来客が 45
それから一週間後、またもや村に客が訪れた。今度の来客は間違いなく村を目指してきた一行だ。
何故なら、現れたのはリネア達だからである。
「久しぶりね」
胸を張り、笑顔でリネアがそう言った。
「そんなに久しぶりというほどでも……」
「何か言った?」
「イエ、ナンデモナイデス」
会って早々に王女の御機嫌を損ねてしまった。何故だ。
そんなことを思っていると、リネアの斜め後ろに立つドラスが声を出して笑った。
「おお、相変わらずの恐れ知らずだな。一応言っておくが、今回は王女として正式な訪問だぞ」
「正式な訪問……? え? どこの国にも属していないような集落に?」
ドラスの発言に驚いて聞き返す。それにリネアが肩を竦めて苦笑し、答えた。
「どこの国でもない村に、正式に王女である私が訪問をしてあげたのよ? 感謝しなさいな」
そう言われて、ようやくリネアの真意に思い至る。
「ああ、なるほど! それはありがとう! それじゃあ、我が村の村長であるアーベルが指揮を執り、大々的に歓迎の式典をさせていただきます! さぁ、アーベル村長! 式典の準備をしましょう!」
「ん? 何? 式典、とはどうすれば良いんだ?」
突然話を振られ、アーベルは一目で分かるほど困惑した。まだ意味は理解していないようなので、こっそり状況説明を行う。
「とりあえず、この式典をしたっていう事実が残れば良いんだよ。美味しい食事を準備して、皆でお祭りみたいに騒げば良いから。後は、リネア様の直筆の書状とか、名前が彫られた石碑とか、何か歓迎の式典をやった証拠を残せたら完璧かな」
「それに何の意味があるんだ?」
「まだどの国も知らない、ただの集まりでしかなかったこの村が、テオドーラ王国に認識されることとなるんだ。それに、王女様が公式に訪問して歓迎の式典を受けることで、テオドーラ王国がこの村の存在を認めるという風にとれる形になる」
「ふむ。では、独立して国になったようなものか」
「う~ん、国っていうほどきちんとはしてないけどね。とりあえず、この村に手を出そうと思ったら、まずはテオドーラ王国に確認しようってなるから、それだけで大きな抑止力になるんだ」
「そういうことか。理解したぞ」
ざっくりとした説明をしてみたが、意外にもアーベルはすぐに理解してくれた。素晴らしい。
「……ラーシュ。お前はどこの国の者だ?」
不意に、ドラスがそんな質問をしてくる。それに条件反射で苦笑しつつ、首を左右に振って答えた。
「どこだろうねぇ。難しい話は分かんないな」
子供らしく振舞ってみたが、ドラスは仏頂面で腕を組んだ。
「……それだけ政治的な部分を理解しておるなら、間違いなく貴族かそれに準ずるだけの教育を受けた者だろう? こちらは公式での訪問だと言っておるのに、そんな態度で……」
「別に良いわよ」
ドラスが苦言を呈そうとしたところを、リネアが一言で切って捨てた。その言葉に、ドラスは眉間に皺を寄せながらも黙り込む。それを見て笑いつつ、リネアは含みのある笑みを浮かべた。
「ラーシュ達は命の恩人よ。恩人が嫌がることなんてしないわ」
「あ、ありがとう」
少し不気味だと思いつつ、リネアの言葉に感謝を述べる。すると、リネアは満足に頷きながらアーベルに声を掛けた。
「それでは、しっかり歓迎してもらうわよ。なにせ、森の中で五日間も彷徨っていたんですからね」
「……ん? 五日? もっと何日も掛かって根性で辿り着いたのかと思ってたよ。村には来たことないのに、よく辿り着いたね」
「今回は森の中を探索できる斥候の専門家を連れてきたのよ。まぁ、目印を付けてくれていたから思ったより楽に来れたけど」
そう言ってリネアは腰に手を当てて胸を張る。壁だ。
「……ん? 目印?」
ふと、リネアの口にしたセリフの中に気になる言葉があった。聞き返すと、リネアは目を瞬かせて首を傾げる。
「目印よ。木に彫っていたでしょう? 丸を」
「丸? そんな目印いつしたかな?」
リネアの説明を聞いても全く覚えがない。いつの間にそんなものを用意したのか。そう思って振り返ったが、アーベル達も首を傾げていた。
「……いや、俺は知らない」
「俺も」
「俺たちはそもそも目印なんていらないからな」
アーベルに続き、ミケルとロルフも知らないと答える。なにやら不穏な気配。
「……もしかして、私たちより先にこの村に誰か来たのかしら?」
不穏な気配はリネアも感じたのか。そんなことを尋ねられた。それに頷き、獣人の傭兵たちのことを思い出す。
「十人くらいの獣人の傭兵団が来たね。森の中を迷って、偶然この村に辿り着いたみたい。そういえば、村のことを色々と聞いていたけど……」
「賊の可能性もあるわね。まぁ、貴方達なら撃退できるでしょうけど、少し心配ね……」
「この森の中には山賊の類はいないから、村からきた盗賊団とか? でも、かなり傭兵団っぽい感じではあったけど」
そう答えつつ、不安は薄れなかった。何だろう。嫌な予感がする。




