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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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森の案内人 37

 アーデルを連れてリネア達の下へ戻ると、そこには切り倒した木に腰かけるリネア達の姿があった。あれだけ文句を言っていたのに、焚火と焼かれた肉があった。串に刺さった肉が焚火の周りに置かれていて、リネア達は拳ほどの大きさの肉が刺さった串を手にしている。


「お待たせー……って言おうと思ったけど、楽しそうだね」


 そう尋ねると、こちらに気が付いたリネアが苦笑しながら緑色の髪の少女を指差した。


「全然楽しくないわよ。ほら、この顔を見なさい」


「う、うぅ……」


 涙を滲ませながら焼けた肉に齧りつく少女。その姿を見て、バーベキューを楽しんでいるのではなく、もうヤケクソになっているだけなのだと気が付いた。


「村長から許可が出て、果物とか持ってきたんだけど」


「果物っ!?」


「なに!?」


 配給があると伝えたところ、緑色の髪の少女と騎士の青年が勢いよく立ち上がった。良く見ると、二人ともよく似た髪の色だ。それに、顔も少し似ている気がする。もしや兄妹か。


 そんなことを思いつつ、ミケルとロルフの背中に背負われた皮の袋から果物を取り出す。皮を剥けば食べられる甘酸っぱい果物だ。村でも人気で、ある程度備蓄してある。それを手渡すと、緑色の髪の少女は指先を震わせながら果物を天に掲げた。


「あ、あぁ……!」


「ありがとう!」


 緑髪の兄妹らしき二人に感謝をされる中、片手を振って答えてリネアへ顔を向ける。


「僕は何もしてないからね。それで、こちらが村長だよ」


 笑いつつ、リネアにアーベルを紹介する。一番後ろに立っていたのだが、身体が大きいので多分見えていたはずだ。そのアーベルの姿を見て、リネアとドラスも立ち上がった。


「獣人の村の村長! とても興味深いわ。私はリネアよ」


「私はドラス。宜しくお願いする」


 リネアが先に名乗ると、ドラスもそれに続いた。二人のそんな様子を見て、いぶかし気な顔をしつつ頷く。


「……うむ」


 少し緊張した様子でアーベルが頷く。いや、緊張ではなく、警戒しているのか。


「アーベルだ」


「おお、アーベル殿と申すのか。うむ! 強そうだ!」


 アーベルが名乗り、ドラスが返事をした。アーベルの筋肉質な体を見て、なぜか嬉しそうにそんなことを口にするドラス。そして、次にリネアが笑顔で頷いた。


「確かに、見るからに力強い」


 二人から褒められて、アーベルは微妙に居心地が悪そうに二人の顔を見た。そして、予想外の一言を口にする。


「それで、お前たちは何者だ? 我々とて森の中を無暗に歩くのは危険なのだ。せめて、我々が誰を案内しているのかくらいは知る必要がある」


 と、有無を言わさぬ調子でアーベルが告げた。


 おお、恐い。相手は今のところ友好的だが、貴族とはプライドの塊だと思っている。下手に自尊心を傷つけると、途端に敵対してしまう可能性があるのだ。


 懸念した通り、ドラスは目を見開いて般若のような顔になり、アーベルへと振り返った。


「……貴様。この御方をどなたと……!」


 ドラスが剣の柄に手を置いて怒鳴ろうとしたその時、横からリネアが出てきた。短剣の柄で後頭部を叩き、ドラスが苦悶の声を上げて前へつんのめる。


「あ、ごめんね。兜をしてなかったわね」


「ぐ、ぐぐぐ……」


 かなり痛かったのか、ドラスは後頭部を両手で押さえて呻いている。それを尻目に、リネアが前へと出てきた。まだ子供と言っても良い少女が堂々とした態度で自分の前に立ち、真っすぐに見上げてきている。リネアのその姿を見て、アーベルの方が僅かに身を引いている気がした。


 これは、かなりの大貴族だな。もしくは大商会の後継者か何かだ。あまりにも度胸があり過ぎる。


 アーベルとリネアが向き合っている光景を眺めながら、そんな推測をする。


「アーベルだったわね。獣人達を従える村長」


「ああ」


 アーベルが負けじと腕を組んで力強い目をリネアに向け、答える。しかし、そんな眼力は大して効果がなかった。


「食事をもらい、この森から脱出する手助けをしてもらうのだから、その辺りの礼儀はきちんとしなくちゃね?」


 リネアはそう言って薄く微笑み、ローブをめくって下の衣服を露出させた。真っ白な衣装だ。布の部分もあるが、大部分が真っ白な魔獣の皮だ。その見事な光沢は気品を感じさせる。恐らく、物凄く希少な代物だろう。


 いや、今はその高そうな服よりも重要なことがある。その服の胸の部分に描かれた紋章だ。青い盾の中に黄金の剣が描かれた特徴的な紋章だ。これは、貴族であれば間違いなく知っている紋章である。


「……その服がどうした」


 しかし、森の中で暮らし続けている獣人の村の住民には馴染みのないものだった。アーベルが首を傾げながらそう尋ねると、リネアはその場でガクッとこけそうになった。おお、古典的なリアクション。


 思わず拍手をしそうになったが、今はそんなことをしている場面ではない。某時代劇なら土下座するタイミングである。


 そのタイミングであることを知らせる為に、ドラスが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「ば、馬鹿者! この御方はリネア・クララ・テオドーラ様である! テオドーラ王国の第三王女であらせられるのだぞ!?」


 ドラスのその言葉に、アーベルは眉間に皺を刻み、ミケルとロルフは顔を見合わせた。そして、イリーニャだけが驚きの声を上げた。

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― 新着の感想 ―
異世界、他国、他会社の人の役職が偉くても興味ないよね。 実質で現段階で関わる必要が無かったり生きることに苦しむ弱者なんだから要望があったら対価を提案して頼まないと
快不快はおいておいて、価値観が根本から異なるのだからしょうがないよね 面子という点だけで見れば現実の現代でも結構大事
この期に及んでまだ余裕ありそうな感じだけど自分らが生殺与奪の権を相手に握られたままの事を忘れてないかな…? つか王族とか関わっても密かに葬っても厄ネタになる予感しかねぇ…
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