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第41話 線の尊重

「なるほどね。じゃあそれで無事に黎属(れいぞく)も果たせたわけだ。名前はもう決めたのかい?」

「い、いいえ。折角なら意味がある言葉にしたいなって思って。……後で私の世界の教科書とか、この世界の単語辞典とか色々探してみるつもりです」

「それはいい、頑張ってほしいな。応援してる!」


 相変わらずの笑顔でリュミエルさんが頷く。騎士団の駐屯地へと戻ってきた私の腕の中には、宝石のような美しい卵が抱かれていた。

 

 ……ここに卵を連れて帰ることに、不安がなかったとは言わない。けれどもそうすることを望んだのは、他でもない卵の中の存在だった。



 ◇ ◆ ◇



《約束の件だ。先代を屠った本人と話がしたい。そなたらと縁あるものだろう?》

「えっ!? あ、はい。もちろんありますけれど……その、ここから卵さんを連れていって大丈夫なのでしょうか?」


 檎娘龍(ロゼリアドラゴン)が未だ内包されている卵と、ヒースさんの顔を交互に見る。


「……孵化前とはいえ魔族だ。そう簡単に割れる恐れはない、が……」

《何を臆しておる。よもや、先ほどの言葉が嘘偽りなど申さぬだろうな?》

「そんなことは! ありません、けど……」


 信頼はあるし確信もある。それでも頷けないのは、もしもダメだったらどうしようと相も変わらず不安を訴える私の心一つだけ。


「……大丈夫だ。マナミ」


 けれども縮こまる心を奮い立たせるように、ヒースさんが隣にいる。

 見上げる私にうなずきを返して、私たち二人に言い聞かせるように言葉をつづけた。


「分かった。場を設けよう。……どちらにしても、俺たちの報告をあいつは待ち望んでいるだろうし、お前が歩みよるのなら、奴も無下にはしないはずだ」



 ◇ ◆ ◇



 そうして設定された場は、予想通りではあるもののリュミエルさんの笑顔の出迎えから始まりました。むしろメッドさんとディノクスさんの方が、双方別の意味で互いに警戒しているようにも感じるほどに。


「改めてはじめまして。智に気高き竜の娘よ、お会いできて光栄だ」

《……》


 卵の中にありながらも、ヒースさんを通じて先ほどと同じように私たちの声を檎娘龍(ロゼリアドラゴン)は聞いているはずだ。

 以前遮られたリュミエルさんの挨拶は受け入れられた。一つの山を越えて知らず知らずに息を吐き出す。


「遠路はるばる来てくれて感謝するよ。マナミさんたちの提案を受け入れてくれた、という認識でよいのかな?」

《──精霊の王。そう()()()は呼んでいた》


 リュミエルさんの問いに返さず紡がれた言葉に部屋の空気が一気に重くなった気がする。私はといえば、半歩前に足を出す。いざという時は一人と一頭の間に入れるように。


 けれどもリュミエルさんは、穏やかな笑みを口元に浮かべながら首を傾げた。


「そうだね。彼女はそう呼んでいた。でも今の君は、俺とこうして出会ってどう感じる? 彼女と同じように感じるかい?」

《…………否。そういった感じは、しない》


 強く光ることも逆に輝きが焦ることもなく、檎娘龍(ロゼリアドラゴン)も歯切れ悪く返す。


「だろう? ……申し訳ないが、先代の件については謝罪は出来ない。騎士団に所属するものが人を害した魔族魔獣を放置はできないからね」

《妾が同胞を害するものをゆるせぬのと同じか》


 その通りだ、とリュミエルさんがうなずく。気がつけば先ほどよりも空気はずっと穏やかになっていました。


「代わりに、君が人を害さない限りは騎士団や国が君を害することがないように尽力しよう。俺個人の力で個人までは変えられないが……そこはきっと、マナさんががんばってくれるからね」

「っひぁ!?」


 突然こちらに話を振られて大仰に肩が跳ねる。


「……ひゃ、ひゃい。……もちろんです。魔獣たちと人の間をもっと良くするために、私は残るんですから」

「うん。最初にここに来た時よりずっといい顔になったね。期待しているよ、マナさん」

「……! はい!」


《──よいだろう、ならば(わらわ)はマナミとの約束通り、妾の願いを探すとしよう。だが、その結果そなたら人と相容れぬ可能性があることをゆめゆめ忘れるな》

「そうならないように俺たちも全力をつくすとしよう。檎娘龍(ロゼリアドラゴン)、その時には君を名で呼べるようになっているのだろうね」


 真剣なまなざしで卵へと相対したリュミエルさんは、瞬きのうちに口角をあげる。


「それにしても、ヒースとマナミさんが二人でこの子に名前をねぇ……なんていうか、家族みたいだよな」

「は、」

「え、ええっ!?」


 ヒースさんの声を掻き消すほどの大きな声が咄嗟に出てしまい、慌てて口を手で押さえた。


「な、なに言ってるんですかリュミエルさん!」

「え?だって子どもの名前を二人で考えるってそういう感じしないか?」

「しっ、しまっ、しますんが……!」

「なんて?」


 うぅ、きっと今の私は林檎みたいな赤い顔をしているに違いありません。リュミエルさんが楽しくてたまらないと言わんばかりに笑っているのですから。恥ずかしくてヒースさんの顔も見れないまま、腕の中の卵を抱える腕の力を強める。


《なるほど。母龍といずれ呼ばれる身であるが、実際に母や父を持ったことはなかった》

檎娘龍(ロゼリアドラゴン)さん!?」


 かと思えば卵から響く思念にびっくりして、危うくバランスを崩しそうになった。


「ヒ、ヒースさん……! ど、どうす、どうすれば……」


 思わず話題の主のもう一人に助けを求めれば、眉を下げて周囲を見渡していたヒースさんが深くため息を吐きだした。


「……お前ら。マナミが困っているからやめろ」

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