評価 10
いつものことということで、簡単なやり取りだけして、十人前後で森で魔獣狩りを行う。ただし、魔獣の足止めや先制攻撃は鎧を着た獣人達がやってくれて、僕は最後のトドメという流れだ。
「ラーシュ様! いけますかい!?」
「はい! 投石銃!」
スキル名を口にすると、魔力が消費されて手元に両手で持つような形状の銃が現れる。ちなみに見た目はおもちゃっぽい雰囲気で、よく見ると上部に長い紐のような物が張られていて、手元には拳大の石が載っていた。
狙う先は小鬼と呼ばれる小型魔獣たちだ。今は小鬼が三体おり、それぞれを獣人達が引き付けてくれていた。
両手で構えて引き金を引くと、小鬼の後頭部に命中。一撃で倒すことができた。ちなみに今回同行した男の子は弓使いらしく、弓で華麗に小鬼を討伐している。格好良い。
商人で最も難しいという経験値稼ぎだが、皆の協力でとてつもなく順調だった。伯爵家で長年働く獣人たちに協力してもらい、外で魔獣狩りや傭兵業を行っている獣人達にコンタクトを取ってもらったのだが、これが大成功だった。
今まで一切手を付けていなかったお小遣い程度の報酬で快く協力してくれているが、効果は絶大だ。安全にレベリングができている。
ただ、日々考察をしているのだが、不明な部分や研究不足な部分がどんどん発見されているのが悩みどころである。
まず、レベルが上がったという感覚は無く、現在のステータスやスキルポイントの量なども把握が難しい。通常であればレベル三十くらいまではすぐに上がるだろうが、今の自分はどのくらいのレベルなのかわからない。小鬼や赤猪、黒狼など小型魔獣を数百体は倒したはずなので、レベル的には五十を超えていてもおかしくない。
レベルに合ったスキルを取得すれば分かりやすい指標になるが、スキルポイントを無駄に使うわけにもいかない。最強のビルドをする為には、商人で得られるスキルポイントの殆どを保持したまま上級職にならなければならない。
騎士や魔術師ならば力や魔力量の増加具合で大雑把ながらレベルや熟練度を把握することもできるだろうが、商人の最も上がるステータスはDEXである。自分が器用になったかどうかは正直よく分からない。
ただ、投石銃をそれなりに使っても魔力には余裕がある気がするので、想定以上にレベルが上がっている可能性もあった。
そんなこんなで充実した毎日を送っている為、伯爵家内のごたごたなど気にもならない。ニルスとエリックに嘲笑されたり、オリヴィアに嫌味を言われたりしても笑ってスルーである。使用人の一部から通り過ぎる時に鼻で笑われても問題ない。ヨハンソンから理不尽なことで怒られても不貞腐れずに謝罪ができている。
ただ、本来なら十歳からアカデミーという教育機関に行くのが一般的なのだが、その話が一切なく、準備もしていないことだけが気になった。
まぁ、どうなっても自分が理想とするスキル構成の魔道技師になれれば良いか、という感じで開き直り、空いた時間の全てをレベリングに費やしていたのだが、事態は急変した。
ある日の朝、起きて早々にダディからお呼びがかかった。
またオリヴィアの嘘を鵜呑みにして説教でもしようというのだろうか。いや、そういえば、僕は十歳の誕生日を祝われていないではないか。もう半年以上も前だが、今更ながらダディが思い出してくれたのかもしれない。
「……って、そんなことあるわけないよねぇ~」
我ながら少々卑屈になりながら乾いた笑い声を上げる。イリーニャが首を傾げてこちらを見ているが、苦笑しつつ片手を振ってなんでもないと伝えておいた。
ダディが待つ執務室、通称ヨハンソンルームへ行くと、中には険しい顔をしたダディの姿があった。誰も入るなとのことなので、執務室にはヨハンソンと麗しきラーシュ君の二人だけだ。執務机の奥の椅子に腰かけるダディと、机を挟んで反対側に立つラーシュ君。ちょうど、視線の高さが同じくらいになった。
数秒もの間、二人とも無言で見つめ合い、何の用事だろうと首を傾げた時、ヨハンソンが口を開いた。
「……ラーシュ。残念な報せがある」
「なんでしょう?」
雲行きが怪しい。そう思いつつも聞き返す。それにヨハンソンは眉根を寄せ、溜め息を吐いた。
「……我が国では、十歳を超える貴族の男子はアカデミーに入学する必要がある。入学試験はあるが、上級貴族であれば大半が王都にある国立アカデミーへの入学となるだろう。だが、正直に言ってお前が合格するとは思えん」
「はぁ、そうですか……しかし、一般的な教養も剣術も十分基準には達していると思いますが……」
そう答えると、ヨハンソンの眉間の皺が深くなった。
いやいや、いくら息子のことを見ていないと言っても、流石に知らな過ぎるのではないか。最初から四則演算どころか我が国の数学者並みに計算ができる天才ラーシュ君は、教えてくれている元商人だった獣人の使用人達からは神童ともてはやされているのだ。ここ二年ほど主に剣術を教えてくれた元傭兵の獣人からも、年齢の割に上手だと褒められている。
そこまで考えて、ようやく僕の灰色の脳みそは自分の置かれていた状況を思い出した。
元奴隷や獣人の使用人たちは、最も下位の立場にある。そして、ヨハンソンの傍にいるのは執事長とメイド長、騎士団などで、ほとんどの者は会話する機会すらないだろう。そして、そんな上位の立場にある使用人たちは、全てオリヴィアの派閥なのだ。
つまり、ダディが気になった使用人たちに尋ねたとしても、その誰もが「ラーシュはサボってばかりで何もできません」と答えている可能性がある。
そんな誰でも分かる事態に、僕は今更気が付いたのだった。
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