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僕の職業適性には人権が無かったらしい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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村の未来  20

 怒りを抑えながら聞く姿勢を見せたアーベルに自然と微笑み、答える。


「……まず、生活基盤が安定していないよね。本当なら、防衛設備を作って安定した村を作りたいところだと思う」


「……そんな簡単なことではない」


 意見を口にしていると、アーベルは目をナイフのように鋭くさせてそう反論した。それに片手を挙げて応えつつ、話を続ける。


「簡単かどうかはどうでも良いんです。難しくても実行しなくてはならないことですから」


 はっきりと断定すると、アーベルは口籠った。薄々と感じていたのだろう。アーベルは何も言わずに沈黙している。その様子を確認してから、再度口を開いた。


「……まず、設備を強化するのは時間が足りないよね。そもそも、大型魔獣が現れた場合に有効な設備は簡単には作れないし。だから、まずは全員の職業適性を把握して、全体的な戦闘能力を強化する必要があると思う」


「たった百人でか? その中には十歳の子供もいるんだぞ」


 こちらの考えの一部を告げると、アーベルは真面目な顔でそう言った。確かに、この世界の常識ならばそうだろう。しかし、ゲームの世界ならばトッププレイヤーが五人いれば大型魔獣も討伐できるのだ。僕の構想通りにギルドを作ることができるなら、基本職でも百人もいれば十分防衛は可能である。


「問題はないよ。だから、アーベルさんの戦うところを見たいなって」


 改めて笑顔でそう告げる。すると、アーベルは複雑な表情になり、唸った。


「……正直、このままではいけないとは思っていた。しかし、こんな人間の子供の……」


「助言をするだけだから、別に聞かなくても良いからね?」


「……ぬぅ」


 そこまで言うと、アーベルは苦悶の声を上げた。それから暫く悩んでいたが、やがて皆の狩りを見学することに関しては許可してくれた。こちらの意見がどれだけ響いたか分からないが、敵ではないと思ってくれているようだ。


 とりあえず平和的に終わったということで、イリーニャは胸を撫でおろしていた。





 翌日、アーベルは渋々ながら狩りに連れて行ってくれた。安全を期してか、ミケルとロルフも同行している。僕とイリーニャも入れて五人での狩りだ。森の中を歩くにはあまりにも少ない人数だが、アーベル達は平然としていた。


 そして、次々に魔獣を狩っていく。ミケルが気配察知で魔獣の居場所を把握し、奇襲の一矢を放つ。魔獣が複数、もしくは強力な場合、接近されるまでにロルフが次々に矢を放ち、牽制した。


 最後に、アーベルが接近してきた魔獣を一撃で倒していく。大きな両刃の剣だが、まるで木の棒を振り回すように扱っている。魔獣は小型とはいえ十分脅威な筈だが、アーベルは本当にスキル無しで対応していた。


「……アーベルさん、強いねぇ」


「で、ですね」


 イリーニャとそんな会話をしていると、近くにいたロルフが振り返って口の端を上げる。


「アーベルさんは村で最強だからな。昔はスキルを覚えられない役立たずなんて言われていたみたいだけど、実力で上の奴らを黙らせたんだ。すごいだろ?」


「へぇ、それは本当にすごい」


 ロルフの説明を聞き、素直に賞賛する。戦闘する様子を見る限り、アーベルは完全に速度特化だ。剣の威力も確かに高いが、常時発動する剣の心得というスキルがあれば別だ。それだけで速くて強いというステータスにはなる。


 ただ、それにしても相当な強さだ。これはゲームならプレイヤースキルによるものと思われた。初心者が使えば最強のキャラクターも大して能力を発揮できない。しかし、圧倒的なプレイヤースキルを持つ人物が初心者のキャラクターを動かせば、それだけでかなりの強さとなるだろう。


 今でも十分強いアーベルが、最強のスキル構成を組んで戦えばどれだけの戦力になるのか。


 はっきり言って、今ここにいる五人で大型魔獣を追い払う未来も夢ではないと思っている。


「……これは、面白くなってきたね。他の人たちの職業適性と能力も楽しみだ」


 そう口にすると、イリーニャはホッとしたように笑顔になった。


「村はどうにかなりそうですか?」


 その質問に、大きく頷いて答える。


「そうだね。獣人の皆は強いから、きちんと職業適性にあった形で成長すればこの森の中でも十分やっていけると思う。ただ、防衛設備を作ったりするのが難しいよね。それはどうしようかなぁ……」


 イリーニャの質問に答えつつ、新たな問題に頭を悩ませる。村の状況を考えてみると、建築技術はあまり無いと思われる。衣服は毛皮以外に布製の物もあるので、文化的な生活っぽくはなっているが、食事は肉や魚を焼いたり果物を切って食べたりと素朴過ぎるし、井戸以外の設備が無いせいで様々なインフラが整っていない。なんなら、森の入り口の方で生き倒れた旅人や傭兵たちの衣服、武具などを拾ってこないと最低限の物資も揃わない。


 足りないことが余りにも多いのだ。これは、忙しくなるぞ。


 獣人の村での生活一週間にして、何故か僕は領主にでもなったかのような気持ちでアーベル達の戦いぶりを眺めていたのだった。



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― 新着の感想 ―
一番足りないのは皆への説明だと思う、、、
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