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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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森から出た  40

 あれから三日。ミケルとロルフのお陰で魔獣とはほとんど遭遇せず、予定以上の速さで行程を進むことができたようだ。だが、それでもシティーボーイの僕は限界である。


「やっと、森から出られる……」


 疲労感たっぷりに呟くと、イリーニャが困ったように笑った。


「お疲れさまでした」


「ありがと……」


 答えつつ、大きな木の幹に手を置き、体を支えながら坂道を登っていく。本当にしんどい。普通、森から出る時は坂道を下るような形で設計されていないだろうか。やっと森から出られるぞーって感じで、坂道を転びそうになりながら走っていきたい。しかし、この森はなぜか最後に試練を与えてしんぜようみたいなノリで登りの坂道が設けられている。


 内心、色々と文句を言いつつ坂道を上り続けた。そして、ようやく陽の光を全身に浴びることができた。


「や、やった……! ついに外に……!」


 両手をあげて、喜びの声を上げながら外に出る。くるぶしくらいまでの背の低い黄色の草が広がっており、それを踏んで軽く息を吐く。


「……うわぁ」


 思わず、そんな声が出た。


 視界の半分は青い空と白い雲。薄っすらと月が二つ浮かぶ空はどこまでも澄んでいる。そして、残り半分の地上の景色だ。黄色の背の低い草がどこまでも広がっており、まるで巨大な絨毯が広がっているように見えた。


 汗を掻いた肌を冷ましてくれる優しい風が吹き、黄色の草原が風の流れを表現するように波打っている。踏んだ時に感じたが、かなり柔らかい草のようだ。空気を含んでいるようにふわりとしている。


 そして、その黄色の草原のずっと向こう側に、明らかに人工的な建造物があった。距離があるので小さく見えるが、おそらくそれなりの規模の町だ。大きいと断定できない理由は、町が壁で囲われているからである。


 城塞都市と呼ばれる造りだが、この世界では一般的である。何なら壊れた建物は修復しないが、城塞が壊れたら即座に修復する。理由は簡単で、魔獣の脅威が常にあるからである。


 あの町はそれなりに大きな城塞を設置しているようなので、多分大きい町じゃないかと思っている。貧乏な村なら土の壁を作っていることが多いからだ。修復が楽で村の状況に合わせて形を変えることもできる。人口が少ないこともあって、知恵と工夫で凌いでいるのだ。


「おお、絶景だな!」


「やっと出られたわね」


 遅れてドラスとリネアも森から出てきた。まだまだ元気なドラスと、疲労感を滲ませて背筋を伸ばしているリネア。そうだよね。普通は疲れるよね。


 そんなことを思いながら、普段と変わらない雰囲気のイリーニャとアーベルを横目に見る。なお、ミケルとロルフは森と草原の境界線をチェックしに行った。人間の匂いを追って魔獣が森の外へ出てくることもあるらしい。完全に美味しい食事と思われている。


「……ここはどちら側なのでしょう?」


 ふと、イリーニャが小さな声でそう聞いてきた。その質問を聞き、確かにと頷く。もう死んだと思われているだろうから大丈夫と思うが、もしハーベイ王国の村であれば困ったことになるかもしれない。


 今の状況を考えると、僕は死んだことにした方が都合が良いかもしれないのだ。


「アーベルさん。あの町はどこの国の町かな?」


 ごく自然な態度で質問をする。それにアーベルは軽く頷いて答えた。


「あれはハーベイ王国の村だ。確か、ルンドという名だったか」


 あっさりとそう答えられて、無意識に肩を落として溜め息を吐く。


「なんだ?」


「いや、別に……」


 アーベルに返事をしつつ、周りを見る。リネア達は顔を突き合わせて会議をしている。すぐに村に行きたいが、テオドーラ王国ではない領地であることが引っかかっているのだろう。隣国の王族が突然自国の村に来たら色々と大問題だ。国境をさらっと跨いでしまっている。


 そんなこんなで話し合った結果、リネアはこっそり村に行くことにしたようだ。


「どちらにしろ限界だったし、村に行って物資と馬車を買って傭兵を雇ってテオドーラ王国に戻るわ」


「お金は? テオドーラ王国の金貨とか駄目じゃない?」


「……そ、そうね。何か物々交換できる物とかあったかしら?」


 ドラス達はかなり抜けているのか、根本的な問題が解決されていないようだった。苦笑しつつ、アーベルに顔を向ける。


「魔獣の素材をあげて良い?」


「む? まぁ、良いだろう」


 あっさりと許可が出た。森の中で倒した小型魔獣や比較的弱い中型魔獣の素材は村で売ることができるので、ミケルとロルフ、騎士の皆さんが皮の袋に入れて持ってくれているのだ。魔獣の一部は騎士達が倒したし、ちょうど良いよね。


「魔獣の素材が売れるみたいだよ。これで軍資金を準備しようよ」


「え? でも、それは……いえ、ありがとう。確かに、我々にはそれが必要だわ。いずれ必ずお礼をさせてもらうわね」


 リネアは僕の提案を遠慮しようという素振りを見せたが、すぐに自分たちの状況を思い出し、笑顔でそう言ったのだった。


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