柔軟な人々 30
色々と一気に語っていったが、意外にも皆が真剣に話を聞いてくれていたらしい。こんなところで地竜を退けたという実績が生きたのか。強い者の言葉を聞く、そんな戦闘民族的考えかもしれない。
楽しい気持ちのまま語り尽くして満足していたら、村の皆は各職業適性ごとに集まって話し合いが始まっていた。
「受け流しできる奴いるか?」
「あ、持ってるわよ」
「皆、鷹の目はあるよな?」
「皆できるんじゃないか?」
「音無しって結構使えるんだな」
「え? 狩りで絶対に使うだろ」
村でも割合の多い戦士や弓使い、盗賊の面々が自分たちのスキルについて話す中、人数の少ない職業適性の面々は細々と情報交換していた。ちなみに、商人はもっとも悲惨である。
「……商人って何したら良いんだ」
「……知らないわよ」
「銭投げって……金なんか持ってないのに……」
あの一角だけ悲壮感が漂っている。まだ魔術師や聖職者の人たちは方針があるだけ良いが、商人の人たちは延々とレベル上げをするばかりである。それに多少レベル上げをしないと攻撃に向いている投石銃のスキルが覚えられないのだ。その間、まるで精神修行のような日々を過ごすこととなるだろう。アーメン。
全員が必須となるスキルを確認したところで、次の話をすることにする。一気に専門的な知識を詰め込んでも駄目だと思うが、獣人の皆は真面目である。少しでも知識を吸収してくれると嬉しい。
そんなことを思いながら、手を叩いて注目を集め、口を開いた。
「はい! それでは次に戦術の話ね! 今話したスキルで何となく理解したかもしれないけど、戦士は基本的に皆を守ることに徹すること。弓使いは索敵と攻撃担当。盗賊は奇襲や囮だけど、いずれは罠設置もお願いね。魔術師は有用な魔術さえ覚えたら範囲攻撃担当。聖職者は治療担当。そういう風に役割を明確にして、それぞれの役割に合った戦い方の練習を積む必要がある。そうすれば、大型魔獣だって追い払うくらいはできるようになるよ」
僕は小さな拳を握り締めて熱弁した。このラーシュ君の演説はきっと後世にまで残り、歴史の教科書に載ることだろう。今のうちにサインの練習をしておかねばならない。
「あの、商人は……」
「今は保留」
「はう……」
悲痛な声がしたが、仕方がない。商人は育成枠である。いずれは投手も打者もできる無敵の存在になると信じよう。
「……質問がある」
その時、これまで静かに話を聞いていたアーベルが口を開いた。振り向くと、アーベルは腕を組んで難しそうな顔をしていた。
「何か気になることがあった?」
聞き返すと、アーベルは珍しくすぐには答えず、暫く考え込んでから口を開いた。
「……いや、何でもない。お前の話は驚くべき内容ではあったが、こんな嘘を吐く必要もないはずだ。それに、ドラゴンを撃退したスキルというのもそうやって取得したんだろう? 一度、言われた通りにしてみるとしよう」
「え? いいの? 僕の意見はただの助言でしかないから、採用するかどうかは村で話し合った方が良いんじゃない?」
あっさりと許可を出したアーベルに驚いてそう尋ねた。あまりにも信用されている気がして逆に心配になる。しかし、それにミケルとロルフが笑いながら口を開いた。
「ラーシュは俺らも知らないこといっぱい知ってるからな」
「そうそう。他の職業適性のスキルとか全然知らなかったし」
二人がそんなことを言うと、村の女性陣や子供も頷いて答える。
「ラーシュって頭良いよねぇ」
「人間ってだからあんな大きな町とか作れるの?」
「私は森から出たことないから分からないけど、ラーシュは良い人だって思うよ」
そんな皆の言葉に、思わず涙ぐみそうになる。いや、ちょっと目の端から漏れてしまったかもしれない。声が震えそうですぐには答えられないでいると、背中をイリーニャが優しく撫でてくれた。
それに、更に泣きそうになる。僕が泣いたらイリーニャが犯人です。しかし、村の住民たちも共犯なのでどうしようもない。
「……ありがとう。それじゃあ、お礼にまずはアーベルさんにスキルを覚えさせてあげようかな」
「……なに?」
急に話を振られて驚いたのか、アーベルが眉根を寄せて生返事をした。いや、村で一番の戦士でありながら、これまで一度もスキルを覚えることができなかったという過去がある故だろうか。
アーベルの狩りを見学もしたが、確かにスキルは使用していなかった。身体能力で魔獣を翻弄し、仕留めるばかりである。
だが、何となくだが理由は考察できていた。
「まず、アーベルさんはスキルを全く覚えていないわけではない、ということからかな」
「……どういうことだ?」
怪訝な顔をするアーベル。それに微笑み、人差し指を立てて回答する。
「戦士のスキルの中には、常時発動型のスキルが四つあるんだ。一つがさっき説明した剣の心得。後は鉄の体と見切り。剣の心得は剣を振る動きが速く、正確になる。鉄の体は体力と防御力向上。見切りは敵が攻撃動作に入った瞬間だけ速度向上みたいな感じかな? もう一つは特殊だから置いておくとして、アーベルさんはその三つを習得してるかも」
「なるほど……では、他のスキルはどうして覚えられない?」
「必要なかったからじゃないかな? 多分、死にそうな強敵と一対一になるようなことが無かったとか」
「……むむ」
僕の推測を聞き、アーベルは首を傾げて唸った。
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