村への転機 55
「わしゃ、城大工のグスタフじゃ」
「おお、グスタフさん。どうも。僕はラーシュです」
腰の曲がった白髪白髭のおじいさんが疲労感を滲ませて挨拶をしてくれたので、丁寧に頭を下げて挨拶を返す。まさか、大工の最高峰と呼ばれる城大工が尋ねてくれたとは、信じられない幸運。正直、大して役に立たない王様やら貴族やらが来るよりよっぽど嬉しい。
そう思って一瞬喜んだが、ふと、何故急に城大工が訪ねてきたのかと疑問を持った。
アーベルに連れられて部屋の外に出たのだが、なんの説明も無しにグスタフを紹介されたのだ。その後ろにはお揃いの鉄の鎧を着用した騎士達が三十人以上おり、他にも作業着みたいなのを来た屈強なマッチョメンが十人ばかり並んでいた。
まぁ、なんとなくグスタフを送り込んだ人物には想像がついた。
「もしかして、テオドーラ王国から?」
そう尋ねると、グスタフは白いひげを片手で撫でながら頷く。
「おお、そうじゃよ。リネア様から頼まれてのう。まさか、森の中を五日間も歩くことにはなると思わなんだが……」
困ったように笑いながら、グスタフはそう言って首を左右に振って村の様子を見た。
「うわぁ、ありがたい! お礼ってことかな? それなら物凄く嬉しいことだけど」
王女の命を救ったお礼として、村の存在をテオドーラ王国が認知してくれたと思っていたが、更に追加で村の改造をやってくれるのだろうか。次にリネアが村に来てくれたら果物をいっぱい出してあげよう。
グスタフ率いる大工と騎士達を眺めてそんなことを考えていると、グスタフが眉根を寄せ、唸った。
「村、というか、集落かのう。これは大仕事じゃぞい。近くの町や村で人員を雇わねば、十年は掛かるのう。しかし、この森の中を行き来するのは……」
溜め息交じりにそう口にしたグスタフ。その言葉を聞き、成程と頷く。
「あ、そっか! それなら、近くの村から森まで道を作ったら良いかな? そしたら、村の改造をしやすい?」
そう尋ねると、グスタフは目を細めて顔を上げた。
「おお、それは有難いのう。しかし、森を切り開くというのは厄介じゃぞ? 専門の木こりを二十人集めて、常に作業中を騎士団が守ったとしても十年以上かかる大事業じゃて」
グスタフはこちらの案を喜んでくれたが、現実的に考えて無理だろうと思っていそうだった。というか、僕のことを尋ねてきた割に、子供の言うことだからと笑っている感もある。いや、馬鹿にしているわけではなく、孫が頑張ってアイディアを出したので微笑ましい気持ちで頷いているような感じだ。
好ましい反応ではあるが、村を良くするのは急務である。なんとかアイディアを採用してもらいたい。
「あの、一応簡単な道を作るくらいなら一週間くらいでできると思うんだけど……」
「ふむ? 一週間とな? ふぁっはっはっはっは! いや、わしらもそうしたいところじゃが、この森は想像以上に深くて危険なんじゃよ? 一週間では木を二十本ばかり切って、根を掘り起こして地ならしをする途中というところかもしれんなぁ。出来たら草が生えんように石畳を敷きたいが、そこまですれば二十年以上かかるじゃろうよ」
グスタフはそう言って苦笑し、僕の頭を軽く撫でた。うむ、まったく信じられていない。
ならば、実際に見てもらうしかあるまい。
「アーベルさん、いける?」
「なにをだ?」
「斧を持って、木の根っこごと三段斬り」
「なるほどな」
端的な指示だったが、アーベルは軽く頷いて建物の壁に立てかけておいた大きな斧を取り出した。グスタフの隣を通り過ぎて村の入り口の方へ行き、一番近くにある木々に向き直った。そして、斧を構える。
「……三段斬り!」
スキルを発動し、アーベルの両手に握られた巨大な斧が残像を残して瞬時に三連続で振られる。大木の幹と根本を土ごと斬撃で破壊する。そこである重要なことに気が付いた。
木が倒れる方向を考えていなかった。
「……! 魔導操兵! 創造!」
巨大な大木が徐々に倒れてきている。そこへ、青い魔法陣から生まれた魔導操兵が腕を振るい、倒れてくる大木を両手で受け止めた。地響きが鳴り響き、皆が思わず身を竦ませる。
「な、なな、なんじゃあ……?」
大木の陰で目を皿のように丸く見開くグスタフの言葉。それに苦笑しつつ頭を下げ、木を指差す。
「ごめんなさい! 木が倒れる方向を考えてなかったね!」
ラーシュ君は素直に謝れる子である。褒めてほしい。
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