アーベル強化プロジェクト 31
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今後の村の強化を考え、アーベルで実験をすることにした。
被験体のアーベルは腕を組んで仁王立ちし、森の入り口に立っている。一方、僕たちは村の中から独りぼっちのアーベルを眺めているような状況だ。
「それでは始めます! まず、盗賊で投石を覚えている皆さん! 石を持ってください!」
そう告げると、六人の獣人が並んで石を拾い上げた。そして、とても複雑な表情でアーベルを見る。
「……本当に投げるのか?」
「これ、大丈夫?」
「後で怒られそう……」
不安そうな声が聞こえたが、そんなことは知ったことではない。大事なのはアーベルに石を投げることである。
「大丈夫だよ。離れてるし、鎧も着てもらったし。剣も石を弾きやすい幅広のやつだし」
笑いながらそう答えると、それなりに離れている筈のアーベルが頭の上の獣の耳をぴくりと動かした。
「……悪意が感じられる気がするぞ」
「気のせーい」
「……そうだろうか」
軽いノリで返事をすると、疑惑の目でこちらを見てくるアーベル。
そんな冗談みたいなやり取りをしつつ、準備ができたことを確認して早速実験を始める。
「それじゃ、皆でアーベルさんに石を投げるよ。アーベルさんはできるだけ石を優しく弾いてね。打ち返さないように」
「……うむ」
不服そうな感じだったが、アーベルは返事をした。それを確認して、石を構えた獣人達六名に振り向き、合図を送る。
「投擲!」
合図と同時に石が六個同時に飛んでいく。通常の石の遠投などとは違い、スキルを使った投擲は真っ直ぐに飛んでいく。
まるで魔術で放たれた石の球のようだ。六つの石が飛来し、アーベルは細く短く息を吐きながら体を動かす。
剣を横に構えながら石を幾つか受け止め、体勢を変えることで器用に他の石を回避する。
それを見て、村の皆から歓声が上がった。見事に一発も被弾していない。大成功。
そう思っての歓声だろうが、ラーシュ君は違う。
「だめー! やり直し!」
「えぇ!?」
両手でバツを作って失敗を宣言すると、皆が驚きの声をあげる。いやいや、ただ防げば良いということではないのだ。
「今のは剣を盾代わりに使っただけだよ。まぁ、盾を使ってカウンターってスキルを覚えても良いけど、それはどっちかというと一対一で戦うためのスキルだからね。今は全て剣で弾く練習。それも優しくね」
「ろ、六個同時は流石に難しいんじゃ……」
「ってか、皆はこんなことしなくても覚えたし……」
厳しく注意すると、そんな意見が出始めた。アーベルのことを心配してだろう。だが、決めるのはアーベルだ。
「どうしようか。止める?」
あえて、大きな声でアーベルにそう尋ねる。すると、アーベルは怒ったような顔で首を左右に振った。
「ラーシュの言っている意味は分かる。もう少しやってみよう」
アーベルがそう答え、否定的だった意見も聞こえなくなった。そう。アーベルが強くなりたいかどうかは他人が決めることではない。
「よし! それじゃ、もう一回! 今度は避けないようにね」
「ああ」
こうして、ラーシュ鬼軍曹の下、アーベルの訓練が始まった。なんと、その時間は五時間。なんなら投げる役の獣人達の方まで疲労感を滲ませているくらいだ。
そして、石を投げられ続けたアーベルは鎧をボコボコにしながらも立っていた。滝のような汗と激しく上下する肩。剣を持つ手は震え、今にも倒れそうな状態に見える。
流石はアーベルといったところか。ボロボロになりながらも生身の部分は一度も怪我をしていない。剣で防げない時は鎧で受けているのだ。類稀な目の良さと反射神経の成せる技である。
しかし、この異常に高いスペックが仇となっている。職業適性の恩恵で体力と力が増し、剣の心得のスキルで剣技の速度が向上している為、持ち前の運動能力で回避して斬るといった行動を繰り返すだけで問題が無かったのだろう。
必死なアーベルの姿を見て、住民たちの我慢はそろそろ限界だ。中には涙を流している人までいる。このまま成果が無かったら、一気に僕が悪役になってしまうかもしれない。
「……残念だけど、今日はここまでかな? アーベルさんも限界だろうし、石を投げる人も辛そうだし」
そう口にすると、石を持っていた獣人達がホッとした顔で石を捨てようとした。だが、アーベルがそれに異を唱える。
「待て……もう少しで掴めそうだ。続けてくれ」
「え?」
アーベルの発言には皆がギョッとした顔になる。もしや、Мの道を歩む人なのか。いや、どちらかというと修行僧だ。過激派の修行僧に違いない。
ならば、苦行林に案内するとしよう。
「よし! それじゃあ、もう一回だけね! 皆、石を構えて!」
そう言うと、動揺した様子ながら石を構える六名。対して、アーベルは緊張感を漲らせて、というより殺意を滲ませて剣を構える。夜中に見る仁王像より怖い。下からライトアップされている気がする。
「怖いけど投げて!」
「お、おう!」
合図と同時に、全員がアーベルに向かって石を投擲する。アーベルは迫りくる石を見つめ、短く息を吐いて剣を振った。まるで一筆で円を描いたように軽やかで無駄のない動き。通常であれば、同時に飛んでくる石を全て弾くのはほぼ不可能だ。大きな盾で防ぐか避けるしかないだろう。だが、アーベルの剣はそれを可能にした。
剣の軌跡が銀色の線を描き、飛来してきた石の軌道を僅かな力で変え、被弾を防ぐ。まさに、受け流しのスキル効果だ。
「おお!」
「やったぞ!」
「アーベルさん、凄い!」
アーベルのスキル発動成功を受けて、約百人の大喝采が巻き起こる。大歓声を受けながら、アーベルは自らの持つ剣を顔の前まで持ち上げて目を細め、静かに頷いたのだった。
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