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【HIDDEN WORLD】  作者: Meafuls CAT Studio@猫のような生き物
【旅の始まり〜出会い編】
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第3話 魔物との会敵

 遂に現る”魔物”。



 とある森林の開けた地にて──ナナは、突如、姿を現したトカゲのような風貌の巨大な魔物──”グリーンリザード”と相対していた。


 鞘から引き抜いた剣を構える。




『シャギィ!!』


 そんななか、ギョロッ、と赤い眼でナナを捉え、先に動き出したのはグリーンリザード。

 (せわ)しなく、その四足の四肢を動かしながら這うようにナナへ迫り、口を大きく開け、正面より突っ込んでくる。


 対してナナは、一直線上に突っ込んでくるグリーンリザードを冷静な目で捉えると、それを左横へ跳ぶことにより避けた。

 そして──そのまま勢い余ったかのように通り過ぎていくグリーンリザードを見て、その背後から斬りかかるため、グリーンリザードの背へ迫る。


 だが、グリーンリザードは尻尾を激しく振ることにより、ナナを近づけさせない。

 ナナは近づくことをやめ、咄嗟(とっさ)に後退。


「さて、どうしたもんか。」


 後退した後、落ち着いたように呟き、グリーンリザードを再び目線の先に捉える。

 グリーンリザードも頭と尻尾の位置を入れ替えるかのように振り返り、そんなナナへ眼を向けた。


 三秒ほどの間を置き、グリーンリザードが再度、迫ってくる。

 それを見たナナは、また横へ跳んで避けようと、姿勢を低く構えようとするが──不意に、間合いを詰めてきたグリーンリザードの前足に当たる部分が浮いた。


「…………!」


 グリーンリザードの爪が鋭く光る──。


 ナナは咄嗟(とっさ)の判断で、横ではなく後ろへ跳んだ──。


 グリーンリザードの爪が(くう)を裂く──。


「…………。」


 なんとかグリーンリザードの()()きを避けたナナは、自身の後方へ着地。再び剣を構え、グリーンリザードと相対する。


(……来い……!)


 同時に、心の中でそう声を上げ、グリーンリザードを待ち構える。


『シャァア!!』


 それに応えるように、グリーンリザードもひと鳴き。と共に、口を大きく開けながら、ナナへ目掛け突っ込んだ。


『シャッ!!』


 瞬間──バグッ、と口が閉じられ、ナナに一瞬の風が吹きつける。


「…………。」


 ナナの黄色(おうしょく)の瞳と、ギョッ、としたような赤い片眼(かため)が交差する。

 体を横へ傾けるかのようにグリーンリザードの噛みつきを避けたナナは、グリーンリザードの顔──真横を位置取っていた。


 同時に、ナナにより掲げられた白銀の刃が、グリーンリザードの顔横へ斜めに流れる。


 直後──鋭い音が辺りに響いた。


『シ──シャ──シャ──……!』


 グリーンリザードが顔を上げ、体を震わせ、声にならない声を上げ、悶絶する。その赤い眼から生気が無くなっていく。

 そうして、グリーンリザードは(しばら)く悶絶すると、巨体を伏せるようにして、力なく地面へと倒れた。


「…………。」


 それを確認したナナは、剣を鞘へと仕舞う。

 一匹だったこともあり、特に苦戦を()いることなく倒すことができた。だが、ナナにとって魔物との戦いは日常の一部。特に勝利の余韻(よいん)に浸ったりはしない。


「……行くか。」


 可愛げなく呟き、ナナは先を急ごうと歩き始める。

 だが、その時──せっかく、この場から立ち去れると思われていたナナの足が、またピタリと止まった。


 その理由は、複数の視線と気配──。


 今まで、()()との戦いで気がつかなかった。

 高台──草むら──木々の間──進行方向──。ありとあらゆる場所から、グリーンリザードが顔を出す。


 そう──ナナは(すで)に、”群れ”に囲まれていたのだ。


「こいつら……今まで潜んでやがったのか……!」


 それに気がつかなかった自分の落ち度を恨むかのように、ナナが思わず声を上げる。


 ──迂闊(うかつ)だった……!


