第35話 大団円に続くため
「ロゼリアドラゴンの、系譜……?」
リュミエルさんの申し出に私とヒースさんは二人揃って瞳を瞬かせる。
「ああ。ヒース、お前は知っているだろう。人間や魔獣は親の胎から子が産まれるが、魔族は違う」
「……ああ。死んだ魔族が残した魔力を元に復活する。かつて二百年前、瀕死だった先代の鎧鷲獅子が封印されたのはそれが理由だ」
「えっ!?」
衝撃の真実にお二人を交互に見つめる。イタズラが成功したようにリュミエルさんがウィンクを返してきた。
「同じことが彼女……檎娘龍にも起こるはずだ」
「……っ、それは」
何度も彼女が蘇るということだろうか。ヒースさんを思わず見上げれば、小さく首を横に振られる。
「……完全に同一ではない。知識として先代の話を覚えていようと、あり方も感情も別物だ。……そうでなければ、俺はここにいないだろう」
「そう、……なんですか」
精霊に対しての憎しみを持っていた彼女と、完全に同じものではない。前の彼女に会えず悲しいような、同じ繰り返しでないことに安心するような。
「だが、今の魔族や魔獣に対する国民の恐怖は色濃い。もし幼体の彼女を他の者が見つければ、そのまま討伐されてしまうだろう」
「その前に私たちが見つけて……彼女を黎属するように、と?」
「そうだ。引き受けてくれるかな?」
「やります!」
真っ先に出たのはその返事だった。口にしてからあっ、と小さな声をこぼす。
「でも……黎属だけで何とかなるものなんでしょうか? 国の人たちに、もう大丈夫って思ってもらうために」
「……ううん。これは謝罪こみの事後報告なんだけれどね。実はヒースとマナさんが王都を出た後、国のあちこちで情報を流してるんだよな」
「えっ!? ど、どんな……」
「え? よくある話だよ。異なる種族でありながら協力して国の危機に立ち上がった二人の冒険譚」
「リュミエル!!!」
ヒースさんがリュミエルさんの襟をつかんで勢いよく揺らす。……と、止めた方がいいのでしょうか。でもリュミエルさん笑っていますし……。
「あっははは! ……こういうのはさ、大衆を味方につけるのが大事なんだよ。実際王都を包囲するドラゴンたちが消えたことから、あれが事実じゃないかって話も上がりはじめてる」
「……つまり、俺の正体はもう多くの者が知っていると?」
「いや、お前個人とその物語を結びつけられるものは多くない。噂に名前は出してないから、この先のいく末はどうとでも模造できるさ」
話を戻そう、とリュミエルさんが人差し指を立てる。
「終わった後の英雄譚のしめはお前達次第だけれど、どうとでもなる。言いたいことはただ一つ、檎娘龍を連れてきたところで、偏見の目はお前たちが心配するよりは薄いということだ」
──でも、そのためにはまず大団円で話を終えねばならない。
リュミエルさんの視線に唾をのみこんで、あらためて彼を正面から見る。ヒースさんはまだ彼の襟首をつかんだままだ。
「……リュミエルさん、もう一つだけ聞かせてください」
「なんだい?」
「なぜ、あなたはここまでしてくれるんですか?」
ヒースさんにむけてと同じ疑問。
私に恩を抱いてくれている彼とは違い、リュミエルさんはこちらを測りながらも意志を尊重して、道を整えてくれる。神様が形になって手を差し伸べてくれているように。
そこまでされる理由が、私には分かりませんでした。
「……俺はね、可能性を見たんだ」
「可能性?」
「ああ、人と魔獣、全てではなくとももっと距離を縮められるんじゃないかという可能性を。君とヒースを見ていると感じる。それはきっと、この国の在り方にとらわれていては得られないものだ」
──もっとシンプルにいえば、期待している。
「……!」
その言葉に胸が熱くなる。喉の奥から熱いかたまりが押し寄せるのを、ぐっと唾を飲みこんでこらえた。
「……ありがとう、ございます。期待に応えられるように、がんばります」
「そう気負わなくともいいさ。期待はしているが、責任は君一人のものじゃない。……ヒース、サポートしてあげてね」
「当然だ。……ここは、出ても問題はないのだろうか」
監視房と呼ばれている何もない空間をヒースさんが見渡した。
「その辺りは俺がごまかしておくよ。そのまま何もせずに逃げられたら問題だけど、二人がやることをやってくれれば大丈夫さ」
「……承知した」
必ず戻る、と頷いたヒースさんを見て、リュミエルさんが瞳を細める。フォンと微かな音がしたかと思えば、私とヒースさんの足元に緑色に輝く魔法陣が現れた。
「えっ……!?」
「檎娘龍が産まれるとするならそれは間違いなく先ほどの山、その深部だ。マナミさん、ヒース、頼んだよ」
「……ああ」
「っ、リュミエルさんこそ、無理はしないでくださいね……!」
そのやり取りと共に、私たちの視界は急速に渦を巻いて、そして白に染まった。




