ラーシュ君の事情 50
こうなったら全部話そう。他国の王女が聞いているからなんて遠慮はせず、オール暴露だ。
そんなノリで、僕はこれまでのことを話した。悲しいラーシュ君の過去である。
赤ん坊の頃に母が亡くなり、継母に虐められ、職業適性が商人と分かってからは居場所も無くなった。アカデミーに入学できるだけの学力はあったが入れてもらえず、あまつさえ伯爵家の恥として、一生をかけて森の開拓を命じられた。そんな過去である。
あれ? 思い返してみると想像以上に不遇。ミスター不遇とは僕のこと。
「……なんという、辛い想いをしておったのか」
「……まだ十歳だったか」
「生まれてからずっと愛情を知らずに……?」
僕の過去を聞いた全員が沈痛な面持ちとなり、中には涙を滲ませる者もいた。何故か暗殺にきた張本人達も居心地悪そうに遠くを見ている。
「お前達……! こんな子供を……!」
「恥を知れ!」
何故か、暗殺者だけでなく護衛をした獣人の傭兵達にも非難が向かう。
「お、俺たちは知らなかったんだ!」
「勘弁してくれ!!」
皆の視線が集まり、暗殺者の護衛をした獣人達は顔面蒼白でそう言った。まぁ、そうだろうね。
あまりにも可哀想な子という扱いになってきたので、一応良いこともあったことを伝えておく。
「いや、僕にはイリーニャがいたからね。他にも味方をしてくれる使用人の人とか」
「は、はい。だから、私たちはラーシュ様が素晴らしい人で、心からお仕えしようと決めたのです。本当なら、私と同じようにラーシュ様に付いていこうとした人もいましたが、あまり大勢を連れていくことは許可されず……」
悲しそうにイリーニャがそう呟くと、皆の怒りのボルテージがさらに増加した。
「な、なんという鬼のような男だ! 貴族の風上にも置けぬ!」
「ラーシュはこんなに賢いってのに」
「許せないな」
場の空気が少しずつ剣呑なものに変わっていき、木に縛り付けられたままの男達は身を固くした。
一方、リネアは腕を組んで冷静に頷いている。
「つまり、不当な扱いをして、領地の端に追いやったのね。そして、森の開拓を……森の所有権という問題もあるけれど、今は暗殺について話しましょう。正直、黒幕はその後妻だと思うけど、他にも可能性はあるかしら?」
「ないと思う」
リネアの推測に頷いて答える。まぁ、十中八九そうだろう。そんな僕の回答を聞き、リネアはにっこりと微笑んだ。
何故だろうか。微笑んでいるのに、とても恐ろしい。
「ドラス。後は簡単よね?」
「はっ! そこまで分かっていればすぐにでも吐かせてみせましょう。なぁに、指の一つや二つ失えばすぐにでも吐くことでしょう! わっはっはっは!」
大笑いしながら剣を抜き、木に縛り付けられた男達の下へ向かうドラス。狂気すら感じる光景だ。これにはさしもの暗殺者達も震え上がった。
「わ、分かった! 話す! 話すから!」
「こ、殺さないでくれ!」
どうせ雇われただけなのだろう。笑いながら迫るドラスを見て、男たちは即座に自白を約束したのだった。
翌日。リネアは色々としないといけないことがあるらしく、帰るとのこと。まぁ、王女様だからね。むしろ、簡単に二週間とか三週間とか自由に出て回れるのがおかしい。
ちなみに、その際に「使い道があるので譲ってほしい」と言われたので、暗殺者の男六名をリネアに預けることにした。どうするのかと思ったが、こちらとしても逃す勇気は無いし、かといって村まで連れて行って騎士団に突き出すこともできない。そんな理由もあり、連れて帰ってくれるなら有り難いということとなった。
「それじゃあ、また会いましょう」
紐で数珠つなぎに繋いだ男達を騎士が取り囲み、森の方へと歩いて行く。リネアとドラスは最後尾で僕たちと向き合っていた。リネアは笑顔でそう言ってくれたが、一言告げておかなければならない。
「言っておくけど、恐いから目印は消しとくからね?」
「ちょっと! それなら違う目印を置いておきなさい!」
リネアは怒ったように文句を言ってきたが、これにはごめんなさいである。
「だって、また暗殺者が来るかもしれないし……」
「……仕方ないわね。それじゃあ、川のところに一か所だけ目印を置いておくわ。それを無くしてたら怒るわよ?」
「へい」
一つだけなら仕方がない。許可しよう。
そう思って返事をしたのだが、リネアとドラスは揃って笑い出した。
「わっはっはっは!」
「本当、面白いわね。ラーシュくらいよ、私にそんな返事ができるのは……もし、職業適性についても話せるようになったら、それも教えてね」
二人はそう言って、笑いながら手を振り、森に帰っていった。職業適性については話しても良かったが、聞かれるまでは黙っているだけである。まぁ、あえて言うこともないが。