村での仕事 23
先ほどもイリーニャが薬草を磨り潰していた筈だが、もうそれで最後だったのだろうか。現在、僕とイリーニャの仕事は薬草の磨り潰しだ。仕事がなくなってしまっては困る。
森から出る方法についても聞きたかったが、先に自分の職を失わないようにしておこうか。
「薬草って、種類は? いつもの葉っぱみたいなやつ?」
尋ねると、ミケルとロルフは眉根を寄せつつ何かを取り出したロルフが背中を向け、ミケルがロルフの背中の革袋から草っぽいものを取り出す。幅の広い葉と赤みがかった太い茎。いつものほうれん草みたいな草だった。メーラルと呼ばれる低級ポーションを作る為の薬草だ。それ自体にも効果があり、ゲームならクリック一つで体力を少し回復するものである。
魔獣の一部もそうだが、こういった薬草などもゲームと同じようなものが存在した。勿論、まったく知らないものが一般的に普及していたりもする。不思議だ。
「メーラル草だね。それなら、見つけられるかも」
「あん?」
「おん?」
一言ぽつりと呟くと、ミケルとロルフが変な声を出した。それに苦笑しつつ、イリーニャに声を掛ける。
「ちょっとだけ探索してみて良い? ミケルさんとロルフさんも手伝ってくれるだろうし」
「あ、は、はい!」
イリーニャはすぐに返事をしてくれたが、ミケルとロルフは物凄く嫌そうな顔をした。
「えー」
「もう帰りたーい」
どうやら薬草探しに飽きてしまったらしい。駄々をこねる子供のような二人を腕を組んで見上げ、溜め息を吐きつつ口を開く。
「……薬草、いらないのかな?」
そう聞いてみると、二人は獣の耳と尻尾を下げてシュンとしてしまう。
「……薬草、欲しいっす」
「怒られたくない……」
どうやら薬草採取を厳命されているらしい。まぁ、普段は狩りしかしてないから薬草が見つけられなくても仕方がないだろう。この二人が駆り出されているということは、他の獣人達も薬草探しをしているはずだ。
それだけ在庫がひっ迫しているなら、少しでもお手伝いできると嬉しい。
「それじゃあ、二人とも手伝ってね。ほら、こっちだよー」
気落ちした二人とイリーニャを引き連れて川の上流に向かってみる。大きな岩があったので、ミケルの背中を脚立代わりに使って上った。痛い痛いと言っていたが、僕の体重はとても軽いので大丈夫だろう。大袈裟なミケル君である。
岩に上ると視界が一気に広がった。森は相変わらず鬱蒼としているが、それでもそれなりに広い範囲を目視することができる。木や岩などについた苔が多い方が北側かな?
ジーっと時間をかけて周辺を見ていると、岩の下からミケル達が声を掛けてきた。
「上から見ていたら分からないぞー?」
「けっこう小さいからな? 他の草に隠れてることが大半だ」
二人が色々と助言めいたことを言ってくるが、残念ながら見当外れである。薬草は群生しているので、小さな薬草一つを探すのではなく、薬草が育ちそうな場所を探すのが正しい。
まぁ、これまでに何年もかけて様々な職業適性を試してきた廃人プレイヤーが言うのだ。これ以上正しい知識は存在しないだろう。
「……あの辺かな」
時間はかかったが、ようやく良さそうなポイントを見つけた。周りに木が多く、水辺からちょうど良い距離にあり、尚且つ陽の当たる時間も良さそうな場所。
「下ろしてー」
「へいへい」
声を掛けると、ミケルが両手を伸ばしてくれたので、それに足を乗せる。
「手の上に立つなよ……」
「ありがとう」
見た目は細そうなのにミケルは中々の筋肉をお持ちのようだ。トロフィーのように安定した形で地面まで下ろしてもらった。
「こっちだよー」
「本当かよ……」
「大丈夫かなぁ」
声を掛けて森の奥へ行くと、ミケル達は半信半疑ながら付いてきてくれた。それにイリーニャも苦笑している。
ぬかるむ地面を避けつつ森の中を五十メートルほど進み、緑の匂いが濃くなった気がした。川から離れたのに湿度が高い。だが、別に池や沼というわけでもない。これは可能性が高いぞ。
そう思って大きな葉が重なるところを左右に分けてみた。すると、手のひらほどの小さな草が現れる。見た目は小さなほうれん草だが、これがメーラル草である。
「あったよー」
そう言って皆を呼ぶと、恐ろしい勢いで走ってきた。
「嘘!?」
「本当か!?」
薬草探しに相当苦労していたのだろうか。ミケルとロルフは目を丸くして地面に生えたメーラル草に釘付けになっている。
「……よく見つけられましたね、ラーシュ様」
イリーニャも驚きを隠せずにいた。それに笑いつつ、自分で自分の胸を叩く。
「任せてよ。いっぱい勉強してるからね」
そう言って笑うと、ミケルとロルフは信じられないようなものを見るような目で僕を見てきた。
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