【序章】 異世界での戦い 1
以前から書いてみたかった新作案第一弾です!
あまり長くはないかもしれませんが、面白く書けるように頑張ります!(*´ω`*)
もし興味があったら読んでみてください!・:*+.\(( °ω° ))/.:+
「おーい! こんなところにナイア草があったぞ!」
「本当か!」
遠くの方でそんな声がした。男の声だ。薄暗い森の中を歩く青い髪の少年と、その隣を歩く赤い髪の少女が顔を見合わせる。少年は十歳前後だろうか。理知的な紺色の瞳が印象的だった。赤い髪の少女は可愛らしいがどこか素朴な雰囲気を持っている。それよりも特徴的なのは頭から生えた三角形の獣の耳だろう。時折ぴくぴくと動いている為、飾りを付けているわけではないと分かる。少年が少し上等な衣服を身にまとっているのに対して、少女は麻で編まれた安っぽい茶色の布の衣服を着ていた。お尻からは細い尻尾が出ていて、左右に楽しそうに揺れている。
「良かったね。僕たちも薬草を取りに行こうか」
「は、はい!」
そんな会話をして、歩き難い森の中を二人が急ぎ足で進んだ。乾いた土と落ち葉を踏む音。森の中は濃い緑の香りが広がっている。背の高い木々の枝葉に遮られ、陽の光は少ない。
まだ成長途中の子供の手足では大きな木の根、岩一つ跨ぐのにも一苦労だろう。少年は遅々として進まない自分の歩みにもどかしい気持ちになっていると、前を歩く少女が振り向いた。
「ラーシュ様。私の手をどうぞ」
「うん、ありがとう。イリーニャ」
二人はそんなやり取りをして、手をつなぐ。イリーニャと呼ばれた少女は見た目よりも強い力でラーシュの体を引き、岩を上っていく。進むにつれて徐々に視界が開けていき、薄暗かった森の景色にも空の割合が広がっていった。
その時、男二人の声のした方向で大きな音が鳴り響いた。地面を揺らす振動が足に伝わり、近くにいた鳥が鳴き声をあげて一斉に飛び去る。
まるで大きな重い物同士が衝突するような激しい音だ。そして、続けざまに何かが落下する音。
「さ、先に行きます!」
嫌な予感がしたのだろう。イリーニャはそう断ってラーシュの手を放し、一気に森の中を走り出した。野生の動物のように速い。これまではラーシュの歩く速度に合わせていたのだろう。腰ほどの高さの岩を飛び越え、残り僅かな森の中を瞬く間に駆けて行った。
そして、イリーニャが息を呑む音がして、ラーシュが顔を上げる。
「は、早く大人になりたい……!」
ラーシュは焦れる感情を少し漏らしながら、必死に森の中を進んでいる。十メートル、二十メートル程度の距離を必死に走り抜け、ようやく木々が視界から消えた。一気に視界が広がり、陽の光を直接受けてラーシュは目を細めた。
半眼にして目に入れる光量を抑え、ようやく状況を把握できるようになる。
膝まである大きな草原の中、巨大な影があった。木々を薙ぎ倒して森から姿を見せたのだろう。少し離れた場所には大きな木が横たわっている。その影は、倒れた大木を踏み砕いて顔を上げ、空気が震えるような咆哮をあげて黄色く濁った双眸を光らせた。
赤茶けた岩を幾層にも重ねたような鱗と大きな口から覗く巨大な牙。体高は四メートル、全長は十メートル以上あるだろう。背中には翼は無いが、それが紛れもなく世界最強の種族、竜種であることは一目瞭然だ。
ドラゴン。それも、幼竜ではなく、紛れもない成竜だ。詳しい者が見れば、岩の鱗と翼が無い見た目からそれが地竜の一種であろうと推測できるだろう。もし騎士団の精鋭で当たるなら千人以上で戦うような強敵だ。
対して、その地竜に相対しているのは二人。それも刃渡り三十センチ程度の短剣と弓を持った青年二人だけだ。
「ミケルさん! ロルフさん!」
イリーニャが二人の名を叫ぶ。その声を聞き、名を呼ばれた二人が振り向き、鋭い視線を向ける。まるで鏡のように似た姿の二人だった。揃って白い髪を後ろで結び、頭からはイリーニャよりも尖った三角の獣の耳が生えている。尻尾は毛が長い太めのものだ。唯一の違いがあるとするならば、ミケルと呼ばれた獣人は耳が上を向いており、ロルフの方は耳が下がっているくらいだろうか。
「来るな!」
「逃げろ、イリーニャ!」
ミケルとロルフはそう叫ぶと同時に左右に跳んだ。そこへ、地竜の太い前脚が振り下ろされる。見た目にそぐわぬ速度で振り下ろされた前脚は、人の大きさほどもある巨大な四本の爪で地面を抉り、周囲に土ぼこりを舞わせた。
二人は必死に地竜の攻撃を避け、どうにか逃げる手段を模索しているように見える。
「ど、どうしよう……! ミケルとロルフが死んじゃう……!」
泣きそうな声でイリーニャがそう口にした。ミケルとロルフは驚くような身体能力で回避に徹しているが、それでも巨大な地竜の攻撃を何度も躱せるものではない。それに、装備も問題だ。二人とも装備は魔獣の皮を鞣して作られた軽装である。多少の打撃、斬撃には強いものではあるが、地竜相手には紙切れと同程度の効果しかない。
それを理解しているのか、イリーニャは胸の前で両手が白くなるほど握り締め、肩を震わせている。目には涙が浮かんでおり、ラーシュはそれを見て顎を引いた。
「……まだ、試す時間が無かったから不安だったけど、仕方がないか」
そう口にして、ラーシュは立ち尽くすイリーニャの横を通り過ぎて前へ出た。それに、イリーニャが驚いて視線を向ける。