【過去編】 転生システム 4
いつも以上に急ぎ足で帰宅を果たし、見慣れたワンルームの部屋に入ってすぐに部屋の奥へと行き、ゲーム用パソコンの電源ボタンを人差し指で押す。
すぐに立ち上がるが、焦ってはいけない。まだ五分前だ。
その五分の間にスーツからリラックス部屋着であるフリース上下に着替え、飲み物なども用意する。お菓子が一袋あれば最低五時間はパソコンの前から移動せずに済むだろう。ちなみに飲み物はテンションを上げてくれる炭酸飲料である。シュワシュワして美味しい。
そんなことを考えながら、最新VRゴーグルを手にLOGのアイコンをクリックした。そして、VRゴーグルを装着する。一瞬だけ視界に真っ黒なウィンドウが立ち上がり、すぐにLOGの運営会社のロゴが表示された。その後、広大な世界を背景に『Lord of Grandeur』の文字がキラキラと現れる。
フェードインしてくる壮大な音楽を耳にしながら、テキパキとプレイ準備を整えていく。この瞬間の動きは誰よりも洗練されている自信があった。なにせ、VRゴーグルを少しだけずらした状態での行動である。転倒しないだけでもすごいだろう。
キャラクター選択画面へ移行しようとすると、アップデートの文字が現れ、脊髄反射で同意を押す。すべての文字を読み飛ばしたが、問題はないだろう。ローディング画面では灰色を基調としたグラデーションカラーのバーが左から右へと延びていく。今回の大型アップデートは容量が大きいため、少し時間がかかった。
椅子の上でそわそわしながら胡坐を掻いてみたり足をぶらぶらしたりして待つ。ついに、ローディング画面からキャラクター選択画面へと切り替わる。
これまでに作った四体のキャラクターが表示され、一番右側のキャラクターを選択すると現在のステータスと装備一覧が現れた。レベルはカンストしており、転生の条件もクリアしている筈だ。
見た目は青い髪、紺色の目の美青年である。見た目より機能優先ということで装備は少し統一感に欠ける様相ではあるが、その強さは中々である。しかし、職業は戦闘に不向きとされる商人系の上級職、魔導技師である。
もちろん、一対一での戦闘は一番左にいる騎士系のキャラクターが最も強く、攻城戦ではその隣にいる魔術師系のキャラクターが最も優秀だろう。しかし、それぞれが転生した場合はどうだろうか。恐らく、いや、間違いなくこの魔導技師が最強になる筈だ。なにせ、器用貧乏と言われていた原因であるスキルポイント問題が解消される。さらに、特化したステータスにすれば強化する割合が最大限生かされるはずだ。
自らの作り上げたキャラクターの未来の姿を想像し、テンションを上げてVR専用コントローラーに持ち替え、キャラクターを選択する。
画面が暗くなり、前回停止していたエリアの景色が広がった。アップデート後すぐに転生しようと思っていたので、場所は自分が所属するイェータランド王国の王都にある大神殿である。真っ白な石で建てられた、見上げるほど大きな神殿。もう何度も来ているが、その荘厳な姿は見る度に感動してしまう。
しかし、今はそれよりも転生である。新システムを一番に試すのだ。すでに背後からは別のプレイヤー達が集まってきている。負けられない戦いがここにある。
そう思って中に入ったが、大神殿内の景色が変わっていて驚いた。いや、呆気にとられたと言った方が良いかもしれない。
「え? ここどこ?」
思わずそう呟いてしまった。ステンドグラスから様々な色の光が降り注ぐ神殿内が表示される筈が、そこには美しい水面が広がっていた。屋内のはずなのに周囲は真っ暗な背景になっており、吸い込まれるような闇が広がっている。そして、水柱からは青い光の柱が幾つも立ち上っており、幻想的な空間を演出していた。
その中心には白い砂の陸地があり、足元からその陸地まで白い砂の細い道が続いている。
ここを歩けということか。そう思い、白い砂の上を歩いて進んでいく。まるで現実の世界のように感じるほどの映像だ。いや、多人数で同時に広大な世界を旅することができる割に、LOGのグラフィックは異常なほどのクオリティーだと言われているが、この大神殿内の光景は完全に実写と同じレベルだ。
「……これは、凄いな」
息を呑むというのはこのことか。そう思わされるほどの映像に感動しながら歩いて行く。細かな砂を踏み歩く音と感触。妙に冷たい空気。
それらを感じながら歩いて行き、何か違和感を覚えつつ、白い砂の陸地の上に立った。
直後、空から白い光が落ちてくる。美しい女性の声が聞こえてきた為、ここで転生するかしないかを選択するのかと思った。もちろん、イエスだ。考えるまでもない。
だが、予想外にも女性の声は日本語ではない不思議な言語を話す。これはバグか、エラーか。言語設定がおかしくなってしまったのだろうか?
そう思ったが、今はエラー報告よりも転生である。何かを聞かれたような感覚はあったので、問答無用で「はい」と答えてみる。駄目ならやり直しだ。
そう思ったが、世界は真っ白な光に包まれたので正解だったかと一安心したのだった。
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