ラーシュ君の楽しい村改造計画 22
丸一日かけて獣人達全員の職業適性を把握することが出来た。それを石板に色の付く木の枝でガリガリとメモしていき、表にする。
内訳は戦士が四十名、弓使いが二十五名、盗賊が十名。魔術師が一名と聖職者が二名いたが、残り十八名が不明だったが、三人は僕の商人スキルである投石銃を実際に見て、効果を覚えた結果スキルを習得することができた。残りの十五名は子供だったりスキルが発動しなかったりで不明である。
とりあえず、幼少期から危険に晒される環境のせいだろうか。物理的戦闘に特化した職業適性の者が圧倒的に多かった。だが、防衛という観点からは即戦力ばかりで有難い。本音を言えば魔術師十名と聖職者が十名いれば更に良い。商人は魔導技師になるまで戦力としては考えられないだろう。平和な村を豊かにするという観点から見れば商人が最も適しているが、今はまだその時ではないのだ。
「さぁ、考えるぞー」
表を見ながら、ギルド攻城戦の防衛サイドをメインにしてスキル構成を考えてみる。
死ぬほどやり込んだギルド攻城戦。毎月一回あるイベントのようなものだが、攻城戦を制した時の恩恵が大きい為、毎回必死になって挑んでいた。基本的には城や砦が主戦場となるが、珍しいものでは山賊の住処や炭鉱などもあった。世界に十か所のギルド攻城戦の舞台があり、年に一回攻城戦の舞台が一新される為、戦略を練るのが難しいのが特徴だ。
そんな状況で重要なのは敵の軍勢を足止めできるだけの壁役。そして、遠距離から多数を攻撃する為の攻撃部隊だ。トップギルドになると上級職ばかりで何十人といる為、さらに緻密な戦略が組み立てるようになっていく。罠の設置や敵の誘導、隠密行動での奇襲や包囲作戦なども展開できる。しかし、戦略が増えるということは対応の仕方も難しくなるということでもある。
LOGはプレイ人口が常に世界トップクラスである。その中で毎月たった十ヵ所の拠点を奪い合う戦争が行われるのだ。僅かな上位ギルドは同盟ギルドを引き連れて防衛を成功させることもあるが、まず攻撃側が勝つのが当たり前だ。防衛に二百人いても攻撃側が一万人なら話にならない。
それほど過酷な環境で攻城戦を繰り広げてきたのだ。最低限のルールとして攻城戦はランキングで千位以内のギルドしか参加できないが、せめて五百位以内にしてほしかった。
そんな楽しいゲームの思い出に浸りつつ、拠点の構成も練ってみる。だが、村はあまりにも貧弱だった。貧弱過ぎて撤退の二文字しか出てこない。なんだ、この紙拠点は。
やはり、個人個人の能力を引き上げるしかない。効率的なレベリングとスキルの使い方を教え、戦術の教育を施すのが最善だ。獣人達は三人から五人のグループで行動し、森の中で狩りをしている。その際に脅威となる魔獣を発見したら、即座に村へ報告に戻るといった感じだ。そんなやり方をしているので、個人の能力はかなり高い。しかし、それはつまり身体能力に依存した戦い方になってしまっているということの裏返しにもなる。
「まず、戦士の人を全員集めて基本スキル講座をして、弓使いの人には……うわ、武器だ。そういえば、武器が殆ど手作りの木の枝の弓しかないんだった」
村で最も上手いミケルとロルフは拾得物である金属製の弓を使っているが、それ以外の弓使いの獣人達は良さげな枝に魔獣の皮を使った弦などで狩りをしているが、威力はなんとも言えない。何なら獣人の身体能力で投石した方が強いくらいだ。唯一の利点としては弓使いとしてのスキル、気配察知と鷹の目の使用ができるくらいだろう。
「設備もそうだけど、武器も必要だなぁ……森の外で手に入る場所はないのかな?」
そう口にすると、近くで薬草を磨り潰していたイリーニャが耳を立てて驚いた。
「は、はい? あ、お買い物ですか?」
「うん。あまりにも武器が弱すぎて……でも、簡単には森から出れないよねぇ」
「どうでしょう? ちょっと聞いてみましょうか」
そんな軽いノリでミケルとロルフを探すことにした。村に残っていた獣人達に尋ねると、すぐに二人の居場所が判明する。珍しく、森の中に流れる小川に沿って上流に向かっているそうだ。
「川は魔獣が多いから行くなって言われてなかった?」
「はい。まぁ、あの二人なら大丈夫かと思いますが……」
そんな会話をしつつ川の方へ向かってみると、意外と村から一番近い地点に二人はいた。何故かは知らないが、二人揃って地面を眺めながらぷらぷらと歩いている。
「めんどいわー」
「全然ないじゃねぇか」
二人は愚痴みたいなことを言いながら揃って溜め息を吐いていた。それを見て、イリーニャと顔を見合わせてお互い首を傾げる。
「……何をやってるの?」
そう尋ねると、ミケルとロルフが跳びあがって驚いた。
「うわぁ!」
気配察知を持っている筈なのに、気が抜けすぎている。呆れて驚く二人を眺めていると、咎めるような視線が返ってきた。
「なんで二人でこんなところに来てんだ!?」
「危ないぞ!」
と、怒る二人。
「いや、二人も思い切り緊張感が無かったけど」
そう指摘すると、すぐに押し黙った。反論は出来なかったらしい。
「……薬草を探してるんだよ。最近、怪我人が多いからな」
「薬草?」
ロルフの言葉に、僕はそう聞き返した。
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