この世界の強者 39
「ドラスさん達って皆職業適性は戦士?」
気になったので早速聞いてみた。すると、ドラスは胸を叩いて頷く。
「うむ。我らは幼少期より剣の訓練を続けてきた生粋の戦士である」
「おー。スキルは?」
「それは言えぬぞ。軍事機密である」
「ケチ」
「け……!?」
愕然とするドラスを放っておき、後ろに並んで歩いている騎士達にも声をかけてみる。
「皆は何ができるの?」
突然話を振られたからだろうか。赤髪と金髪の騎士はキョトンとして答えようとした。
「え? 何がって、難しいな」
「あー、飛燕斬とかか?」
「おい、答えるな」
二人が無防備に答えようとしてくれたが、緑の髪の男が眉根を寄せて注意した。だが、そのたった一つの情報で十分である。
飛燕斬。熟練度で言うならちょうど真ん中。レベル五十以上で取得するスキルだ。ゲーム中でも比較的取得する人の多かった扱いやすいスキルである。
つまり、この場にいる騎士は熟練度で言うなら真ん中以上ということだろう。隊長らしきドラスはもう少し上だろうか。これは、思ったよりもずっと強いぞ。なにせ、我が家であるフォールンテール伯爵家の騎士団は騎士団長でも飛燕斬は取得できていない。まぁ、取得したスキルで強さが分かるというわけではないが、それでもである。
「飛燕斬を覚えているなら、柔剣は?」
「覚えてるぞ」
「……おい、馬鹿」
もう一度聞いてみると、また赤髪の騎士がさらっと答えてしまった。それを緑の髪の騎士が再び注意する。口の軽い奴をみつけた喜びに心の中でガッツポーズをする。
「別に僕に話すくらい大丈夫でしょ?」
そう言って笑うと、リネアが歩きながら振り向いた。
「それじゃあ、ラーシュは何の職業適性なの?」
「商人だよ」
「え? それは意外ね」
商人と聞き、リネアは目を丸くする。何が意外なのか。あ、とても賢いから魔術師と思われていたのだかろうか。それなら仕方がない。
「ほら、向こうも隠さず話しているのだから、スキルくらい答えてあげなさい」
「むぐ……では、一つだけ答えてやろう。どのスキルについて聞きたいのだ」
リネアに言われて、ドラスは眉根を寄せてそう言った。ほう、言ったな? これは中々良いカモである。
「じゃあ、四段斬りは覚えてる?」
「よ、四段……? 三段斬りなら覚えておるが……」
と、ドラスは困惑した様子で答えた。おお、三段斬り。なら、熟練度は上級相当か。レベルで言うなら七十で取得するスキルだった気がする。ちなみに、四段斬りは戦士のラストで取得可能になるスキルである。一秒間で四連続斬ることができるのだが、驚くべきは剣の大きさ、重量など無関係である点だ。自分の身長より大きな大剣だろうと一瞬で四連続の斬撃を放つことができる。
ちなみに腕が良いプレイヤーの中にはスキル前に剣を持ち変えたりする者もいる。瞬間ダメージを出すならかなり有用なスキルである。
「三段斬りの勘違いじゃない?」
「そうかも」
リネアの言葉に苦笑しながら答える。実際にはそのスキルがあることは分かっているが、詳しすぎるのも怪しまれてしまうかもしれない。
そんなことを思っていると、ドラスが何かを思い出したような顔で両手を胸の前で合わせて音を立てた。
「おお、思い出したぞ! 初代テオドーラ国王陛下が瞬く間に四度の斬撃を放ったという逸話があったはずだ。なにせ、陛下は魔剣士という伝説の職業適性を持つ方ですからな」
「伝説?」
ドラスの言葉に驚き、聞き返す。すると、ドラスが大きく頷いて答えた。
「うむ! 歴史あるテオドーラ王国の中でもこれまで魔剣士の職業適性を持つ者は僅か三人しかおらぬ。騎士は四人、大魔導士、召喚士、ハンター、レンジャーも現れたという記録があったはずだ」
「ほほう。司祭とかモンクは?」
「なんだ、それは?」
聖職者の上級職について確認すると、思い切り首を傾げられてしまう。やはり、戦争だったり魔獣狩りをしている職業適性の者の中から上級職は生まれるイメージだ。歴史の中ではモンクや盗賊の上級職らしき人物も確認されている。しかし、数が圧倒的に少ない。
そして、恐らく商人の上級職はいまだに認識されていないだろう。
「なるほどねぇ」
腕を組んで唸りながら歩く。それをリネアが興味深そうに見つめてきて、首を傾げる。
「……ラーシュって、職業適性に詳しいの? 近隣諸国でテオドーラ王国が研究は進んでいるって話だったけど、どこの国に住んでたの?」
「え? あぁ、えっと、良く分からないんだよね。ほら、僕はまだ幼いから」
「嘘吐きなさい」
冗談交じりにはぐらかすと、リネアは苦笑しながらそう言ったのだった。