 グリーンリザードは統率が執れるほど、頭のいい魔物だ。

 先程のグリーンリザードは群れの一番下っ端による偵察か……。でなければ、双方、戦いで衰弱したところをハイエナのように狙っていたか……。


 どちらにしろ、機が熟すまで様子を(うかが)われていたことになる。

 そして、こちらが呑気に一対一をしている間に、密かに包囲網を張られてしまっていたわけだ。


 不意に、グリーンリザードたちの奥のほうへ目を向けると、真っ赤な体を目立たせた、一匹のトカゲの魔物と目が合った。


「……”レッドリザード”。」


 グリーンリザードの時よりも警戒を込めて対する。




“レッドリザード”

 グリーンリザードの上位種で色違い。体、眼、舌までの全てが返り血のように赤く染まっている、トカゲのような風貌の魔物。稀に、グリーンリザードの群れに紛れ、統制を執っているケースがある。




 グリーンリザードたちに囲まれ、レッドリザードと目が合ったナナは冷や汗混じりに呟く。


「まずいな……。レッドリザード一匹ならまだしも、グリーンリザードがこの数じゃ、さすがにキツいぞ。」


 前にも少し述べたかもしれないが、この辺りの魔物は然程(さほど)強くはない。レッドリザードも一匹だけであれば、そこまで苦戦を()いる相手ではないことは、10年の経験が知っている。


 だが──数が増えれば別問題。


 群れでの狩りとは生き物の常套(じょうとう)手段であり、何より効率と成功率──そして、個人の生存率を上げる手段である。

 実際にも、複数人でパーティーやチームを組んでいる者たちより、ナナのように一人で行動している者のほうが、魔物による敗北率は高い。加えて、魔物狩りに慣れ始めた冒険者の最も多い死因が、不意に現れた魔物の群れに襲われたことによる死亡だ。


 どの世界でも、”数”は”力”に直結する。


「…………。」


 ナナは全てのリザードたちに全神経を向けながら、再び剣を引き抜いた。


(何匹か倒して、隙を作り逃げるのが妥当(だとう)か……。)


 打開策を思案しながら、剣を構える。

 それを合図とするように、グリーンリザードたちが一斉に鳴き声を上げた。


『シャアァ!!』


 氷上のアザラシを狙うかのように、一同にナナへ目掛け飛びかかる。

 あるリザードは爪で引き裂こうと──あるリザードは牙で喰らいつこうと──あるリザードは巨体で体当たりを仕掛けようと──各々手法は違うものの、狙うは皆一様に一人の獲物だ。


 だが、獲物──ナナは手強かった。


 各々の手法を(もっ)て狩りをせんと狙うリザードたちを最低限の動きで回避して回り、隙ができれば、それを狙い剣を振るう。

 リザードたちは、ただの獲物であるはずの小さな人間に翻弄されるかのように、向かっていったものから次々と切り傷を付けられていた。


 だが──それまで、その模様を黙って眺めていたレッドリザードが、不意に、部下共では相手にならんか、といったふうに満を持して動き出すと、グリーンリザードたちをあしらっているナナの背後へ──とまっている蝶を狙うかのようにゆっくりと近づいた。

 後ろの二本足で器用に立ったかと思えば、虫取り網をそっと構えるかのように、大きく口を開けながらナナへ迫る。


「…………!」


 しかし、ナナは一瞬、不意を突かれつつも、自身へ巨大な影が覆ったことによりレッドリザードの存在に気がつくと、間一髪、噛みつかれる寸前でそれを回避。

 バグッ、と地面スレスレを噛んだレッドリザードは、その手応えのなさに顔を上げる。


 に、対して──。


(こいつをなんとかするしかないようだな……!)


 地面をズザァァァ、と靴底で滑り着地したナナは、滑りを耐えると同時にレッドリザードへ駆け出した。

 途中、グリーンリザードの()()きや尻尾による()ぎ払いを避け、レッドリザードへ飛びかかるように刃を向ける。


『キシャア!!』


 レッドリザードも熊のように器用に立った体勢のまま、向かってくるナナへ前足の爪を振り下ろした。


 瞬間──剣の刃と赤から振り下ろされる白き爪が衝突する。

 ギィギィ、ギリギリという感触と衝撃に、人間と魔物の壁を越え、互いに力を込め合い、鍔迫(つばぜ)り合う。


「くっ……!」


 その鍔迫(つばぜ)り合いに、思わず歯を食いしばる。

 だが、その食いしばりが功を奏したのか、十秒経たずして、互いに相殺(そうさい)していた力関係が崩れた。ナナが一気に剣を振り切り、レッドリザードの爪を弾き返す。


『キシャ!?』


 前足を弾き返されたレッドリザードが思わぬ衝撃にバランスを崩し、後方へひっくり返るように倒れていく。


 それを見届けたナナは──。


(よし……! チャンスだ!)


