薬草博士 24
ミケルとロルフのお手伝いを始めて二、三時間ほど。気が付けば革袋がパンパンになっていたので村に戻ることにした。
足取り軽く前を歩くミケルとロルフが村に到着すると、タイミングよくアーベルが帰っていた。
「アーベルさん!」
「これ見てくださいよ!」
二人が嬉しそうに走っていくと、アーベルはパンパンになった革袋を見て眉根を寄せる。
「……薬草を探してこいとあれほど言っただろうに」
不機嫌そうにそう言われて、ミケルが口の端を上げる。
「ロルフ」
「おうよ!」
ミケルに名を呼ばれて、ロルフが意気揚々と革袋を下ろし、目の前に採取した薬草を並べていった。どんどん出てくる薬草に、アーベルの目も丸くなっていく。
「……これは、凄いな」
アーベルがそれだけ呟き、地面に並べられた薬草の状態を確認する。そうしていると、村に残っていた獣人達が集まってきた。
皆、地面に並んだ大量の薬草に驚きの声を上げている。
「ミケルとロルフが集めてきたのか?」
「いや、村長だろ」
「それにしても多いな」
そんな声が聞こえてくる中、アーベルは不思議そうな顔でミケル達に目を向けた。
「有難いことだが、どうやってこんなに見つけたんだ? 最近は近場で見つからなくなってきたから、村を移動することも検討していたのだが……」
アーベルがそんなことを言ってきたので、思わず声が出る。
「えー、もったいない。まだ結構あると思うけど……」
そう口にすると、アーベルや村の獣人達の視線が僕に集中する。おっと、余計なことを言ったか。そう思ったが、ミケルとロルフの方が笑顔でこちらを指差す。
「そう! まだまだ薬草はある!」
「このラーシュの嗅覚があれば見つけられる!」
二人がよくわからないことを言い出し、予想通り全員が首を傾げてしまった。説明が下手どころではない。翻訳係が必要だ。
「……ラーシュが見つけた、ということか?」
アーベルがこちらを見てそう聞いてきたので、頷いて答える。
「まぁ、僕が見つけたかな?」
そう口にすると、皆が目を瞬かせる。信じてもらえないだろうと思ったが、すぐに何人かの獣人が集まってきた。
「どうやって!?」
「ラーシュ、凄いんだね!」
笑顔でワイワイと盛り上がる面々。獣人の皆は本当に人が好い。行商人などがきたらすぐに騙されてしまいそうだ。
余計な心配をしていると、アーベルが真剣な顔で歩み寄ってきた。皆が少し横に退いて場を空け、そこにアーベルが立つ。
「……どうやって薬草を見つけたんだ? 教えてくれないか」
珍しく、アーベルが下手に出て尋ねてきた。しかし、アーベルは立ったまま見下ろしてきているので、見た目は尋問に近い。
「こ、恐いんだけど」
そう口にすると、途端に村の女性陣がアーベルを非難する。
「ちょっと、村長」
「顔恐いから離れて」
「ラーシュが怖がってるでしょ?」
皆から責められて、アーベルは無言で二歩後ろに下がった。少し悲しそうな顔をしていたが、気のせいだろうか。
と、気が付けば皆が無言で僕の説明を待っている状態になったので、とりあえず答えることにした。
「えっと、メーラル草は小さくて物陰に生えるので見つけにくいけど、基本的に十株以上で群生するんだよね。まぁ、十株で群生と言えるかどうかは分からないけど」
「うんうん」
「確かに」
説明を始めると、特に村の女性陣が熱心に相槌を打つ。その反応を確認しつつ、詳しく説明を続けていく。
「他の薬草はまた違う例もあるけど、とりあえずメーラル草に関しては水辺の近くに群生するんだ。とはいっても水分量が多すぎると育たないから、池とか川から五十メートルくらい離れた場所に生えることが多いかな? それと、長い時間太陽の光が当たる場所は生えにくいから、南北どちらかに遮蔽物になりそうな大木だったり岩だったりがあると更に良し。ちなみに、メーラル草の生えやすい場所は土が粘土っぽい土で湿気が多いところだから、水辺から離れてるのに湿気が強くなったら周辺を探してみると良いと思うよ」
そんな感じで簡単に説明すると、皆は感嘆の声を上げた。
「へぇ! 物陰ってことね」
「じゃあ、川の周辺を探せば良いの?」
「あ、池があるじゃない。そっちも良いかも」
僕の情報を下に、皆が笑顔で話し出す。良かった。少しは村の役に立てたようだ。皆が喜ぶ様子を横目に見つつ、後方で腕を組んで立つアーベルに振り返った。
「あ、そうだ。森を出る方法ってあるの?」
そう尋ねると、アーベルが眉根を寄せる。先ほどまで雑談していた皆も急に口籠り、僕の方を見た。
あ、僕がどこかのスパイだと思われてしまったかもしれない。獣人の村の所在を売って金にしようとしていると思われたら、とても嫌な気持ちになるだろう。
そう思ったが、アーベルから出た言葉は違うものだった。
「森を出るにはかなりの距離がある。それに、森から出ても人間の集落まで数日歩くだろう。危険だ」
アーベルがそう口にすると、女性陣や年の近い子供達も心配そうな顔になった。
「森を抜けるのは危ないよ、ラーシュ」
「狩りできないでしょ?」
「……ラーシュいなくなるの、悲しい」
皆が心配したり、別れを悲しんだりしてくれている。それが素直に感じられ、胸が熱くなった。優しい人々と、居心地の良い村。そんな場所なんだと再認識させられる。
少し泣きそうになりながら、僕は首を左右に振って笑った。
「いや、違うよ。どうにか新しい武器とか手にいれないとなって思ってさ。そうじゃないと、大型の魔獣とか撃退できないでしょ?」
そう告げると、皆は目を皿のように見開いて固まってしまったのだった。
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