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【過去編】 異世界転生 5

 景色が変わった。場所はどこかの建物の中だ。てっきり普段の大神殿の景色に切り替わるのかと思ったが、豪華な宿屋の一室といった景色である。天井が高く、窓が大きい。ただ、家具が妙に手の込んだ代物だということが気になった。


 転生はできたのか?


「……もしかして、転生をして失神してしまい、宿屋で目を覚ますという設定、とかかな?」


 そう呟いた時、自分の声が妙に高い気がして少し驚いた。


 いや、そもそも、実際に体を起こした感覚があるのはどういうことだ。


 そう考えれば、手のひらや指先には滑らかな布の感触がある。それも綿ではなく、絹のようにきめ細かで柔らかな感触だ。


「あ、ラーシュ様……起きられましたか?」


 その時、不意に少し高い女性の声が聞こえてきた。左手側、少し離れた場所からだと思う。混乱しつつも声のした方向に振り向くと、そこには獣人族の少女が立っていた。暗い赤。肩にかかるほどの赤銅に近い色合いの赤い髪と、猫系の三角形の獣の耳。服装はポピュラーな白と黒を基調としたメイド服だ。


 宿にメイド?


 そんな疑問も微かにあったが、それよりもなによりも、そのグラフィックのリアリティに驚いた。衣服や肌の質感だけではない。髪の毛一本一本まで丁寧に作られている。そして、息遣いによる肩の僅かな上下に加え、瞬きの仕方。さらにはこちらの反応を待つような、困惑しているような複雑な表情の変化。


「……今回のアップデートって、全てのNPCがこのクオリティーになってるの? 嘘でしょ?」


「あ、あぷでーと? え、えぬぴーしー、ですか?」


 なんと、僕の喋った言葉を少女は反芻した。それも、世界観に合わせてゲームの用語が理解できないといった様子である。少女は可愛らしい声でそう言うと、小首を傾げている。


 視界の端に寝具のようなものが映り、自分がベッドの上にいるのだとようやく理解した。やたらと大きなベッドの上をハイハイのような格好で移動し、少女の方へ移動する。ベッドの端に座り直し、改めてしっかりと観察してみた。


「な、なな、なんでしょう……?」


 急に近づかれて驚く少女。うむ、驚くほどのリアリティー。このLOGというゲームが出て一気にグラフィックは進化したと言われているが、それにしても急激な進化だと思う。少女の緊張と不安が伝わってくるような空気感は、どうやってゲームで表現したのだろう。


 それに、リアクションは決められたものなのだろうか? ならば、こちらが口にした単語を繰り返したのは何だったのか。もしかして、AIによる会話も可能になっている?


「……質問しても良い?」


「あ、は、はい! わ、私に分かることであれば……」


 何故か慌てた様子で少女がそう答えた。まるで、主従関係のようである。いや、ここが宿ではなく富豪か貴族の邸宅なのだとしたら、この少女は本当に侍女という設定なのかもしれない。


「君のことを教えてくれる?」


 そう尋ねると、少女は目を瞬かせたが、すぐに口を開く。


「わ、私は、イリーニャ・リリヤと申します! 猫系の獣人で、フォールンテール伯爵家に買われて五年……いえ、六年目となります! え、えっと、伯爵家のみ、皆様には、奴隷とは思えないような、素晴らしい扱いをしていただき、とても嬉しく……いえ、光栄なことだと、思っております!」


 イリーニャと名乗る少女はまるで面接会場のようにハキハキとそう答えた。だが、何故か怯えているような気配がする。これは、何かのイベントキャラクターなのだろうか。いや、それにしても驚くほどのクオリティーだ。


「イリーニャ。可愛い名前だね。猫だからかな?」


「え? あ、ありがとうございます……」


 名前を褒めると、イリーニャは戸惑いつつも明らかに照れたような表情を見せて顎を引いた。少し俯きがちに照れている様子を見ると、身長は高そうなのに子供のようにも見える。というか、見た目で推測するなら十歳前後くらいだろうか。獣人は身長が高いなんて設定は無かったはずだが。


 そんなことを思って首を傾げつつ、最初に声を掛けられた時から振り返って考察する。転生イベント後に声を掛けてきて、それにプレイヤーが反応する……そう考えれば、パターンは少しは絞られるかもしれない。しかし、それを放置するプレイヤーだっているはずだ。これだけ柔軟に対応できるなら、会話はAIで行われているとみるべきだろう。


 そこまで考えて、ふと最初に声を掛けられた時の言葉の中に気になる単語があったことを思い出した。


「あれ? ラーシュ、様? ラーシュって僕かな?」


 もし名前を呼ぶならキャラクター名の筈だ。しかし、僕のキャラクターはラーシュという名前ではない。


 疑問に感じて質問したのだが、イリーニャは首を傾げながら頷いた。


「は、はい。恐れながら、ラーシュ様は、ラーシュ・リーン・フォールンテール様で……フォールンテール伯爵家の御嫡男であられます」




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― 新着の感想 ―
このゲームゴーグルつけるタイプのVRでSAOみたいな未来の技術のフルダイブ型ではないみたいだけど、流石にフルダイブ型ではないのなら現実だってすぐ気づくんじゃない?ゴーグルつけてる感触がなかったら違和感…
猫獣人メイド、良いね。
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