 瞬時に剣を持ち直し、トドメを刺すため、倒れたレッドリザードへ迫っていった。

 しかし瞬間、そんなレッドリザードを守るかのような、その他のグリーンリザードの攻撃により、ナナの行動が阻害される。


(くそ……!)


 グリーンリザードの攻撃を避けることを余儀なくされたナナは、避けた後に悔しそうな表情でグリーンリザードを睨みつける。

 そして、駆け出し──。


「邪魔だ!」


 勢いのまま、二匹のグリーンリザードを斬った。それにより、二匹のグリーンリザードが地面へ伏せる。


 勝利のひと息も(つか)の間──しかし、不意に、ナナの横目に赤く長い物が映った。


「…………!」


 勢いよく向かってきたそれは、ナナの胴を覆うくらいの巨大な物体。鞭のように(しな)りながら迫ってくる。


 ナナは咄嗟(とっさ)に、剣の腹で向かってくる物体を抑えるかのように受けるが、その衝撃に思わず顔と体が歪む。

 結局、勢いを止め切ることはできず、歯を食いしばりながらも木々のほうまで吹き飛ばされてしまった。


 ……………


 そんな、吹き飛んだナナの方向を見詰めるのは、真っ赤な体を持つ巨大な魔物──レッドリザード。反動を流すかのようにブンブンとその真っ赤な尻尾を振っていた。


 もはや言わずもがな。ナナを吹き飛ばしたのは、レッドリザードによる尻尾の()ぎ払い。

 やはり、四足歩行のほうが安定すると知ったらしく、ノソノソと四肢を動かしながら、弱った獲物を狙うかのようにじっくりとナナへ近づいていく。


「…………。」


 対してナナは、軽い土埃の中、服に付いた土を払いながら立ち上がる。

 そして、助走をつけるかのように徐々にスピードを上げ迫ってくるレッドリザードに相反し、ナナは軽く(まぶた)を伏せると、ひとつ──深呼吸をした。


『キシャアァ!!』


 ナナの眼前に迫るレッドリザード。威圧的な鳴き声と、荒い息遣いがナナを覆った──瞬間──ナナは唐突に(まぶた)を起こし、自身の(たずさ)えていた白銀の剣を横へ素早く振った。


『キ……キシャ……!』


 ナナを覆った貪欲な息遣いが悶絶による悲鳴へと変わる。

 レッドリザードがのたうち回るかのように体を左右へ振り、天へ助けを求めるかのように顔を大きく上げたその首筋には、ナナの剣による鋭い一線が刻まれていた。


 そうして──やはり(しばら)くの悶絶の末、レッドリザードも力なく地面へ、伏せるように倒れることとなった。


 ナナはそれを見詰め、構えていた剣を下げる。

 同時に、グリーンリザードたちのほうへ目を向けると、グリーンリザードたちはナナの黄色(おうしょく)の瞳に、一歩身を退いていた。


 グリーンリザードたちは感じ取ったのだ。あの人間は、体では測れないほどの大きな存在であると──。


 獲物ではなく敵──いや、限りになく捕食者に近い存在だと──。


 今日、初めて見せた敵対以外の反応に、勝負は完全についたかに思われた。






 ……………






 だが、その時──。






 ナナの背後で──。






 血を光に変えたかのような真っ赤な二つの眼が(きら)めいた。






 いつの間にか起き上がっていたレッドリザードが再び熊のように立ち上がり、先程の攻撃を倍にして返してやる、と言わんばかりに煌々(こうこう)とナナを見下ろしていたのだ。




「…………!」


 ナナはその気配にハッとし、「しまった……!」といった表情で振り返るが──直後、レッドリザードの掲げた爪が鋭く光る。






 ……………






「はやあぁぁーー!!」


 しかし、その瞬間──突如、森の中から何かが勢いよく駆けてきたかと思えば、子どものような高い掛け声と共に、桜色に身を包んだ少女が宙へ飛び出した。

 桜色の少女の先には、ナナを見下ろすレッドリザード。少女は宙に飛んだ勢いを乗せると、なんと、そのままレッドリザードの頬へ目掛け蹴りを入れた。


「…………!」


 ナナはその光景に、まるでスローモーションがかかったかのように、倒れゆくレッドリザード及び、少女を唖然と見上げる。


『シャ!?』


 レッドリザード自身も、まさか自分が人間の少女に蹴られるなどとは予期していなかったのか、痛みよりも、どこか驚愕したような表情と衝撃に顔を歪ませながら、横向きに勢いよく倒れていった。


