商人 46
歓迎の式典は質素なものだった。しかし、この村で考えたらお祭り以上の豪華な式典である。
「それでは、何故か式典の司会進行を任されたラーシュ君です。皆様、よろしくお願いいたします」
「……自分に君とかつけてるぞ」
「わー、ラーシュー!」
「頑張れー!」
皆からの歓声と応援の声を一身に受けながら、僕は少し離れて座るアーベルとリネアを見た。椅子は普通の木の椅子だ。だが、簡単ながら壇上を作り、その周囲には村人やリネアの近衛騎士団の皆が座ってみているので、何となく式典らしい雰囲気にはなっている。
二人を交互に見つつ、軽く咳ばらいをして口を開く。
「テオドーラ王国第三王女、リネア・クララ・テオドーラ様が、こんな森の奥深くにある我らがアーベル村に来訪していただいたことを記念して、ここに歓迎の式典を開かせていただきます。司会進行は我らがラーシュ君です。よろしくお願いいたします」
「おー!」
「ラーシュ、格好良い!」
「さっきも挨拶してなかったか?」
皆の良いリアクションに大きく頷き、リネアに視線を移す。
「それでは、テオドーラ王国第三王女のリネア様。我が村で最高のおもてなしをご堪能ください。ちなみに、食事以外は期待しないように」
「……まぁ、森の中と考えたら十分だけどね」
と、リネアは呆れたような顔で笑っていた。何故だ。実際にこの村で歓迎といっても食事くらいしかないのだ。あ、果物を追加で取ってくるべきか。
「それでは、最後に式典を記念してリネア様の自筆による書状と、永久に残るように石板にも同様のものを用意したいと思います。ちなみに、石板は村の入り口に目立つように設置します」
「抜け目がないわね」
「ありがとうございます」
そんな感じで、ちゃちゃっと簡単に式典は終わり、皆で食事を楽しんだ。今回はしっかり準備をしてきたらしく、リネア達が調味料やパンなどを持ってきてくれたことが一番嬉しかった。
書状や石板は簡単に作ってしまったので、その日のうちに完成する。
「いやぁ、助かった。リネア様、ありがとう。また暇な時は遊びに来てね」
「え?」
書状と石板が出来たと喜び、リネアに感謝と別れの言葉を伝える。すると、リネアは目を瞬かせて疑問の声を上げた。
「え?」
疑問を返すと、リネアは足元を指差して口を開く。
「二、三日は滞在するわよ? せっかく来たんだし」
「え?」
「なによ?」
衝撃の発言をされ、思わず聞き返してしまった。それにリネアは不機嫌そうに口を尖らせる。どうやら、本気で滞在するつもりのようだ。
「大国の王女様が数日いるなんて、村の者たちが緊張してしまいまする」
「全然緊張してないじゃない」
「もう手と足が震えて歩けないくらいで……」
「王族に嘘吐いたら死刑よ?」
「スミマセン。僕は緊張してないかもしれません」
「そうでしょうね」
そんな間の抜けたやり取りをして、結局リネア達は村に数日滞在することとなった。
こんな村に王女が満足する物などないぞ。そう思ったが、何もない貧乏な村は反対に興味深いとのことだった。
キャンプか何かと勘違いしていないだろうか。
「イリーニャは街で暮らしていたのね。不自由はないの?」
「はい! 皆さん優しいので、楽しく暮らせています!」
滞在中に急激に仲良くなったのか、リネアはイリーニャとよく談笑していた。無邪気な笑顔をみせるイリーニャを見て、初孫を見たおじいさんのように頬を緩ませている。
「あー、可愛い! 持って帰ろうかしら!」
「ひゃあっ!?」
我慢できずにイリーニャの頭を抱いて撫で回すリネア。一日数回はそんな場面が見られた。
ちなみに子供の何人かも同様にリネアに可愛がられていて、今ではリネアに追いかけられて笑いながら逃げるような関係性になっている。
ははは、同レベル。
そんな新しい生活が三日過ぎた時、謎の一行が村に現れた。それも大人数だ。
「おぉ! ここが、森の中に住む獣人達の村!」
大きな声でそう言って現れたのは、灰色のローブの男だった。周りには他に五人の同じようなローブ姿の男がおり、残りは護衛らしき傭兵達だった。総勢十六人である。
ローブの男達に見覚えはないが、護衛の者達は以前村に迷い込んできた獣人の傭兵達だった。
どうやら、森の中で狩った魔獣の素材を売りに行ったら、どこで仕入れたのかと話題になったらしい。そこで、つい森の中で暮らす獣人達に助けてもらったと話したようだ。
これは良い商売になるかもしれないと商人は考え、危険を承知でわざわざ村まで足を運んだとのこと。
うむ。めっちゃ怪しい。




