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【別視点】 青天の霹靂 51 

【ヨハンソン】


 王家の紋章の描かれた封蝋を見て、こんな時期に何の書状かと首を傾げる。王家の晩餐会という時期でもない。


 戸惑いつつ、ナイフの先を封蝋と書状の間に差し込み、横に捻った。封蝋は僅かに欠けて書状から外れる。残った封蝋の一部をナイフの柄で砕き、書状を広げる。そして、書状に書かれた文字を見て更に困惑した。


「……どういうことだ」


 何が起きているのか理解できず、再び書状の内容を読み直す。


「……テオドーラ王国? 何故、テオドーラ王国の王家が直接、このフォールンテール伯爵家を非難する」


 今、ハーベイ王国はムンド皇国と微妙な関係となり、できるだけテオドーラ王国を刺激しないように誤解されないように意識している。フォールンテール伯爵家は確かにテオドーラ王国の領地と隣接しており、過去には騎士団の遠征の際などにいざこざがあったこともある。だが、近年は一切そんなことは起きていないのだ。


「あら、ヨハンソン様。どうかされましたか?」


 書状の内容を確認し、早急に王都に行こうと準備をしていると、偶然通りかかったオリヴィアが声を掛けてきた。家を留守にすることが増えたが、オリヴィアは当主代行と言っても良いくらい働いてくれている。また、教育熱心で息子のニルスとエリックもスキルを二つ以上覚えたという。執事長から聞くには、勉学でも優れているというから大したものだ。


「うむ。王都に召集されたのだ。何故かは知らないが、テオドーラ王国が我がフォールンテール伯爵家を非難しているという。隣接していることが原因で何か誤解があったのだろう。とりあえず、詳しい話を聞いて対応するとしよう」


 そう告げると、オリヴィアは眉根を寄せて首を傾げた。


「まぁ、テオドーラ王国が? しかし、誤解ならば大丈夫でしょう。どんな誤解をされているのでしょうね?」


 オリヴィアが不思議そうにそう口にしたので、溜め息を吐いて答える。


「フォールンテール伯爵家が雇った暗殺者六名が、テオドーラ王国の第三王女を暗殺しようとした、というのだ。当たり前だが、事実無根のことだ。反対にこちらがテオドーラ王国に謝罪を要求することができるだろう」


 まったく、くだらない戯言だ。そう思っての言葉だったが、オリヴィアの眉間に刻まれた皺が深くなった。


「……六名の暗殺者?」


 低い声で一部の言葉を反芻する。確かに、やけにその部分だけが詳細だったことを思い出す。


「そうだ。説得力を持たせる為かもしれないが、暗殺者は魔術師が一人と戦士、盗賊の六名らしい。灰色のローブを着た一団で、森の中に迷い込んだリネア王女を暗殺しようとしたようだ。どう考えても……」


 書状の暗殺者について記された部分を思い出しながら答えると、オリヴィアの唇が震えていることに気が付いた。視線が定まらず、瞳が泳ぐように忙しなく動いている。


「……どうした、オリヴィア」


 尋ねると、オリヴィアは普段の余裕が嘘のように動揺したまま顔に笑みを張り付けた。


「い、いえ……それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。私は、少し用事を思い出しまして……」


 そう言ってどこかへ行こうとするオリヴィアに、声を掛けて立ち止まらせる。


「ちょっと待て」


「……っ」


 息を呑み、こちらに背を向けたまま立ち止まるオリヴィア。その背を見て、確信に変わる。オリヴィアは、この件について何か知っている。それも、当事者の一人として。


「話を詳しく聞きたいが、時間がない。王都に付いてこい。馬車の中で話を聞くとしよう」


 これまでに出したことのない、重い声でそう言った。それにオリヴィアは返事をしなかったが、どうやら逆らう気はないようだった。





 王都に到着し、夕方ではあるがその足で王城へと向かった。後ろからは憔悴した様子のオリヴィアが付いてきているが、今は顔も見たくなかった。


 なんということをしてくれたのか。いや、これまで裏でどれだけのことをしてきたのか。全てを聞き出す余裕は無かったが、今回のことについては把握することができた。すべてはオリヴィア一人が裏で動き、起こしてしまった事態だ。しかし、それは陛下にもテオドーラ王国にも関係ない。


 全ては、この私が受けるべき罰となるのだ。


 どうにか、フォールンテール伯爵家だけは守らなければならない。個人として私とオリヴィアが処罰されたとしても、どうにか伯爵家には被害を出さないようにしなければならない。


「閣下。どうぞ、お入りください」


「……ああ」


 陛下の待つ謁見の間の前で深呼吸をし、顔を上げた。扉が開かれ、視界が開ける。天井の高い広間だ。左右に大きな柱があり、奥の方には五段程度の階段があった。その上に豪華な椅子があり、一人の人物が座している。


 銀髪の男だ。髭を伸ばしており、四十代には見えない見た目をしている。瞼が半分閉じられたような目つきで、こちらをじろりと見据えていた。国王、フレデリク・イェオリ・フォン・ハーベイ、その人だ。


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― 新着の感想 ―
まあ主人の気付かない間に、配下の地位の高い者を、オリヴィアが彼女のイエスマン達に仕立て上げ・すげ替えちゃったもんねぇ(次代での家督乗っ取りの為に)。 どう転ぶにしろ、主人公にはまず市井で成り上がって力…
ついにざまぁが来るか!? でも後妻と暗殺者の繋がりが証明できるのかな 法的効果のある真偽を判定する魔道具とか、そういう性格の魔法を持つ司法官とかがいるのだろうか
ラーシュ本人がお城にくることになりそうな気がするなぁ
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