 少女は華麗に地面へと着地。一連の流れにハッとしたかのように、グリーンリザードたちが物凄い勢いで逃げていく。

 思わず唖然としていたナナも、その一連の情景に一瞬、思考が停止しかけたが、落ち着いて冷静を保った。


 いくらナナの攻撃が効いていたとはいえ、あの巨体を持つレッドリザードを蹴りで一発KO(ケーオー)させた、この少女──。


「危ないところだったねっ!」


 振り返ると同時に、その桜色の髪を緩やかに揺らし、ナナへ屈託のない笑顔を向けた。

 桜色の髪はミディアムヘアと呼ばれるくらいの長さだろうか。毛先が肩に触るかたちで、ふわっ、と小柄な顔を包み込んでいる。


 そして、何より、こちらへ向けられる純粋無垢な真っ白な笑顔が眩しい。

 (たと)えとして『子どものような純粋な笑顔』という表現が思い浮かんだが、彼女は普通に子どもと見えた。十代前半くらいだろうか。文明社会でいう中学生──小学生高学年くらいの年齢にも見える。


 笑顔で言葉を述べた少女へ、ナナは冷静に返す言葉を選んだ。


「……あぁ、助かったよ。」


 言葉は至って冷静だが、その内心の驚きは、まだ消えていない。

 ナナは不意に、彼女の服装に注目した。


 髪と同様の桜色──(ある)いは、いちごミルク色とも表現できる、鮮やかでふわふわとした質感のパーカーのような服は、どこか子どもっぽいが、小柄で明るそうな彼女の見た目に合っている。だが、少し大きめなのか、手のひらの半分ほどが袖に隠れていた。

 腰上辺りに巻かれた薄い黄色と明るい黄色を縞々(しましま)に交えた帯状のブランケットは、どことなく茹でエビのようなものを連想させ、ふわふわの服の上からベルトのように、左腰辺りでキュッ、と軽く結ばれている。


 フードの大きさを調整するために襟から伸びた二本の紐の先には、三日月を模した形の黄色い飾りが鏡合わせになるように付いており、桜色の服の両脇腹辺りにも、桃色の三日月の模様が左右対称に、服の色合いに溶けるかのように施されている。だが、服の三日月模様に関しては、腰上辺りで巻かれたブランケットに半分ほど隠れてしまっていて、少々見えづらい。


 ほかに目立つ色は赤色だろうか。膝上辺りまで丈のある明るい赤色の短パンに、靴から靴下までが赤色だ。


「うん! 無事で良かったよ!」


 そして、パッチリと開いた大きな瞳は、透き通り悠々(ゆうゆう)と広がる快晴を思わせる、鮮やかな空色をしていた。




 ──さて、この疑問を投げかけるべきだろうか。


 助けてもらった相手に、「あなたは子どもですか?」なんて訊くわけにはいかない。魔物を倒すほどの力はある。年で人を測るものじゃない。




 ──いや、これでは子どもと決めつけていることになる。一回、冷静になろう。




「……ところで、君は?」


 とりあえず、適当に素性を訊いてみる。

 それに対して桜色の少女は、無垢な笑顔を崩さず答えた。


「僕は”ルナ”だよ!」


 “ルナ”と名乗った少女は、次にお返しといったふうに、ナナにも訊き返す。


「君は?」


 その問いかけにナナは──。


「俺はナナだ。さっきは本当に助かったよ。」


 もう一度礼を添えて、名乗った。

 ルナが満面の笑みを向ける。


「うん! よろしく! ナナ!」


 そう放った言葉には歪みの欠片も感じさせなかった。


 呑気な自己紹介を終えたナナは、不意に辺りを見渡す。


「……とりあえず、ここを離れようか。またリザードたちが来るかもしれないし。」


 周りに魔物の気配がないことを確認しながら、ルナへ目を向け提案する。


「分かった!」


 その言葉にルナは、「賛成!」といったふうに手を上げ、快く了承するのであった。




 ……………




 この出会いに始まり、ナナの人生──そして、ルナの人生が大きく動き出すこととなる。




………to be continued………




───hidden world story───

 桜色の少女──”ルナ”とは一体……。

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