ラーシュの立場 29
静かに何かを考えているアーベルに、もう一度声を掛けてみる。
「皆、すごく強いけど、スキルを取得したらもっと良くなるかな。それに、戦術を勉強して上手く協力したらもっと強くなると思うんだよね」
そう告げると、アーベルが少し不機嫌そうな顔をする。
「……我らは常に戦いの中に身を置いてきた。俺は生まれて五年もした頃には狩りに参加していたのだ。人間の騎士団と比べても遜色ないと思っている」
「一対一なら多分そうだと思うけど……」
獣人達には獣人達の自尊心がある。百人程度の人数で過酷な森の中を暮らしてきたという自負がある。そう思い、どういう風に伝えるべきかと思い悩んだ。
別に怒らせたいわけではないのだ。どうすれば円満に僕の意見を聞いてくれるだろうか。
悩んでいると、アーベルが軽く息を吐いて目を細めた。
「……悪かった。話を聞こう」
どうしたものかと悩んでいる内に、アーベルの方からそんなことを言われる。驚いて顔を上げると、アーベルは少しだけ穏やかな顔つきになって首を左右に振る。
「……お前の性格は分かっている。それに、この村のことを害するつもりがないことも……だから、村の長として、話を聞こうと思っている」
「おお、村長っぽい」
「……聞くのを止めるぞ」
驚き過ぎて思わず軽口を叩いてしまった。それにアーベルは眉根を寄せてムッとしている。アーベルの反応に笑いつつ、頷いて答えた。
「冗談だよ。話を聞いてくれるなら良かった」
笑いながらそう言うと、アーベルの後ろで皆が声を出して笑う。一気に空気が軽くなり、話しやすい空気になった。皆の表情を見つつ、自分の考えを披露することにする。
「それでは、改めて……この村の皆は、個人の身体能力に特化した戦い方をしてると思うんだよね。三人とか五人で狩りはしているけど、全員が魔獣の気配を探って、見つけたら一斉に奇襲したり、遠くから矢で攻撃。場合によっては地形を利用したりもしているけど、それも誰かが囮になって誘導する感じかな」
「……その通りだ。しかし、それでこれまで中型の魔獣であっても狩ることができている。何が問題だ?」
先ほどより冷静になったアーベルが素直に質問をしてくる。それに頷き、分かりやすいようにハッキリと答える。
「職業適性を活かしていないのと、戦術という考え方が出来ていないかな?」
「む」
アーベルが唸った。後ろの獣人達は顔を見合わせたりしている。やはり、あまり意識していない。
「例えば、この村では戦士の職業適性を持つ人が多かったけど、戦士の職業適性の場合は力と体力が向上しやすいよね?」
そう尋ねたが、誰も同意しない。
「そうなのか?」
「……動きが速くなっている気がしない?」
「分からないな」
どうやら、あまり実感がないようだった。同意するしないではなく、分からないということか。
「まぁ、獣人の人って基本的に俊敏で気配に敏感な感じだしね。仕方ないか」
そう口にして一人で頷き、説明に戻る。
「……とりあえず、そういうものと思って聞いてほしいんだけど、戦士は力と体力。弓使いは器用で素早い。魔術師は頭が良くて、聖職者は体力と知力みたいな感じ。盗賊は完全に速さ特化だね」
職業適性における基礎の基礎を解説してみる。これは分かりやすかったらしく、皆は成程と頷いていた。
すると、ふと子供の一人が手を挙げる。
「商人は?」
その質問に、この村ではたった三人しかいない商人の職業適性を持つ獣人が顔を上げた。そりゃ気になるよね。
「商人は特殊なスキルや技能がメインだから、身体能力の向上って無いんだよね。まぁ、成長に伴って少しずつ強くなる感じ?」
答えると、獣人三名が肩を落としてしまった。この世の終わりのような顔をしている者もいる。まぁ、変えられないから仕方ないよね。
自分もそうだが、本当に戦闘に向いていない職業適性である。この森で暮らしていくには厳しいと言わざるを得ないだろう。
落ち込む三名を眺めて苦笑しつつ、口を開いた。
「それでは、次はスキルの話をしようか。まず、戦士なんだけど、最初に剣の心得と受け流しを覚えてもらいたい。それだけで生存率が上がるからね。もしそれなりに熟練度が上がっていたら鉄壁を覚えても良いけど、まだ簡単な怪我の治療しかできないしね」
そう口にすると、戦士の何人かが手を挙げて疑問を口にした。
「重撃はいらないのか? 戦士のほとんどが重撃を覚えているぞ」
「防御力が高い相手には効果的なスキルだけど、まずは生き残ることが大事だよ。もちろん、剣の心得と受け流しを覚えた後なら良いと思う。次に、弓使いの人。理想としては索敵と攻撃の要になってもらいたいんだよね。だから、鷹の目と気配察知。それから貫通矢を覚えてもらいたいな。五人くらいは三連撃ちが欲しい。後はね……」
気が付けば、僕はゲームの中でギルドメンバーと話をしているかのような気持ちでスキル構成を語っていた。もちろん、アーベル達は全く理解できずにポカンとしていたが、仕方がない。
廃人ゲーマーにゲームのことを語らせたらこうなるのだ。いや、何かすみません。
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