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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ドラゴンを退ける 26

「ラーシュ様……? き、危険です! お下がりください!」


 慌ててイリーニャが僕を連れて避難しようとする。


「ありがとう、イリーニャ。でも、僕はもう事実上伯爵家から追放された身なんだ。だから、僕よりも自分の身を最優先にして良いんだよ」


 そう告げると、イリーニャは涙を溢した。


「そんなこと言わないでください! ミケルとロルフが時間を稼いでくれています! ラーシュ様まで犠牲になる必要はありません!」


 イリーニャが必死に引き止める。その言葉が聞こえたのか、ミケル達が怒鳴った。


「俺たちだって生き残るつもりだぞ!」


「まごまごしてないでさっさと逃げろ! ラーシュがきたところで状況は変わらない!」


 二人の言葉に、イリーニャが涙目で頷く。悪い意味ではなく、三人は僕が戦力にならないと思っている。まぁ、仕方ないことだろう。


 だが、僕はここ数日、あることに気が付いていた。それは自分の職業適性についてだ。何年も商人としての熟練度とレベルを上げる為に行動してきた。本来なら、商人の上級スキルを取得する頃である。


 ところが、何か違和感があった。予感とは違う。しかし、確かな感覚として、商人以外のスキルの存在を感じていたのだ。


 思い返せば、僕は最後に魔導技師の最高レベルまで達したキャラクターで転生システムを選択した。もし、そのキャラクターの能力値やスキルポイントが継承されているとしたなら、僕の中にはすでに魔導技師の素質があり、ただスキルポイントの使用を待つだけの状態の可能性がある。


 もしその仮説が正しいのだとしたら、僕は商人の熟練度をあげるつもりで魔導技師の熟練度を上げ続けていたのかもしれない。魔導技師は商人の上級職であり、商人のスキルはいつでも取得できる状態なのだから、十分考えられることだ。


 なぜ、自分の職業適性が魔導技師であることに気が付かなかったのか。それは、単純にスキルポイントの浪費を控え、下手な実験をするわけにはいかなかったからである。そして、最も大きな原因はイリーニャから聞いた職業適性の鑑定結果である。


 商人と言われたから、素直に商人だと信じていた。しかし、よく考えれば魔導技師という職業適性が全く知られていない状態で、鑑定を行った人物は正確に結果を告げることができたのだろうか。これについては想像でしかないが、おそらく鑑定では上級職の鑑定はできていない。ただ、素質として商人という職業適性を持つ為、鑑定結果は商人とされたのではないか。


 そのことに気が付いたのは、この森に到着する直前、ドラゴンに襲われた時だ。馬車の中で命の危機を感じた時、確かに魔導技師のスキルの一つ、トーチカが習得できそうな感覚があった。


 何がスイッチになっているのか分からないが、それは確かな感覚として記憶している。村で意識を取り戻し、色々と忙しくてレベリングが十分にできなかったが、スキル習得が可能な感覚があるということは、それだけの熟練度に達しているということである。


 試す価値は十分だ。


「……大丈夫だよ、イリーニャ。僕を信じてくれないのかな?」


 眉根を下げ、困ったような表情を作って笑いながら振り返る。すると、イリーニャは涙目のまま手を放した。


「い、いえ、私は……ラーシュ様を信じております」


 イリーニャの返事に頷き、ドラゴンの方向へ振り返り、地を蹴って走り出す。


「ミケル! ロルフ! 一度離れて!」


 出来るだけ大きな声で叫んだ。その言葉に反射的に従い、ミケルとロルフは左右に大きく跳躍してドラゴンから距離を取る。そして、走ってくる僕の姿を見て揃って目を見開いた。


「な……!?」


「ラーシュ! お前が何を……」


 驚愕する二人の声には答えず、新たなる力を意識する。


 僕の本来の職業適性は魔導技師(マシンマイスター)。そして、熟練度は十分貯めている筈だ。


 頭の中で、大きなドラゴンと戦う為のスキルを想像する。手探りでスキルを習得している皆と違い、僕の場合はスキル習得に明確なアドバンテージがあった。LOGのトッププレイヤーとして、ゲームの隅々まで研究し尽くしたのだ。その中には勿論、スキル一つ一つの知識もある。


 スキルが発動するまでの時間。効果。消費するスキルポイント等といった様々な情報が全て頭に入っている。だから、必要な熟練度さえあれば、僕はいつでも商人と魔導技師のスキルを習得できるということだ。だから、自信を持って口を開いた。


「……魔導操兵(マシンゴーレム)創造(クリエイト)!」


 そう口にした瞬間、力が吸われるような感覚を受ける。そして、スキルは発動した。目の前の地面に巨大な青白い光が魔法陣を浮かび上がらせ、その中心から巨大な人影が出現する。フルプレートアーマーにも似た姿だが、僅かな隙間からは青白い光が漏れている。鎧や四肢には文字が彫り込まれており、まさにゲームで何度も見てきた相棒、マシンゴーレムの姿だと感じた。ただ、目の前に実際に出現したことでゲームでは感じたことのないほどの迫力があった。


 離れたところでミケルとロルフが驚く声が聞こえたが、今は説明している時間もない。ドラゴンが唸りながら後ろ脚に力を込めて臨戦態勢になっているのだ。


「操兵!」


 指示を出すと、魔導操兵が姿勢を低くして動き出す。それと同時に、ドラゴンが咆哮を上げて吶喊してくる。巨大な牙が並ぶ大きな口が迫り、魔導操兵は拳を繰り出す。激しい衝撃が空気を震わせ、ドラゴンの顔が跳ね上がった。


 それを切っ掛けに、ドラゴンの爪や牙による攻撃に真正面から耐えながら魔導操兵が腕を振るい続ける。攻撃を受けたことで、ドラゴンは更に強い攻撃をしようと体を反転させ、恐ろしい勢いで尾を振った。それを全力で受け止める魔導操兵。


「操兵! 投げろ!」


 無茶な命令だが、魔導操兵は全力で地竜の尾を抱き込み、柔道の一本背負いの要領で体を回転させる。地竜の巨体が浮かんだと思ったら、勢いよく空中を舞い、そのまま頭から地面へと叩きつけられた。


 その光景を見ながら、徐々に視界は暗くなっていった。




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― 新着の感想 ―
名前はもちろんニキ・ヴァシュマールだよね(* ̄∇ ̄*)。<操兵違い(^_^;) アピ・ルーパでもいいな(^_^;)。<まだ言うか
そして伝説へ… 自分の領地にドラゴンが出るなんて素材的経済効果のすごいメリットですね 狩りの力をゲットしたいま、内政と経済ブーストが爆上げの予感
 とうとう貯めたポイント使ったのか!
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