新着の感想 ―
外堀からじわじわ埋められてる感
あー、王女を襲った(事になっている)件を引き合いにして王国から割譲させたか、まあ問題のあった貴族の領地だったし、嫌とは言えんわなぁ(^_^;)。
これでラーシュたちは、リネアに守ってもらえるようになりましたけど、リネアには政治的にどんなメリットがあるのでしょう? かなり無理筋なことを強いたようにも思えますが…… 恩返しとしてはかなり手厚い保護だ…
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