そろそろ僕も強くなりたい 33
さて、皆の大まかな方針は決まった。アーベルの一件があったからか村の全員が僕の指示に従ってレベリングをしてくれている。レベルが上がり、全員が必要なスキルの習得を完了させたら、ようやく次の段階だ。
しかし、その間に僕もやることがあった。
「よし! 行くぞー!」
「はーい!」
片手を突き上げて声をあげると、イリーニャが真似をして拳を突きあげて応える。素晴らしい。
イリーニャに一歩遅れて、ミケルとロルフも片手を挙げた。
「おー」
「おー」
気の抜けた返事である。朝早くに起こしたからか、二人とも眠そうだ。
「ほら、頑張って」
「うぃー」
「仕方ないなぁ」
目をしょぼしょぼさせながらも、二人は森の中へ先行して入っていった。その後を付いていきながら、周囲を観察する。
今日からは僕とイリーニャもレベル上げをするぞ、ということで、ミケルとロルフに協力してもらうことにしたのだ。全て、僕の独断である。なにせ、二人はもう必要なスキルは習得しているし、武器に関しても金属製の良いものを使っている。つまり、二人は別に急ぎでレベリングする必要がないのだ。
それに、二人は気配察知と鷹の目を習得しているし、魔獣の群れに襲われる心配も少ないだろう。最高のガイドである。
ウキウキで森の中を進んでいくが、ふとミケルが立ち止まり、片手で頭を掻きながら周りを見回した。
「う~ん、変な気配がするなぁ」
「魔獣じゃなくて?」
ミケルの言葉を聞き、思わずそう尋ねる。しかし、首を左右に振って否定される。
「いや、動物でも魔獣でもないな……」
警戒心を持って周りを見ながらミケルが答える。それにイリーニャが不安そうな顔をした。
「も、もしかして、またドラゴンでしょうか……」
「ドラゴンじゃなさそうだぞ。それに、複数だな」
「複数?」
意味が分からない。どういうことなのかと尋ねようとした時、森の奥の方から物音が聞こえてきた。音の感じからすると、もうそれなりに近いと思われる。
「……段々近づいてきてる?」
「そう、ですね……それに、思ったより数が……」
イリーニャが眉根を寄せてそう言った。ミケルとロルフはその言葉に頷き、それぞれが少し離れた高所へと移動した。弓を構え、息を潜めて様子を見ている。普段なら僕たちに隠れておけと言うだろうが、もしかしたら僕のスキルを信じてくれているのかもしれない。
なんとなく虚勢を張って仁王立ちで音のする方向を見てみる。
やっぱり怖い。
「……イリーニャ。何かあったら風の守りをお願いできる?」
「あ、分かりました」
小さな声でそんなやり取りをしていると、音の主は現れた。
鋭い金属音と風を切る音がしたと思ったら、人間の胴体よりも太い木の幹が綺麗に切断された。横一直線に斬られた木が横向きに倒れ、その奥から銀色の鎧を着た男が現れた。全身を覆うフルプレートアーマーで兜も被っているが、兜の下から出た顎髭で男だと分かる。
そして、その後ろからは三人の人影が続いた。どれも鉄製の鎧を着ているが、そちらも全身を覆う甲冑だった為、性別は分からない。しかし、その後に現れた二人ははっきりと分かった。
二人とも白いローブを着ており、首から上が露出していたからだ。一人は緑色の髪の少女で、髪を結っている。少し細い目の大人しそうな少女だった。そして、もう一人は輝くような金髪と青い目が目を引く少女だった。人形のように整った顔立ちをしており、肌は抜けるように白い。緑色の髪の少女は十八前後、金髪の少女は十四、五になるかならないかといったところだろうか。
合計七名。二人の少女しか判別できないが、どうも人間の一団のようだった。一目で分かるほど良い装備をしている辺り、貴族の騎士団であることは明白である。これで傭兵団だったら金持ち過ぎである。
そう思って様子を窺っていると、一番先頭に立つ兜から髭が出ている騎士が僕たちを見て顔を上げた。
「……こんな森の中に人間の子供と獣人の少女、だと?」
低い男の声だった。森の中で二人だけに見える僕たちを警戒しているように見える。
「失礼。君たちはどこの……いや、どうしてこんな森の中に?」
丁寧だが、警戒心を滲ませた硬い声だった。その声を聞いて、イリーニャも身を固くする。場の緊張感が高まる中、騎士達の奥から金髪の少女が歩いてきた。
「ドラス。二人が怖がっているわよ」
鈴が鳴ったような軽やかな声だ。しかし、不思議と威厳を感じさせる。その声に、ドラスと呼ばれた騎士は胸を叩いて顎を引いた。
「はっ! 申し訳ありません!」
背筋を伸ばして力強く謝罪するドラス。その態度で、少女が地位の高い人物であると知れる。
「ごめんね、二人とも。私はリネア。貴方達のお名前は?」
リネアと名乗る少女はそう言って優しく微笑んだ。




