第43話 エピローグ ハロー・グッドバイ
目を覚ますと、真っ暗な空間にいた私は、真っ白な空間にいた。
どうやら時空間移動を果たしたようだ。
どうしよう。SF小説は趣味じゃないんだけど。よくわからんし。星を継ぐものみたいなのだったらギリいけるけど。
……なーんて。
左右を見渡してみれば、私は病院の一室にいるようだった。個室らしい。傍らには超猫背で一心不乱にミステリー小説を読みふけっているお母さんがいた。背表紙を見てみれば、中津先生の『病院と美容院』だった。
肌が弱く夏が苦手なお母さんは今日も薄手の白いカーディガンを羽織っていた。脚を丸椅子のパイプ部分に引っ掛けて。
後ろからトン、と押せばそのままひっくり返りそうなほどの前のめり。
ていうか、家でお母さんが夢中になってそのままひっくり返っている姿を私はよく見る。
「危ないよ、お母さん」
「!?」
ぱあっと瞳を見開くお母さん。そして言葉を発することなく、小説を私の足元に伏せると、病室を飛び出して行った。ドアは開けたままで。
「?」
お母さんは無口だ。
おじいちゃんおばあちゃんからも、よくこの子から千真ちゃんみたいな元気な子が生まれたねえと家に行くたんび言われるくらいに。
壁に掛けられた時計を見る。十二時四十分を指していた。首を伸ばして窓の外を見てみた。
たぶん桜――の木が青々とした葉を繁らせ、風で左右に揺れている。穏やかな夏の午後って感じ。シーツが気持ちいい。クーラー最高。
「ん」
服が汗でべたべたのそれから変わっていた。患者衣ってわけじゃない。私服だ。たぶんお母さんが着替えさせてくれたんだ。
はあーあー。
気持ちいい。服が。肌が。空気が。快適だ。空腹による不快感はあるけど。
あの地獄に比べたら。
……逆か。文字通りの天国だったな。実際のところ灼熱地獄だったけど。
はあ。
「ダメだったかぁ、私。情けないなぁ、私ぃ」




