目が覚めた! 27
ふと目を覚まし、最近見慣れてきた天井を見上げる。おお、最早ここが我が家か。それぐらいの感覚はあるぞ。
そんなことを思ってボンヤリしていると、ふとドラゴンの存在を思い出した。あれから、いったいどうなったのか。
そう思い、上半身を起こす。
「……ら、ラーシュ様?」
ふと、イリーニャの声がした。振り向くと、部屋の端で何か作業をしているイリーニャと目が合う。良かった。元気そうである。
「あ、おはよう」
そう口にすると、イリーニャは目に涙を浮かべて飛び込んできた。イリーニャの二の腕が僕の首にジャストフィットし、見事なラリアットを食らって寝具に叩きつけられる。
「げふ」
ドラゴンではなく、イリーニャに殺されてしまう。
「ラーシュ様! 良かった!」
こちらが死にかかっていることには気が付かず、イリーニャは声を震わせて喜んでくれている。僕の墓標には青い花を大量にお供えしてくれたまえ。花畑を作ってくれても良いぞ。
そんな冗談はさておき、本当に息の根が止まりそうなので、両手をイリーニャと僕の間に差し込み、壁を作って無理やり距離を作った。
「ぷは」
ようやく呼吸ができたので、なんとか息を整える。それを見て、イリーニャが焦った様子で離れた。
「あ、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか……?」
「うん、大丈夫……」
呼吸を整えながら返事をし、改めて涙目のイリーニャを見る。ケガもなさそうだ。無事で何よりである。
「ミケルとロルフは?」
そう尋ねると、イリーニャは小刻みに頷いて答えた。
「はい。二人とも無事です。あの後、昏倒していたドラゴンが少し動いたので、気が付く前に逃げようということになって……」
「あ、やっぱり討伐は出来なかったのか。それはちょっと心配だね」
イリーニャの説明を聞き、少し緊張感が戻ってくる。終わったような感覚になっていたが、まだまだ危険は残っているようだ。
しかし、それにイリーニャは静かに首を左右に振った。首を傾げつつ目を向けると、微笑みを浮かべてイリーニャが答える。
「あれからドラゴンの様子を調査に行きましたが、どうやらドラゴンは山の方へ戻っていったようです。警戒は続けますが、恐らく、暫くは大丈夫だろうと……」
「アーベルさんが?」
「はい」
返事を聞き、ホッと胸を撫でおろす。危機的状況で魔導操兵のスキルが使えたことは良かったが、思った以上に余裕が無かった。レベリングをかなりしてきたつもりだったが、まだまだ足りなかったらしい。魔力量が足りないから、魔導操兵を召喚しても動かせる時間は一分か二分程度だった。こんな状態でまたドラゴンが現れたら全力で逃げるしかない。そうなれば、今度こそ誰か死んでしまうだろう。
村に防衛力は皆無で、獣人達の能力も未熟である。こんな状態では命がいくらあっても足りない。最も手軽な方法は僕自身が強くなってスーパーラーシュ君を目指すことだが、まだまだ時間が掛かる上に決定的な対策とは言えない。
堅実かつ現実的な方法は一つ思い浮かぶが、それが可能かどうかは分からなかった。
「う~ん、どうしようかなぁ……」
「どうかされましたか?」
「いや、村を強くすればドラゴンくらいなら何とかなると思うけど、皆話を聞いてくれないからね。どうしようかなって……」
そう答えつつ顔を上げる。すると、イリーニャの顔の右側。少し離れている出入口のところに四つの顔があった。まるでトーテムポールのように並ぶ顔、顔、顔である。
「うわぁ、気持ち悪い!」
驚いてそんな感想が口を突いて出た。それに、トーテムポールの上二つが眉根を寄せる。
「失礼だな」
「心配して見てたんだぞ」
と、ミケルとロルフが言った。すると、トーテムポールの一番上と下も喋り出す。子供達だ。
「皆心配してるぞ」
「大丈夫?」
そんな優しい言葉をかけてもらい、トーテムポール扱いしたことを謝罪したい気持ちと、トーテムポールが喋ったと叫びたい気持ちが綯交ぜになる。いや、別にトーテムポールはどうでも良いか。
「皆、ありがとう。とりあえず、怪我はないかな」
そう言って笑うと、ミケル達は顔を見合わせて笑い合う。安心してくれたようだ。胸の内が温かくなるような感覚で嬉しくなった。
その時、ミケルが何か思い出したような顔で振り返る。
「あ、そういえば、村をどうかするとか言ってなかったか?」
「それに、俺たちが言うことを聞かないから困るだのなんだの」
「困るとか言ってないよ!」
ミケルに続いてロルフが一言余計な単語を付け足してきたので、文句を言う。それに苦笑しつつ、ミケルは複雑な顔で口を開いた。
「……正直、ラーシュのスキルに俺たちは救われたんだ。あれが何のスキルかは分からないけど、ドラゴンを撃退したんだ。ラーシュが一番強いってことは俺たちでも分かるぜ」
ミケルが少し照れ臭そうにそう言うと、ロルフが大きく頷く。
「おう。だから、ラーシュの意見は皆聞くと思うぞ。どんどん言ってみろよ」
と、二人はあっさりとそんなことを言った。だが、一度皆に言って相手にされなかったのだ。そんなに簡単に信用しないぞ。
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