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第33話 明かされた手段

 光の差さない地下の一区画。格子こそないが部屋の端々には魔法感知の装置が設置されている。部屋の内部にいるものが魔法を発動した瞬間、発報して部屋の外にいるものにも伝わる仕組みだ。


「息苦しいだろうが、気づまりはしてねぇか? 構造は似てるとはいえ慣れ親しんでた場所とも違うし」

「……」


 ガウスの問いかけにヒースは無言で首を横に振る。ここに連れてこられてからの彼はずっとこんな調子だ。

 反発はせずに促されるまま動き、けれども何も話さない。食事はとってくれてるからよいが、普段の寡黙さに輪をかけた沈黙にさてどうしたものかとガウスは顎ひげを撫でた。


「あー。もし必要なもんとかあったら持ってくるけど、どうする?」

「いらない」

「うーん……」


 こりゃお手上げだ。あっさりと白旗をあげたガウスの耳に、反響する足音が聞こえてくる。二度のノックのあと、扉が開いた先にいたのは二人がよく知る人物だった。


「や、ガウス。ヒースの調子はどうだい?」

「中隊長! 大人しいもんですさ。ま、覇気がないのがちょいとばかし心配ですがね」

「…………」


 遠くを見ていた赤い瞳が、こちらのやり取りに向けられる。リュミエルはその様子を一瞥して、朗らかな笑みをガウスに向けた。


「悪いね。ちょっと俺たちだけにさせてもらえるかな?」

「え、いやしかし……」

「ここの責任者には話を通してるし、別にヒースを連れ出すつもりはないからさ」

「はぁ。なら中隊長のいう通りにさせてもらいましょうか」


 頭を掻いたガウスは部屋を出ていく。扉が閉まる音がするよりも先に、ヒースは目の前の男に神経を集中させた。


「リュミエル、何の用だ」

「怖い顔だな。まあ、今のお前はそれをするだけの権利がある。恨み言があるのなら存分に吐き出すといい」


 そう笑って向かいに座るリュミエルを睨みつけていたヒースは、やがて深いため息をついた。


「……傷は」

「ん? ああ、これくらいならいずれは癒えるし、治癒術を継続的にかけていれば活動に問題はない」

「負担はあるだろう。今のお前は無理をして押しているだけだ。……分かっている。お前は騎士団の中隊長としては、すべきことをした」

「ああ。だからと言ってお前がそれで怒りの矛先を収める必要はどこにもない」


 部屋の空気がきしんだように重くなるが、いずれもそれを気にした様子なく言葉を続ける。


「だから俺のことは恨んだままで構わない。その上でヒース、お前には選択肢がある」

「……マナミのことか」


 ずっと丸めていたヒースの背中が、その名前を呼んだ時だけ伸びる。


「だね。ディノクスのおかげで彼女が元来た世界を見つけることが出来た。あとは彼女が望むならば帰すだけだが……そのための代償の話だ」

「お前と最初に言葉を交わした通りだ。彼女が望むのなら返す。そのための代償は、俺が支払うと」


 ヒースの言葉にためらいはない。


「異世界と呼ばれる空間を肉体は越えられない。よくて魂だけだとお前は言っていたな、リュミエル」

「ああ、その通りだ。俺も幾度か試してみたことがあるけれど、世界の境目を越えるのは魂だけで精いっぱいだった」

「だから彼女を元の世界に戻すにはその境目を一時的にでも破壊する必要があり、そのためには……命を懸けるほどの魔力が必要だと」


 リュミエルもその言葉には頷いた。


「その通りだ。だが、いいのかい? 術式を編むのは俺だ。俺がそのまま魔力を使用する選択肢だってある。それを、」

「お前にそれだけの義理はないだろう。リュミエル」


 自嘲めいた表情がヒースに浮かぶ。


「怒りにめくらになっていようと、それくらいは分かっている。本来お前にマナミを助ける義理はない。そうしたのは彼女が俺に手を差し伸べたからだろう」


 口をつぐむリュミエルの返事を待たず、ヒースの言葉は続いた。


「なら代償は俺が受ける。……それくらいしか、今の俺は彼女にしてやれない」

「ヒース」


 強い口調で名を呼んだリュミエルは、けれどもややしてから弱い声で再度口を開く。


「二つ聞かせてくれ。……まず一つ。今のヒースは、人をどう思っている?」


 その問いに、ヒースは赤い瞳を伏せた。


「……嫌いではない。この期に及んでも、お前を含めた人間を、憎いとは思っていない。マザーは精霊とそれを信奉する人間をおぞましいものだと考えていたが、それでも。騎士団での生活は良いものだった」

「そうか。……お前がそう思ってくれていたのは嬉しいよ」


 ほんの少しだけ、リュミエルが笑みを浮かべる。ヒースはそれを見て目を丸くしてから、何も言わずに俯くだけだった。


「じゃあもう一つの質問だ。仮にマナさんが帰ることを選ばなかった場合、お前は一体どうしたい?」


 ──が、その顔は問いかけにはじかれたように上がる。

 ヒースは口をはくはくと動かして、やがて黙り込んでしまった。


「彼女の自由意思を尊重しろと、以前お前は俺に言ったね。なら、彼女が自分の意思でここに残ると決める可能性もある」

「……たとえ、そうなったとしても、俺はもう彼女とはいられないだろう」

「なぜ?」


 絞り出すようなヒースの言葉に再度リュミエルが問いかければ、次第に彼の顔は苦いものへと移り変わる。


「……俺は人ではない。お前が屠ったものと同じ、魔族……鎧鷲獅子(アウラグリフォン)だ」

「……」

「彼女が残るにしても、それは人の世界でだ。なら、俺が彼女の傍にいるのは迷惑になる。……どこか遠くの、人の来ない場所で残りの寿命を彼女が幸せになれるよう祈りながら過ごすだけだ」




「ふざけないでください!!」


 ()は勢いよく扉を開いた。大きな音にこちらを見たヒースさんは、普段は見せないほど大きな口を開けている。


「…………マナ、ミ。どうして、ここに」

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