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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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35/56

迷子なら仕方ない 35

 正直、森から一度出たいのはこちらも同じである。


 そのことを話しはしないが、リネアの質問は僕にとっても都合がよかった。


「作戦会議!」


「え?」


「ん?」


「なんだ?」


 片手を挙げて宣言すると、リネアやイリーニャ、ミケル達がきょとんとして僕を見た。


「そこで待っててね!」


「あ、うん」


 生返事をするリネア達を置いて、僕はイリーニャ達を連れて少しその場を離れる。およそ五十メートルほどだろうか。相手の姿は見えるくらいの距離まで離れて作戦会議を始めた。


「村まで案内するのはマズいよね」


「そうだな」


「まぁ、獣人を奴隷にしてやろうって輩じゃない気はするが」


 確認すると、ミケルとロルフも同意する。まぁ、リネア達が善人だとしても、もしどこかで獣人の村があるなんて話が漏れたら大変だからね。悪い奴が来ないとも限らない。


「それじゃあ、森の外まで案内するのは?」


「それなら……」


「いや、一応村長に聞いておこう」


 道案内だけでも下手をしたら良くない事態が起きるかもしれない。ロルフはそう考えたようだ。さて、アーベルならどうするだろうか。正直、人間に対して不信感を持っているような気がするが、判断が難しい。


「それじゃあ、一度アーベルさんに聞いてみて、改めてリネアさん達に会いに来る、みたいな感じ?」


「そうだな」


「それが良いんじゃないか?」


 二人は真剣な顔で同意した。よし、それでは結果発表だ。


「お待たせー」


 軽い感じで手を振りながらリネア達の下へ行く。どうやら向こう側も警戒心が薄れてきたらしく、全員が兜を脱いで何やら話し込んでいた。おお、ドラスは予想通り髭のおじさんだった。こげ茶色の髪と髭のおじさんである。年齢は五十手前といった雰囲気だ。そして、他の騎士達も顔が出ていた。年齢は二十代からせいぜい三十歳ほどだろう。赤い髪と暗い金髪の青年と、少し年上っぽい緑髪の青年の三名だ。


 僕の声を聞き、リネア達が揃って振り向く。


「作戦は決まったのか」


 待たされていたドラスが腕を組んでそう口にした。


「ドラスさん思ったよりおじさんだねー」


「ぬぐっ」


 どうでも良い雑談で小さなコミュニケーションをとってみた。ドラスが眉根を寄せて呻き、リネア達が噴き出すように笑う。部下らしき騎士の青年たちはドラスから顔を背けているが、肩が震えているので笑っていると分かった。


 もしかしたらドラスは見た目を気にしているのかもしれない。髭剃ったり髪を整えたら若く見えるよってアドバイスしてあげようかな?


 そんなことを考えていると、声を出して笑っていたリネアが軽く咳ばらいをして口を開いた。


「それで、森の外へは案内してもらえるの?」


「あ、それはちょっと待って欲しいんだよね。上の人に確認してくるから」


「上の人?」


 リネアが首を傾げる。言い方が良くなかったか。いや、しかし、他に言い方は思いつかないので仕方がない。


「とりあえず、ちょっと待っててもらって良いかな?」


 そう尋ねると、リネアが頷こうとしたが、そこへ後ろから緑色の髪の少女が声を掛けてきた。


「あ、すみません。申し訳ないのですが、我々も森に入って何日も経っているので、食料が……」


「だから、我々が魔獣を狩って……」


「いや、無理なんですよ。ドラス様のお気持ちはありがたいですが、ただ斬っただけの魔獣を焼いて食べるなんて、そんな……」


 少女の言葉にドラスが一言物申そうとしたが、少女は涙目で首を左右に振りながら反論した。なるほど。なんの処理もせず、味付けもせず、ただ切り分けた肉を焼くだけというやり方をしているのか。それは辛い。


 正直、遭難した状態なら贅沢は言ってられないが、見るからに貴族とその従者たち一行だ。野性味あふれる食事を何日も続けるのは精神的に厳しいのかもしれない。


「え? まぁ、素朴な食事も面白いから別に良いけど」


「無理です」


 意外にもリネアは気にしていないようだったが、そんなリネアにも少女ははっきりと否を唱えた。それに苦笑し、リネアがこちらに目を向ける。


「……えっと、食事ってお願いできる? 難しいかしら」


 困ったように笑いながらそう言うリネア。何日森の中を彷徨ったのかは分からないが、もう保存食もない状態なのだろうか。というか、何故そんな装備で森に入ったのかと問いたい。まぁ、そんなこと言っても意味がないので、ミケルとロルフの方へ振り返った。


「ミケル。食事って持ってきてもらえる?」


「ん? ああ、じゃあそれも村長に聞いてみる」


 聞いてみると、ミケルはぽろっと余計な単語を加えて答えた。それをリネアが聞き逃すことはなかった。


「村長? 村があるの? こんな深い森の中に?」


 目を丸くして驚くリネアに、失言をしたミケルがハッとなる。しかし、もう遅い。ドラスが眉根を寄せ、ミケルとロルフを見た。


「なんと……つまり、獣人達が森を開拓しているということか? これは驚くべきことだ。これまで開拓することができなかった森を……一体誰がそのようなことをできるのか」


 何を考えているのか。ドラスは色々と深読みし始めたようだ。一気に騎士達が真剣な顔になるが、変な疑惑を持たれても困る。これはまた変な方向に話が進みだしたぞ。

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― 新着の感想 ―
村長の鉄拳落ちるなりw
オイオイオイ 村があるとか知れたら会話に出てる人らはともかく他の部下とか絶対この辺に獣人の村がありますぜ!って密告する奴が出てくるぞ… 食事に毒でも盛ってなかった事にしてもそれを探しにまた人が来そうだ…
口封じするなら数日待てば簡単に暗殺できそう
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